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第1章 6歳の聖女

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教会では聖女たちに一人一部屋の個室が与えられている。小さなベットと机とクローゼットがあるだけの小さな部屋だ。案内してくれた若い神官は「本当はクリスローズ様にはもっと大きな部屋が用意されていたのですが、大聖女様が…」とごにょごにょ言っていたが、クリスに不満はなかった。
むしろお掃除が楽そうでいい。

荷物を置いたら、聖女の制服に着替えて先輩聖女からの案内を受ける。自分で着替えて出てきたクリスに先輩聖女は驚いた顔をした。普通、貴族の家から来た聖女たちは最初、何も一人でできないからだ。
だから、少し大きな部屋で侍女を連れて生活している。

つまり、先ほどのマルシャローズの『侍女は送り返せ』という指示は完全な嫌がらせである。


「あなたの先輩を務めるエマよ。所属したての聖女は先輩について回ることで仕事を覚えるのよ。」

紹介されたのは金髪を三つ編みにした12歳ぐらいの聖女の女の子だ。

「クリスローズです!よろしくおねがいします!クリスってよんでください!」

先輩聖女・エマは元気なクリスの挨拶にあらと瞳を瞬かせた。「私、男爵家の出なんだけど、あなたを呼び捨てにしてもいいのかしら?」と気にしていたが、「せんぱいなんだから、よびすてじゃないとおかしいです!」というクリスに思わず笑顔になった。

「あなた、良い子なのね。公爵令嬢で、しかもあの大聖女様の妹だっていうから、不安だったの。」

「あの?」

「まあ、それはおいおいね。さ、聖女の一日を紹介するわね。」


エマの説明はこうだ。

まず、集合は朝の7時。この点からしてすでにマルシャローズの説明と違う。「朝5時!?そんなに早く起きてもやることなんてないわよ!水汲み!?ちゃんとその仕事をしてくれる下女さんがいるわよ!」とエマはご立腹だ。

朝食の前に朝の祈りの時間があると案内されたのは大聖堂だ。白髪に青い瞳の女性の美しいステンドグラスが飾られている。

「あのステンドグラスは初代大聖女様の姿なの。オールディに初めて結界を張ったお方よ。あなたも知ってるでしょう?」

「うん。アリシラおねえさまが絵本をよんでくれたよ。だいせいじょさまの絵がとてもきれいなの。」

「ここで朝の祈りを捧げるの。一年以上修行した聖女が朝の祈りには歌を歌うんだけれど、あなたはまだ歌わなくて大丈夫よ。一番後ろで先輩たちの歌を聴いていて。」

「お祈りは歌なの?」

「ええ。あなた、建国祭で大聖女様が”祈りの結界”をはるところは見たことがある?」

「うん。だいせいじょさまがお歌を歌ってるの聞いた。」

「そう。小さな結界は歌を歌わなくてもはれるけど、大結界は歌を歌わないとはれないの。朝の祈りは大結界を維持するための祈りだから歌が必要なのよ。」

大結界になぜ歌が必要なのか、それはまだ結界術を使ったことのないクリスにはわからなかったが、とりあえず「うん」と頷いた。

「朝の祈りの後は食堂で朝ごはんよ。みんなで一緒に食べるの。今この教会にはあなたを含めて15人の聖女がいるわ。」

「聖女は15人しかいないの?」

「まさか!辺境に行けば辺境で結界を守る”辺境聖女”がたくさんいるわ。平民出の聖女の多くは”辺境聖女”ね。」


朝食の後は歌の練習がある。最初の三年間は欠かさずに毎日、歌の練習をするのだ。三年目のエマも歌の稽古を受けており、講師には有名な歌い手が来てくれるらしい。
休暇をとって帰省をしている間も欠かさず歌の稽古をする必要がある。練習をさぼるとすぐにバレてしまうそうだ。

「せいじょも休暇をとれるの?」

「もちろんよ!家族に会いたいでしょ?交代でお休みをとるから、クリスマスとか、希望通りに休暇を取るのは難しいかもしれないけれど。」

「でもだいせいじょさまにせいじょに休日はないっていわれて…。」

「また、あの人ね!!」

エマはむっとした顔をしたが、大きな不満がある。しかし、言葉にはせずにぐっと押し黙った。


昼食の時間は11時から14時の間、夕食は17時から20時の間、お風呂は大浴場で20時から22時の間と決まっているが、その後に下働きの女性たちの使用時間があるそうで、多少遅れても食べれない・使えないというわけではないそうだ。

「最初の一年は修行で結界術を使えるようにならないといけないから、任務みたいなものはないわ。任務については初任務の前にまた教えてあげるわね。」


クリスはまず結界を出せるようになるための訓練を受けなければならない。聖女の日常の説明の後、早速初回の修行が始まった。



ー---



「聖女判定はクリスも受けたことがあるでしょう?」

エマは石板を一枚出してきて机の上に置いた。それは聖女判定の際に、結界術に素養があるかを確認するための石板で、クリスも5歳の時に初めて手を乗せて光らせることができた。

「手を置いてみて。」

言われた通りに手を置くと石板が柔らかく光り、同時に体の中をピリピリしたものが巡った。

「何か、体の中がピリピリしない?」

「うん。」

「何かが石板の方に流れて行ってない?」

「なんか手のひらがぞわぞわする。」

「そう!クリスは優秀ね!」

エマに「じゃあ手を放して」と言われて手を放す。

「今のぞわぞわを石板無しで出すのが最初の修行よ!」

「…どうやって出すの?」

「体の中を巡らせて、手に持っていくのよ!ぎゅーって!」


エマの説明は6歳のクリスでなくても意味不明だった。





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