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第5章 17歳の愛し子
5 教会にて
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マルシャローズの暮らす大聖女の部屋には神官長のラファエル・モローが訪れていた。
「そう、いらっしゃっている島国からの大使というのはアリシラの夫なのね?」
内心マルシャローズはほくそ笑んでいた。わざわざ遥か遠い野蛮な島国に嫁いだのに、王族の妻じゃなくて一貴族の妻になっているアリシラローズのことを滑稽だと思って。
「はい。本日この教会にも視察にいらっしゃられます。マルシャローズ様はお会いになる必要はありませんが、どうされますか?」
東の島国の交易品はマルシャローズも気に入って収集している。顔を見せてありがたがらせて、何か貴重な贈り物をもらうのはいい考えだ。
「アリシラローズも戻って来ているのよね?視察に同行しているの?」
「いいえ。アリシラローズ様は別行動です。」
アリシラローズには貴族婦人たちとの付き合いがあるのだが、社交を上手くできなかったマルシャローズにその考えは思い浮かばない。
夫婦仲はそんなに良くないのかしら。まあ、望んで嫁いだといっても野蛮な国の夫と四六時中いるのはしんどいわよね。と、都合よく解釈した。
マルシャローズが会う必要は全くないが、アリシラローズの夫の顔を見て、馬鹿にしてやりたい気持ちが強くわいてきた。というのも、最近のマルシャローズにはストレスが溜まりっぱなしだったから。
いきなり、『これ以上マルシャローズ様を支持することはできない』ですって?あの白騎士団長は何を考えているのかしら。
絶縁宣言ともとれる言葉をマルシャローズに言い渡したのは、聖女を守護する白騎士団のトップだ。以前はマルシャローズの教会への帰還を待ち望んでいた白騎士も、今は様子が違う。
マルシャローズの結界の粗がひどく、その全てを辺境中を旅してクリスローズが修繕するようになると徐々にマルシャローズへの態度を硬化させていった。
白騎士の配置にマルシャローズの意向は反映されなくなり、定期的にあった贈り物もなくなった。
クリスローズとは二年前に彼女が辺境へ旅立ったあの日以来あってはいない。きっと辺境でどろんこになり、学園で身に付けた美しさも失っていることだろう。
しかし、クリスローズが優秀な聖女であり、大聖女資格を持つことは変わりがない。それをマルシャローズ自らがクリスローズを辺境に送ることによって認めてしまった。
このままでは大聖女の座はあっというまにクリスローズに奪われてしまう。
マルシャローズはストレスを抱えていたがそれを晴らすための玩具が手元になかった。島国からの大使は久々の玩具になるかもしれない。
そう思って視察にやってくる大使と面会することを決めたのだった。
ー---
贈り物の織物の携えてやってきた大使の姿にマルシャローズは驚愕する。
「大聖女様、この度は拝謁が叶い恐悦至極にございます。東の島国より参りましたソラ・クジョーと申します。こちらの品は本国の交易品をいたく大聖女様が気に入ってくださっていると聞きおよび、持参いたしました。」
真っ黒な髪にはオールディの男たちには見られない艶があり、同じく特徴的な茶味がかった黒い瞳は長いまつげにふちどられていた。肌の色は黄みがかっており、それが大使の青年にオリエンタルな魅力をプラスしている。
背も高くはないが低くもない。すらりとしながら見る人が見れば鍛えられているとよくわかる体も、白騎士ばかりと陸みあってきたマルシャローズには新鮮で美しく見えた。
こ、これがアリシラの夫ですって…!?
「大使殿、素敵な贈り物をありがとうございます。大使殿は私の妹のアリシラローズを妻に迎えていらっしゃると聞いていますが、貴国でアリシラは不便をしていないですか?」
努めて妹を気遣う良き姉の印象を与えられるように、マルシャローズは大使のソラに声をかけた。
「はい。妻とは彼女が来航してから10年近い付き合いとなりますが、最初は苦労していた本国の文化や言語にも慣れ今はつつがなく暮らしております。」
「やはり、苦労していたのね。可哀そうなことをしてしまったわ。アリシラが貴国に行くことになったのは私のせいなの。今からでも変わってあげたいわ。」
マルシャローズはアリシラローズとソラの夫婦仲が良くはないという誤った推測の下に会話を展開している。ソラは全く表情には出さないが、『何言ってんだ、こいつ』という気持ちである。
「大聖女様が心配されていたことを妻にも伝えておきます。」
「大聖女様だなんて、どうぞマルシャと呼んでください。この後、一緒にお茶でもいかがですか?ぜひ貴国のお話を聞きたいわ。」
「大聖女様は大変お忙しい方だと伺っております。私もこの後別の視察がありますので、本日はこれにて失礼いたします。」
そんな、となんとか次の約束を取り付けようと口を開くマルシャローズに対して先手を切ってソラが続ける。
「恐れ多くも、国王陛下が私と妻のために舞踏会を開いてくださるそうです。その場には大聖女様も参加を検討されているとか。その際にお会いしましょう。」
通常大聖女は社交を免除されているが、国を挙げての晩餐や舞踏会には招待を受ける場合がある。今回はそれだ。そのように言われてしまうと、また今度と言って引き下がるしかなかった。
「そう、いらっしゃっている島国からの大使というのはアリシラの夫なのね?」
内心マルシャローズはほくそ笑んでいた。わざわざ遥か遠い野蛮な島国に嫁いだのに、王族の妻じゃなくて一貴族の妻になっているアリシラローズのことを滑稽だと思って。
「はい。本日この教会にも視察にいらっしゃられます。マルシャローズ様はお会いになる必要はありませんが、どうされますか?」
東の島国の交易品はマルシャローズも気に入って収集している。顔を見せてありがたがらせて、何か貴重な贈り物をもらうのはいい考えだ。
「アリシラローズも戻って来ているのよね?視察に同行しているの?」
「いいえ。アリシラローズ様は別行動です。」
アリシラローズには貴族婦人たちとの付き合いがあるのだが、社交を上手くできなかったマルシャローズにその考えは思い浮かばない。
夫婦仲はそんなに良くないのかしら。まあ、望んで嫁いだといっても野蛮な国の夫と四六時中いるのはしんどいわよね。と、都合よく解釈した。
マルシャローズが会う必要は全くないが、アリシラローズの夫の顔を見て、馬鹿にしてやりたい気持ちが強くわいてきた。というのも、最近のマルシャローズにはストレスが溜まりっぱなしだったから。
いきなり、『これ以上マルシャローズ様を支持することはできない』ですって?あの白騎士団長は何を考えているのかしら。
絶縁宣言ともとれる言葉をマルシャローズに言い渡したのは、聖女を守護する白騎士団のトップだ。以前はマルシャローズの教会への帰還を待ち望んでいた白騎士も、今は様子が違う。
マルシャローズの結界の粗がひどく、その全てを辺境中を旅してクリスローズが修繕するようになると徐々にマルシャローズへの態度を硬化させていった。
白騎士の配置にマルシャローズの意向は反映されなくなり、定期的にあった贈り物もなくなった。
クリスローズとは二年前に彼女が辺境へ旅立ったあの日以来あってはいない。きっと辺境でどろんこになり、学園で身に付けた美しさも失っていることだろう。
しかし、クリスローズが優秀な聖女であり、大聖女資格を持つことは変わりがない。それをマルシャローズ自らがクリスローズを辺境に送ることによって認めてしまった。
このままでは大聖女の座はあっというまにクリスローズに奪われてしまう。
マルシャローズはストレスを抱えていたがそれを晴らすための玩具が手元になかった。島国からの大使は久々の玩具になるかもしれない。
そう思って視察にやってくる大使と面会することを決めたのだった。
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贈り物の織物の携えてやってきた大使の姿にマルシャローズは驚愕する。
「大聖女様、この度は拝謁が叶い恐悦至極にございます。東の島国より参りましたソラ・クジョーと申します。こちらの品は本国の交易品をいたく大聖女様が気に入ってくださっていると聞きおよび、持参いたしました。」
真っ黒な髪にはオールディの男たちには見られない艶があり、同じく特徴的な茶味がかった黒い瞳は長いまつげにふちどられていた。肌の色は黄みがかっており、それが大使の青年にオリエンタルな魅力をプラスしている。
背も高くはないが低くもない。すらりとしながら見る人が見れば鍛えられているとよくわかる体も、白騎士ばかりと陸みあってきたマルシャローズには新鮮で美しく見えた。
こ、これがアリシラの夫ですって…!?
「大使殿、素敵な贈り物をありがとうございます。大使殿は私の妹のアリシラローズを妻に迎えていらっしゃると聞いていますが、貴国でアリシラは不便をしていないですか?」
努めて妹を気遣う良き姉の印象を与えられるように、マルシャローズは大使のソラに声をかけた。
「はい。妻とは彼女が来航してから10年近い付き合いとなりますが、最初は苦労していた本国の文化や言語にも慣れ今はつつがなく暮らしております。」
「やはり、苦労していたのね。可哀そうなことをしてしまったわ。アリシラが貴国に行くことになったのは私のせいなの。今からでも変わってあげたいわ。」
マルシャローズはアリシラローズとソラの夫婦仲が良くはないという誤った推測の下に会話を展開している。ソラは全く表情には出さないが、『何言ってんだ、こいつ』という気持ちである。
「大聖女様が心配されていたことを妻にも伝えておきます。」
「大聖女様だなんて、どうぞマルシャと呼んでください。この後、一緒にお茶でもいかがですか?ぜひ貴国のお話を聞きたいわ。」
「大聖女様は大変お忙しい方だと伺っております。私もこの後別の視察がありますので、本日はこれにて失礼いたします。」
そんな、となんとか次の約束を取り付けようと口を開くマルシャローズに対して先手を切ってソラが続ける。
「恐れ多くも、国王陛下が私と妻のために舞踏会を開いてくださるそうです。その場には大聖女様も参加を検討されているとか。その際にお会いしましょう。」
通常大聖女は社交を免除されているが、国を挙げての晩餐や舞踏会には招待を受ける場合がある。今回はそれだ。そのように言われてしまうと、また今度と言って引き下がるしかなかった。
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