47 / 59
第5章 17歳の愛し子
10 ルロワ公爵家にて
しおりを挟む
「あの大聖女が何か企んでいる?」
視察を終えてルロワ公爵家に帰ってきたソラにアリシラローズは今日のことを説明した。アリシラローズと二人きりの寝室でのことなので、ソラは全く口調をとりつくろわない。
「俺がローズを捨ててあの女を妻に迎えるだって?万に一つもあり得ないだろう。」
「…姉のこと、綺麗だとは思わなかったの?」
「お前はきれいだと思うのか?派手な化粧に衣装の年増だろう?」
「私もあと四年であの年になるんだから、年増だなんて言わないでよね。」
思わず可愛げがないことを言ってしまったが、ソラが全くマルシャローズに興味がないことは安心した。
「臭いしな。ロージーを港に迎えに行った時と同じぐらい臭かった。」
「ちょっと!」
港に迎えに行ったとき、というのはもう10年も前のことだ。東の島国に到着したとき、もう長いことお風呂に入れていなかったので婿候補が港に迎えに来てくれていると聞いたアリシラローズは匂いを気にして大量の香水を身にまとっていたのだ。
それが全く島国では全く馴染みのない匂いだったために、対面したソラに開口一番「臭い」と言われてしまったのだ。隣にいた彼の兄は優しい笑顔を崩さなかったのに。
「私とあなたのことは気にしていないわ。もし、私に何かあっても、代わりの嫁なんていらないって言うでしょうし、あなた。」
「もう子供も四人もいるしな。もっと増えてもいいけど。」
ソラはしれっとそういうことを言う。アリシラローズもしれっとスルーする技を身に付け……られなかったのでちょっと赤面して咳払いした。
「心配なのはクリスローズよ。あの子が傷つくような方法で大聖女を押し付けようとするんじゃないかって心配なの。リスクは言い聞かせておいたけれど、何があるかわからないじゃない。舞踏会が心配だわ。」
「クリスはお前が心配するほど弱くもないと思うが…。」
ソラがクリスのことをよくわかったように語るのは気に食わない。姉の私の方が詳しいのよ!という気持ちと、他の女に詳しいようなこと言わないで!という二種類の嫉妬がまざる。
「でも、そうだな。可愛い義妹のためだし、俺の手駒も動かしてあの女の弱みを握っておこう。舞踏会まで一週間だし、異国の地だからどこまで上手くいくかわからないが。」
そう言ってソラは天井に向かってちょちょいと手を振って、本国の言語で指示をだした。内容は「あの女を見張れ。企みの証拠になりそうなものは回収しろ。」というものだ。
もちろんアリシラローズも島国の言語は話せる。しかし、読み書きにはまだ不安が残る、というか、複雑で多様な文字を駆使しきれていない。
「ありがとう、ソラ。」
ソラはいつも通りの不遜な態度でアリシラローズを見やる。おもむろにアリシラローズの顔を両手で挟むと不思議そうな顔をした。
「にゃ、にゃに?」
「何でお前、あんな頭の悪そうな女から逃げて国を出たんだ?顔だってロージーの方が数倍美人だし、頭もいいだろう?柔じゃないいい性格してるじゃないか?」
ソラはほめるつもりで言っているわけじゃないが、内容は誉め言葉なので顔を真っ赤にして照れてしまう。ソラは逆に何で照れるんだという顔でアリシラローズの返事を待っている。
「今からは想像つかないかもしれないけれど、当時の姉は権力でなんでも意のままにできた我儘娘だったから…。それに、軟じゃないのはあなたに会ってからよ!当時は傷つきやすくて繊細だったの!」
ソラはいまいち信じていない顔で「ふーん」とアリシラローズの顔から手を放した。
「まあ、おかげで俺たちは夫婦になったわけだし、最善だったのかもな。」
「だからしれっとそういうこと言わないで!!」
視察を終えてルロワ公爵家に帰ってきたソラにアリシラローズは今日のことを説明した。アリシラローズと二人きりの寝室でのことなので、ソラは全く口調をとりつくろわない。
「俺がローズを捨ててあの女を妻に迎えるだって?万に一つもあり得ないだろう。」
「…姉のこと、綺麗だとは思わなかったの?」
「お前はきれいだと思うのか?派手な化粧に衣装の年増だろう?」
「私もあと四年であの年になるんだから、年増だなんて言わないでよね。」
思わず可愛げがないことを言ってしまったが、ソラが全くマルシャローズに興味がないことは安心した。
「臭いしな。ロージーを港に迎えに行った時と同じぐらい臭かった。」
「ちょっと!」
港に迎えに行ったとき、というのはもう10年も前のことだ。東の島国に到着したとき、もう長いことお風呂に入れていなかったので婿候補が港に迎えに来てくれていると聞いたアリシラローズは匂いを気にして大量の香水を身にまとっていたのだ。
それが全く島国では全く馴染みのない匂いだったために、対面したソラに開口一番「臭い」と言われてしまったのだ。隣にいた彼の兄は優しい笑顔を崩さなかったのに。
「私とあなたのことは気にしていないわ。もし、私に何かあっても、代わりの嫁なんていらないって言うでしょうし、あなた。」
「もう子供も四人もいるしな。もっと増えてもいいけど。」
ソラはしれっとそういうことを言う。アリシラローズもしれっとスルーする技を身に付け……られなかったのでちょっと赤面して咳払いした。
「心配なのはクリスローズよ。あの子が傷つくような方法で大聖女を押し付けようとするんじゃないかって心配なの。リスクは言い聞かせておいたけれど、何があるかわからないじゃない。舞踏会が心配だわ。」
「クリスはお前が心配するほど弱くもないと思うが…。」
ソラがクリスのことをよくわかったように語るのは気に食わない。姉の私の方が詳しいのよ!という気持ちと、他の女に詳しいようなこと言わないで!という二種類の嫉妬がまざる。
「でも、そうだな。可愛い義妹のためだし、俺の手駒も動かしてあの女の弱みを握っておこう。舞踏会まで一週間だし、異国の地だからどこまで上手くいくかわからないが。」
そう言ってソラは天井に向かってちょちょいと手を振って、本国の言語で指示をだした。内容は「あの女を見張れ。企みの証拠になりそうなものは回収しろ。」というものだ。
もちろんアリシラローズも島国の言語は話せる。しかし、読み書きにはまだ不安が残る、というか、複雑で多様な文字を駆使しきれていない。
「ありがとう、ソラ。」
ソラはいつも通りの不遜な態度でアリシラローズを見やる。おもむろにアリシラローズの顔を両手で挟むと不思議そうな顔をした。
「にゃ、にゃに?」
「何でお前、あんな頭の悪そうな女から逃げて国を出たんだ?顔だってロージーの方が数倍美人だし、頭もいいだろう?柔じゃないいい性格してるじゃないか?」
ソラはほめるつもりで言っているわけじゃないが、内容は誉め言葉なので顔を真っ赤にして照れてしまう。ソラは逆に何で照れるんだという顔でアリシラローズの返事を待っている。
「今からは想像つかないかもしれないけれど、当時の姉は権力でなんでも意のままにできた我儘娘だったから…。それに、軟じゃないのはあなたに会ってからよ!当時は傷つきやすくて繊細だったの!」
ソラはいまいち信じていない顔で「ふーん」とアリシラローズの顔から手を放した。
「まあ、おかげで俺たちは夫婦になったわけだし、最善だったのかもな。」
「だからしれっとそういうこと言わないで!!」
34
お気に入りに追加
3,568
あなたにおすすめの小説
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?
バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。
カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。
そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。
ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。
意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。
「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」
意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。
そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。
これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。
全10話
※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。
※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。
※小説家になろう様にも掲載しています。
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです
もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。
この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ
知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ
しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる