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本編・裏

中編1

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飛世たかせあいの教えを受けて、人との関りを増やしていった。

大分考えて話すようになったが、まだ考えが足りていないのか、想定外の状況を生み出してしまった。


藍の任務に引っ付いていたら、保安隊に努める名門貴族・桜宮さくらみや家の三男坊と知り合いになり、家に遊びに行くまでに親しくなった。

桜宮家は飛世の母の実家でもあったが、飛世自身は初めての訪問であった。もう一度言う。であった。もっと言うと藍と一緒に行った。

なのに『第二王子殿下は再び実家とのつながりを強固にすべく、再び桜宮家を訪れるようになった』という噂になった。

【飛世が正直に世話係にこれから桜宮家に行くって伝えたのが広まった結果だ。伏せればよかったのに。】


藍が竜使いと巫覡ふげきという妖・幽霊退治の専門家との共同任務に参加した際に、藍の友達だという貴族・家出身の巫覡の姉弟と知り合い、仲良くなった。

ただ、藍の友達を紹介されて、仲良くなっただけである。

なのに『第二王子殿下は次世代エースの巫覡二人を見抜き、目ざとく仲良くなった』という噂になった。次世代エースだったなんて、噂で知ったのに。

【ちょっとした人見知りで、常磐家で藍の友達としか話さなかったのが良くないんじゃないか?】


姉上の新興貴族・朝比奈あさひな家の嫡男への嫁入りの際に、藍が護衛を兼ねて侍女として同行したことから、飛世も嫁入り日に朝比奈家を訪れた。

そこで姉上の暗殺未遂が起きたのを、条件反射で助けてしまっただけである。

なのに『新宰相(朝比奈家当主)は第二王子殿下に忠誠を誓った』という噂になった。助けたのは姉上だ。

【飛世が潜んでいた暗殺者まで見つけ出し、過剰に退治してしまったために、姉姫ではなく朝比奈家を助けたように見えてしまったのだな。】


そんな噂が堆積して、なんと東宮確実と言われるようになってしまった。全部藍のせいじゃないかな?取ってくれないかな?

【理由はどうあれ割と早い段階から藍姫と結婚したかったんだな。それは意外だ。】


そんな秋のある日。





「見合いの釣書が30件も?」

藍が”卵狩り”の任務に連れ出してくれて、城にいたくなかった飛世はウキウキしてついてきた。…これだけ藍とよく出かけているのに、全く藍との噂が立たないのが不思議である。

蒼ノ宮家の姫と婚約間近とか。噂になってくれたら30件も調書が来なかっただろうに。

「それが立ち回りというものだ。調書を送るために、んだ。」

完全に顔に出ていたらしい。藍が飛世の考えを読んで意見を述べてきた。…藍の頭の中ってどうなっているのかな。一人で延々とぶつぶつと考えているのだろうか。

【なんか、失礼なこと考えてるな。】

「それで?第一王子と話したのか?」

飛世はうっと言葉に詰まった。

「会えてもいない…。避けられてるのかも…。」

以前は第一王子と会いたくなさ過ぎて、のらりくらりと対面の機会を躱していた飛世も、何もしなくても第一王子と自分の不仲説が出る状況に、仲良くしてちょうどいいのだということを学んだ。

だから気持ちを切り替えて会いたいと思うようになったのに…、兄上は城からいなくなってしまった。


「…藍、私と婚約しない?」

飛世としては大まじめに言っているのだが、いつも藍は取り合ってくれない。それどころか、第二王子の意向は聞いてくれないくせに、蒼ノ宮家の意向は真面目に受け取り、はとこの誰かと結婚するとか言い出す。

正直、蒼ノ宮家の男に藍を任せるに足る男は一人もいない。

まず、弱い。もう二年の付き合いがある蒼ノ宮家で度々若手竜使いたちと剣の稽古をするが、蒼ノ宮姓の竜使いたちは藍たち三兄妹を除いて、強くなる気配がない。

蒼ノ宮姓の竜使いであるだけで彼らにとっては誇らしいことで、そこから成長する気がないのだ。慢心しているとも言う。

そして、頭が固い。藍がどんなに成果を上げても、必ず師匠がいいからとか、飛世がいたからとか、たまたまだとか、言う。

それが10個も100個も続けば…それが誰の力なのか子供でも分かる。そんな男たちが藍を妻にして、どう扱うのか。竜使いをやめさせようとするかもしれない。


…私の嫁に来てくれるのがいいんじゃないか?でも、王子妃が仕事をするのは難しいだろう。どうしたら藍が憂いなく自分に嫁いでくれる状況になるのか、飛世には良い案がわかなかった。


突然、藍が黙り、進行方向とはずれた方向へと走っていく。

「あ、藍?」

慌てて追いかけるとそこには、荒らされた何かの巣の前で待つ、藍の相棒の竜である瑠璃るりがいた。



ーーーー



そして、事態は異国が絡む大きな事件へと発展し、その解決が兄である第一王子に委ねられた。

飛世はのん気に、兄上がんばれ、なんて思っていたら、藍に突然呼び出された。

「妓楼!?ってあの、え?そこに行くの!?私だけで!?」

以前、藍に花街のご飯屋さんは美味しいと聞いていたので、てっきりご飯を食べに行くんだと思っていた。

(普通は藍が花街に行ったことがあることを疑問に思うべきなのだが、そんな思考回路は飛世にはない。)

「そこにがいる。夕食を予約しておいた。」

花街一の高級店の夕食を藍が予約した…?これはさすがに変だと飛世も思った。

「…なんでそんなことできるの?」

「話は後。時間がない。ほら、行って!」

藍に背中を押され、飛世は渋々と高級妓楼”朱天楼しゅてんろう”へ向かった。



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