わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

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第3章 12歳の公爵令嬢

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クリスは恐らくしてくれないので、聖カリスト学園の仕組みを説明しよう。

聖カリスト学園はもともと初等部、中等部、高等部の三つからなっていたが、現在は初等部はなくなっている。しかし、かつての名残で12歳で入学する三年間を中等部、15歳で入学する三年間を高等部と呼んでいる。
中等部にはほぼすべての貴族子女が入学し、三年間で様々なことを学ぶ。中でも低位の貴族の次男や女児は中等部で卒業し就職するため、必死に学んで良い成績を修めていく。
嫡男や高位貴族の令嬢は高等部に進学し、さらに深い教養を得る。就職先から支援をうけて高等部に進学するヒューゴのような例もある。


中等部は歴史や言語といった必修の授業と選択制の授業に別れており、選択制の授業は音楽、乗馬、外国語、令嬢向けの刺繍や令息向けの剣術、体術の授業などがある。


「令嬢は剣術の授業を受けちゃダメなの?ヤスミンが他に令嬢がいないなら選択しちゃいけませんって言うの。」

「どうだろう…。でも辺境伯家のご令嬢はうけてることがあるみたいだよ。」

今日の護衛はルイという一つ年上の黒騎士見習いで、男爵家の次男だ。ルイはクリスと聖女の強化術の訓練をしていたので、クリスが剣術をうけたがるのはわかる。だからダメとは決して言わない。

「辺境伯…。あ。」

クリスの脳裏に思い浮かんだのはイザベルだ。



ー---



「クリスローズ様、本当に剣術の授業を受けられるのですか?」

イザベルは心配そうな顔でクリスを見ている。クリスは綺麗なシルバーブロンドを編み込んでまとめ、動きやすいパンツスタイルだ。身長はイザベルよりも10cmは低い。
ちょっとつつけば飛んでいきそうな細さでもある。

イザベルから漂う不安の感情にクリスは首を傾げる。

「イザベル様、何でそんなに不安なの?」

「何でって…。クリスローズ様、本当に鍛錬の経験はあられるのですか?」

「もちろん。黒騎士団で見習いたちと一緒に訓練をしていました。」

イザベルから漂う疑いの感情。そして、同じく剣術を選択した周りの令息たちからも疑いの感情が押し寄せる。…なんでだろう?


「あ、クリス、無事に剣術を選択できたんだね。」

「よかったね。」

剣術は中等部の全学年合同であるため、二年生のテオドールとルイも参加していた。

「テオドール!ルイ!」

「あなたたち、クリスローズ様を愛称で呼び捨てるなんて無礼ですよ。」

安定のイザベルにテオドールとルイはたじたじとしているが、クリスは「二人は黒騎士団見習いだからいいんだよ!私たちを守ってくれる黒騎士になるんだから!」と二人をかばったが、「クリスローズ様、言葉遣いが乱れています。それに職業は身分をないがしろにする理由にはなりません。」と怒られた。

「お二人は見習いということは、クリスローズ様と鍛錬をされていたのですね?本当にクリスローズ様は剣術を選択して大丈夫なのですか?」

「ああ、全然大丈夫だと思いますよ。イザベル嬢。」

「私たちとも稽古になる程度には戦えます。」

テオドールとルイからはイザベルは格上の家の令嬢であるので自然と敬語になる。二人はちゃんと貴族の身分差を理解しているのだ。忘れてしまうのはクリスに対してだけである。

そしてイザベルはまだ疑っていた。


しかし、実際に始まってみれば、クリスは短いリーチでテオとルイと同じくらいのスピードで持久走を走り切り、打ち合いでは難なくイザベルの木刀を受け止めた。
それどころか、令息たちの木刀も受け止めて跳ね返していた。

「私は強化術を使えるから、それで足りないパワーを補っているの。強化術が鈍るといけないから、剣術の授業で訓練がしたかったの。」

「で、でも強化術というのは聖女様が騎士を強化するためのものですよね?自分も強化できるのですか?」

「うん。なんでみんなやらないんだろうね。」

それは、普通聖女とは守られる存在だからである。


こうしてクリスは剣術の授業で受け入れられた。



ー---



「クリスローズ様の歌が生で聞けるだなんて!」

その日の音楽のクラスはざわついていた音楽のクラスといっても教師がいるわけではない。もともと楽器や歌が得意な学生がそれぞれに練習するための時間だ。単位の取得条件に定期的な演奏会への参加が求められる。

クリスローズはピアノが得意だというニコレットに伴奏をしてもらってオールディーで有名な民謡を歌うことにした。ニコレットがいくつか候補を持ち寄ってくれてその中から選ぶ予定だ。
その初めての練習をその場にいた生徒たちが息をのんで見つめている。


『クリスが歌うんだー!』

『嬉しい―!!』

歌の精霊たちが周りで大騒ぎしている。ちょっと嫌な予感がしないでもないが、どうしようもないか、とクリスは楽譜に目を落とす。
大量にいる歌の精霊の全員に言うことを聞いてもらうのはなかなか骨が折れるし、人の目が多いところではあまり精霊と話さないように言われているので止めようがない。


「とりあえず、弾いてみるので歌ってみてくれますか?」

「わかった。…わかりましたわ。」


教会を出た今も毎朝の歌の練習は欠かしていない。クリスはすんなりと歌いだすことができた。できたのだが…。

『きゃー!!!!!』

『クリスー---!!!!』

『大好きー----!!!!』

歌いだした瞬間にまわりの歌の精霊たちが大騒ぎし始めた。クリスは慣れているので動揺せずに歌い続けられたが、周りはうっとり聞き惚れようとしていたので腰を抜かすことになった。


「クリスローズ様が…!光ってる!」

「あれは…お止めした方がいいのかしら…!」

そう、盛り上がった精霊たちはクリスの周りでキラキラと輝き、まるでクリスが発光したかのような光景を作り出したのだ。
周囲のざわつきに困惑しながら譜面から顔をあげたニコレットがクリスの光を至近距離で直視してしまってピアノを弾く手を止めて、目を手で覆った。

伴奏が終わったことに驚いたクリスが歌を止めてニコレットを振り返るとニコレットは手で顔をおさえてうずくまっている。

「ニコレット様!大丈夫ですか!?」

思わず駆け寄ってニコレットの顔を覗き込む。

「す、すみません。クリスローズ様は光っていらっしゃるのを直接見てしまって…。」

「そ、そんなに光っていましたか!すみません!」

ニコレットの目は強化術では治せそうになかったので、二人は最初の音楽の授業を抜け出して医務室に行かなければならなかった。


この話は一日で高等部を含む学園中に広がり、いかにクリスが大聖女としての素質があったのかを教会と縁が薄い貴族にまで知らしめた。

あとで歌の精霊たちに儀式のとき以外で発光させるのはやめてとクリスは必死にお願いすることとなる。


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