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第5章 17歳の愛し子
10 ルロワ公爵家にて
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「あの大聖女が何か企んでいる?」
視察を終えてルロワ公爵家に帰ってきたソラにアリシラローズは今日のことを説明した。アリシラローズと二人きりの寝室でのことなので、ソラは全く口調をとりつくろわない。
「俺がローズを捨ててあの女を妻に迎えるだって?万に一つもあり得ないだろう。」
「…姉のこと、綺麗だとは思わなかったの?」
「お前はきれいだと思うのか?派手な化粧に衣装の年増だろう?」
「私もあと四年であの年になるんだから、年増だなんて言わないでよね。」
思わず可愛げがないことを言ってしまったが、ソラが全くマルシャローズに興味がないことは安心した。
「臭いしな。ロージーを港に迎えに行った時と同じぐらい臭かった。」
「ちょっと!」
港に迎えに行ったとき、というのはもう10年も前のことだ。東の島国に到着したとき、もう長いことお風呂に入れていなかったので婿候補が港に迎えに来てくれていると聞いたアリシラローズは匂いを気にして大量の香水を身にまとっていたのだ。
それが全く島国では全く馴染みのない匂いだったために、対面したソラに開口一番「臭い」と言われてしまったのだ。隣にいた彼の兄は優しい笑顔を崩さなかったのに。
「私とあなたのことは気にしていないわ。もし、私に何かあっても、代わりの嫁なんていらないって言うでしょうし、あなた。」
「もう子供も四人もいるしな。もっと増えてもいいけど。」
ソラはしれっとそういうことを言う。アリシラローズもしれっとスルーする技を身に付け……られなかったのでちょっと赤面して咳払いした。
「心配なのはクリスローズよ。あの子が傷つくような方法で大聖女を押し付けようとするんじゃないかって心配なの。リスクは言い聞かせておいたけれど、何があるかわからないじゃない。舞踏会が心配だわ。」
「クリスはお前が心配するほど弱くもないと思うが…。」
ソラがクリスのことをよくわかったように語るのは気に食わない。姉の私の方が詳しいのよ!という気持ちと、他の女に詳しいようなこと言わないで!という二種類の嫉妬がまざる。
「でも、そうだな。可愛い義妹のためだし、俺の手駒も動かしてあの女の弱みを握っておこう。舞踏会まで一週間だし、異国の地だからどこまで上手くいくかわからないが。」
そう言ってソラは天井に向かってちょちょいと手を振って、本国の言語で指示をだした。内容は「あの女を見張れ。企みの証拠になりそうなものは回収しろ。」というものだ。
もちろんアリシラローズも島国の言語は話せる。しかし、読み書きにはまだ不安が残る、というか、複雑で多様な文字を駆使しきれていない。
「ありがとう、ソラ。」
ソラはいつも通りの不遜な態度でアリシラローズを見やる。おもむろにアリシラローズの顔を両手で挟むと不思議そうな顔をした。
「にゃ、にゃに?」
「何でお前、あんな頭の悪そうな女から逃げて国を出たんだ?顔だってロージーの方が数倍美人だし、頭もいいだろう?柔じゃないいい性格してるじゃないか?」
ソラはほめるつもりで言っているわけじゃないが、内容は誉め言葉なので顔を真っ赤にして照れてしまう。ソラは逆に何で照れるんだという顔でアリシラローズの返事を待っている。
「今からは想像つかないかもしれないけれど、当時の姉は権力でなんでも意のままにできた我儘娘だったから…。それに、軟じゃないのはあなたに会ってからよ!当時は傷つきやすくて繊細だったの!」
ソラはいまいち信じていない顔で「ふーん」とアリシラローズの顔から手を放した。
「まあ、おかげで俺たちは夫婦になったわけだし、最善だったのかもな。」
「だからしれっとそういうこと言わないで!!」
視察を終えてルロワ公爵家に帰ってきたソラにアリシラローズは今日のことを説明した。アリシラローズと二人きりの寝室でのことなので、ソラは全く口調をとりつくろわない。
「俺がローズを捨ててあの女を妻に迎えるだって?万に一つもあり得ないだろう。」
「…姉のこと、綺麗だとは思わなかったの?」
「お前はきれいだと思うのか?派手な化粧に衣装の年増だろう?」
「私もあと四年であの年になるんだから、年増だなんて言わないでよね。」
思わず可愛げがないことを言ってしまったが、ソラが全くマルシャローズに興味がないことは安心した。
「臭いしな。ロージーを港に迎えに行った時と同じぐらい臭かった。」
「ちょっと!」
港に迎えに行ったとき、というのはもう10年も前のことだ。東の島国に到着したとき、もう長いことお風呂に入れていなかったので婿候補が港に迎えに来てくれていると聞いたアリシラローズは匂いを気にして大量の香水を身にまとっていたのだ。
それが全く島国では全く馴染みのない匂いだったために、対面したソラに開口一番「臭い」と言われてしまったのだ。隣にいた彼の兄は優しい笑顔を崩さなかったのに。
「私とあなたのことは気にしていないわ。もし、私に何かあっても、代わりの嫁なんていらないって言うでしょうし、あなた。」
「もう子供も四人もいるしな。もっと増えてもいいけど。」
ソラはしれっとそういうことを言う。アリシラローズもしれっとスルーする技を身に付け……られなかったのでちょっと赤面して咳払いした。
「心配なのはクリスローズよ。あの子が傷つくような方法で大聖女を押し付けようとするんじゃないかって心配なの。リスクは言い聞かせておいたけれど、何があるかわからないじゃない。舞踏会が心配だわ。」
「クリスはお前が心配するほど弱くもないと思うが…。」
ソラがクリスのことをよくわかったように語るのは気に食わない。姉の私の方が詳しいのよ!という気持ちと、他の女に詳しいようなこと言わないで!という二種類の嫉妬がまざる。
「でも、そうだな。可愛い義妹のためだし、俺の手駒も動かしてあの女の弱みを握っておこう。舞踏会まで一週間だし、異国の地だからどこまで上手くいくかわからないが。」
そう言ってソラは天井に向かってちょちょいと手を振って、本国の言語で指示をだした。内容は「あの女を見張れ。企みの証拠になりそうなものは回収しろ。」というものだ。
もちろんアリシラローズも島国の言語は話せる。しかし、読み書きにはまだ不安が残る、というか、複雑で多様な文字を駆使しきれていない。
「ありがとう、ソラ。」
ソラはいつも通りの不遜な態度でアリシラローズを見やる。おもむろにアリシラローズの顔を両手で挟むと不思議そうな顔をした。
「にゃ、にゃに?」
「何でお前、あんな頭の悪そうな女から逃げて国を出たんだ?顔だってロージーの方が数倍美人だし、頭もいいだろう?柔じゃないいい性格してるじゃないか?」
ソラはほめるつもりで言っているわけじゃないが、内容は誉め言葉なので顔を真っ赤にして照れてしまう。ソラは逆に何で照れるんだという顔でアリシラローズの返事を待っている。
「今からは想像つかないかもしれないけれど、当時の姉は権力でなんでも意のままにできた我儘娘だったから…。それに、軟じゃないのはあなたに会ってからよ!当時は傷つきやすくて繊細だったの!」
ソラはいまいち信じていない顔で「ふーん」とアリシラローズの顔から手を放した。
「まあ、おかげで俺たちは夫婦になったわけだし、最善だったのかもな。」
「だからしれっとそういうこと言わないで!!」
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