3 / 59
第1章 6歳の聖女
3
しおりを挟む
教会では聖女たちに一人一部屋の個室が与えられている。小さなベットと机とクローゼットがあるだけの小さな部屋だ。案内してくれた若い神官は「本当はクリスローズ様にはもっと大きな部屋が用意されていたのですが、大聖女様が…」とごにょごにょ言っていたが、クリスに不満はなかった。
むしろお掃除が楽そうでいい。
荷物を置いたら、聖女の制服に着替えて先輩聖女からの案内を受ける。自分で着替えて出てきたクリスに先輩聖女は驚いた顔をした。普通、貴族の家から来た聖女たちは最初、何も一人でできないからだ。
だから、少し大きな部屋で侍女を連れて生活している。
つまり、先ほどのマルシャローズの『侍女は送り返せ』という指示は完全な嫌がらせである。
「あなたの先輩を務めるエマよ。所属したての聖女は先輩について回ることで仕事を覚えるのよ。」
紹介されたのは金髪を三つ編みにした12歳ぐらいの聖女の女の子だ。
「クリスローズです!よろしくおねがいします!クリスってよんでください!」
先輩聖女・エマは元気なクリスの挨拶にあらと瞳を瞬かせた。「私、男爵家の出なんだけど、あなたを呼び捨てにしてもいいのかしら?」と気にしていたが、「せんぱいなんだから、よびすてじゃないとおかしいです!」というクリスに思わず笑顔になった。
「あなた、良い子なのね。公爵令嬢で、しかもあの大聖女様の妹だっていうから、不安だったの。」
「あの?」
「まあ、それはおいおいね。さ、聖女の一日を紹介するわね。」
エマの説明はこうだ。
まず、集合は朝の7時。この点からしてすでにマルシャローズの説明と違う。「朝5時!?そんなに早く起きてもやることなんてないわよ!水汲み!?ちゃんとその仕事をしてくれる下女さんがいるわよ!」とエマはご立腹だ。
朝食の前に朝の祈りの時間があると案内されたのは大聖堂だ。白髪に青い瞳の女性の美しいステンドグラスが飾られている。
「あのステンドグラスは初代大聖女様の姿なの。オールディに初めて結界を張ったお方よ。あなたも知ってるでしょう?」
「うん。アリシラおねえさまが絵本をよんでくれたよ。だいせいじょさまの絵がとてもきれいなの。」
「ここで朝の祈りを捧げるの。一年以上修行した聖女が朝の祈りには歌を歌うんだけれど、あなたはまだ歌わなくて大丈夫よ。一番後ろで先輩たちの歌を聴いていて。」
「お祈りは歌なの?」
「ええ。あなた、建国祭で大聖女様が”祈りの結界”をはるところは見たことがある?」
「うん。だいせいじょさまがお歌を歌ってるの聞いた。」
「そう。小さな結界は歌を歌わなくてもはれるけど、大結界は歌を歌わないとはれないの。朝の祈りは大結界を維持するための祈りだから歌が必要なのよ。」
大結界になぜ歌が必要なのか、それはまだ結界術を使ったことのないクリスにはわからなかったが、とりあえず「うん」と頷いた。
「朝の祈りの後は食堂で朝ごはんよ。みんなで一緒に食べるの。今この教会にはあなたを含めて15人の聖女がいるわ。」
「聖女は15人しかいないの?」
「まさか!辺境に行けば辺境で結界を守る”辺境聖女”がたくさんいるわ。平民出の聖女の多くは”辺境聖女”ね。」
朝食の後は歌の練習がある。最初の三年間は欠かさずに毎日、歌の練習をするのだ。三年目のエマも歌の稽古を受けており、講師には有名な歌い手が来てくれるらしい。
休暇をとって帰省をしている間も欠かさず歌の稽古をする必要がある。練習をさぼるとすぐにバレてしまうそうだ。
「せいじょも休暇をとれるの?」
「もちろんよ!家族に会いたいでしょ?交代でお休みをとるから、クリスマスとか、希望通りに休暇を取るのは難しいかもしれないけれど。」
「でもだいせいじょさまにせいじょに休日はないっていわれて…。」
「また、あの人ね!!」
エマはむっとした顔をしたが、大きな不満があるらしい。しかし、言葉にはせずにぐっと押し黙った。
昼食の時間は11時から14時の間、夕食は17時から20時の間、お風呂は大浴場で20時から22時の間と決まっているが、その後に下働きの女性たちの使用時間があるそうで、多少遅れても食べれない・使えないというわけではないそうだ。
「最初の一年は修行で結界術を使えるようにならないといけないから、任務みたいなものはないわ。任務については初任務の前にまた教えてあげるわね。」
クリスはまず結界を出せるようになるための訓練を受けなければならない。聖女の日常の説明の後、早速初回の修行が始まった。
ー---
「聖女判定はクリスも受けたことがあるでしょう?」
エマは石板を一枚出してきて机の上に置いた。それは聖女判定の際に、結界術に素養があるかを確認するための石板で、クリスも5歳の時に初めて手を乗せて光らせることができた。
「手を置いてみて。」
言われた通りに手を置くと石板が柔らかく光り、同時に体の中をピリピリしたものが巡った。
「何か、体の中がピリピリしない?」
「うん。」
「何かが石板の方に流れて行ってない?」
「なんか手のひらがぞわぞわする。」
「そう!クリスは優秀ね!」
エマに「じゃあ手を放して」と言われて手を放す。
「今のぞわぞわを石板無しで出すのが最初の修行よ!」
「…どうやって出すの?」
「体の中を巡らせて、手に持っていくのよ!ぎゅーって!」
エマの説明は6歳のクリスでなくても意味不明だった。
むしろお掃除が楽そうでいい。
荷物を置いたら、聖女の制服に着替えて先輩聖女からの案内を受ける。自分で着替えて出てきたクリスに先輩聖女は驚いた顔をした。普通、貴族の家から来た聖女たちは最初、何も一人でできないからだ。
だから、少し大きな部屋で侍女を連れて生活している。
つまり、先ほどのマルシャローズの『侍女は送り返せ』という指示は完全な嫌がらせである。
「あなたの先輩を務めるエマよ。所属したての聖女は先輩について回ることで仕事を覚えるのよ。」
紹介されたのは金髪を三つ編みにした12歳ぐらいの聖女の女の子だ。
「クリスローズです!よろしくおねがいします!クリスってよんでください!」
先輩聖女・エマは元気なクリスの挨拶にあらと瞳を瞬かせた。「私、男爵家の出なんだけど、あなたを呼び捨てにしてもいいのかしら?」と気にしていたが、「せんぱいなんだから、よびすてじゃないとおかしいです!」というクリスに思わず笑顔になった。
「あなた、良い子なのね。公爵令嬢で、しかもあの大聖女様の妹だっていうから、不安だったの。」
「あの?」
「まあ、それはおいおいね。さ、聖女の一日を紹介するわね。」
エマの説明はこうだ。
まず、集合は朝の7時。この点からしてすでにマルシャローズの説明と違う。「朝5時!?そんなに早く起きてもやることなんてないわよ!水汲み!?ちゃんとその仕事をしてくれる下女さんがいるわよ!」とエマはご立腹だ。
朝食の前に朝の祈りの時間があると案内されたのは大聖堂だ。白髪に青い瞳の女性の美しいステンドグラスが飾られている。
「あのステンドグラスは初代大聖女様の姿なの。オールディに初めて結界を張ったお方よ。あなたも知ってるでしょう?」
「うん。アリシラおねえさまが絵本をよんでくれたよ。だいせいじょさまの絵がとてもきれいなの。」
「ここで朝の祈りを捧げるの。一年以上修行した聖女が朝の祈りには歌を歌うんだけれど、あなたはまだ歌わなくて大丈夫よ。一番後ろで先輩たちの歌を聴いていて。」
「お祈りは歌なの?」
「ええ。あなた、建国祭で大聖女様が”祈りの結界”をはるところは見たことがある?」
「うん。だいせいじょさまがお歌を歌ってるの聞いた。」
「そう。小さな結界は歌を歌わなくてもはれるけど、大結界は歌を歌わないとはれないの。朝の祈りは大結界を維持するための祈りだから歌が必要なのよ。」
大結界になぜ歌が必要なのか、それはまだ結界術を使ったことのないクリスにはわからなかったが、とりあえず「うん」と頷いた。
「朝の祈りの後は食堂で朝ごはんよ。みんなで一緒に食べるの。今この教会にはあなたを含めて15人の聖女がいるわ。」
「聖女は15人しかいないの?」
「まさか!辺境に行けば辺境で結界を守る”辺境聖女”がたくさんいるわ。平民出の聖女の多くは”辺境聖女”ね。」
朝食の後は歌の練習がある。最初の三年間は欠かさずに毎日、歌の練習をするのだ。三年目のエマも歌の稽古を受けており、講師には有名な歌い手が来てくれるらしい。
休暇をとって帰省をしている間も欠かさず歌の稽古をする必要がある。練習をさぼるとすぐにバレてしまうそうだ。
「せいじょも休暇をとれるの?」
「もちろんよ!家族に会いたいでしょ?交代でお休みをとるから、クリスマスとか、希望通りに休暇を取るのは難しいかもしれないけれど。」
「でもだいせいじょさまにせいじょに休日はないっていわれて…。」
「また、あの人ね!!」
エマはむっとした顔をしたが、大きな不満があるらしい。しかし、言葉にはせずにぐっと押し黙った。
昼食の時間は11時から14時の間、夕食は17時から20時の間、お風呂は大浴場で20時から22時の間と決まっているが、その後に下働きの女性たちの使用時間があるそうで、多少遅れても食べれない・使えないというわけではないそうだ。
「最初の一年は修行で結界術を使えるようにならないといけないから、任務みたいなものはないわ。任務については初任務の前にまた教えてあげるわね。」
クリスはまず結界を出せるようになるための訓練を受けなければならない。聖女の日常の説明の後、早速初回の修行が始まった。
ー---
「聖女判定はクリスも受けたことがあるでしょう?」
エマは石板を一枚出してきて机の上に置いた。それは聖女判定の際に、結界術に素養があるかを確認するための石板で、クリスも5歳の時に初めて手を乗せて光らせることができた。
「手を置いてみて。」
言われた通りに手を置くと石板が柔らかく光り、同時に体の中をピリピリしたものが巡った。
「何か、体の中がピリピリしない?」
「うん。」
「何かが石板の方に流れて行ってない?」
「なんか手のひらがぞわぞわする。」
「そう!クリスは優秀ね!」
エマに「じゃあ手を放して」と言われて手を放す。
「今のぞわぞわを石板無しで出すのが最初の修行よ!」
「…どうやって出すの?」
「体の中を巡らせて、手に持っていくのよ!ぎゅーって!」
エマの説明は6歳のクリスでなくても意味不明だった。
28
お気に入りに追加
3,559
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!


義妹が私に毒を盛ったので、飲んだふりをして周りの反応を見て見る事にしました
新野乃花(大舟)
恋愛
義姉であるラナーと義妹であるレベッカは、ラナーの婚約者であるロッドを隔ててぎくしゃくとした関係にあった。というのも、義妹であるレベッカが一方的にラナーの事を敵対視し、関係を悪化させていたのだ。ある日、ラナーの事が気に入らないレベッカは、ラナーに渡すワインの中にちょっとした仕掛けを施した…。その結果、2人を巻き込む関係は思わぬ方向に進んでいくこととなるのだった…。

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる