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本編
後編2
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藍の10歳はなれた兄・雄は二年前に花嫁を迎え、蒼ノ宮家の直系の嫡男として秘密の教育を受けていた。そこには次代の蒼ノ宮を担うものとして藍の下の兄・郁も参加していた。
蒼ノ宮家は大きな問題を抱えていた。
まずは、竜の誕生数の低下。
蒼ノ宮家の敷地内においても竜を飼育して、卵を得るべく、雄と雌をめあわせている。しかし、50年ほど前から卵の数は減少し、ここ10年は一つも生まれていない。
そして、蒼ノ宮姓の竜使い数の減少。
蒼ノ宮の直系三兄妹とそのはとこ一人をのぞいて、その年のころの蒼ノ宮姓の竜使い候補たちは竜に選ばれていない。
蒼ノ宮姓以外の竜使い数は変わらないのに対して、蒼ノ宮家の竜使い数は50年ほど前から減少の一途をたどっている。
さらに、将来を担う子供の出生数も低下している。
一番小さい子供が15歳だ。若い夫婦は何組もいるし、みな励んでいるのだが、全く子供が生まれないのだ。
これもまた、50年ほど前から始まっている。
50年前に何があったのか。蒼ノ宮家最大の機密事項を雄と郁も知ることとなった。
蒼ノ宮家にずっとある始祖待望論。
始祖のように竜と心を通わせる存在が現れ、蒼ノ宮家を再び盛り上げる、というあれ。
これはあながち間違いではないのだ。
蒼ノ宮家では約100年おきに”龍の子”と呼ばれる、竜に好かれる特別な力を持った子供が生まれるのだ。
その子が蒼ノ宮家にいる限り、竜たちは蒼ノ宮家の者を好いていてくれる。そう信じられている。
先代の”龍の子”が亡くなったのが50年前だ。
先代の”龍の子”は、竜使いではなかったため、独り立ちしようと蒼ノ宮邸を出ていこうとしたらしい。
自分が”龍の子”だとは知らなかったのだ。そこを家の大人たちに止められ、森奥の離れに幽閉され…。
そして年老いて亡くなった。
”龍の子”が生まれると、竜たちは喜んで吠えるらしい。
しかし、まだそのような子供は生まれていない。しかし、時期的には、もうとっくに生まれているはずなのだ。
約20年前に先代が生まれてから100年が経過していた。
「その”龍の子”はどのような力をもって生まれてくるのですか?」
「ああ。竜たちと脳内で会話することができるんだ。念話とでも言うのかな。」
小さいころから藍を守ってきた兄二人はすぐにピンときた。
ーーーー
藍が幽閉されたのは蒼ノ宮家の敷地内にある森の奥の離れだ。このあたりの森は竜使いを持たないが、蒼ノ宮家が飼育している竜たちの生息域で、蒼ノ宮家の直系と訓練された世話係以外の人を受け付けない。
つまり、半自然の要塞となっている。
『やっぱり、藍が”龍の子”だってバレてしまったんじゃないかしら。』
幽閉された藍の支えになったのは、瑠璃との念話が結局一度も途切れず,つながったままだったことだ。
「外はどうなっているんだろう?」
幽閉されて三日。飛世にはどんな話が伝わっているのだろう。
自分が”龍の子”であることは竜使い候補になった時に、父の竜・千里から伝えられた。
『あなたは私たち、竜と脳内で会話することができるの。でもそれを他人に知られてはだめよ。』
そうして教えられた先代の”龍の子”の悲しい生涯。竜たちは”龍の子”を飼殺すことになってしまった結末をずっと悔いていた。
その思いが脈々と蒼ノ宮家の竜たちに継がれ、次の”龍の子”が自由に生きられるように、竜たちから話しかけることを禁じたのである。
しかし、生まれたばかりの竜たちにそんな分別はない。
だから、藍が子供の竜と接する立場になる際に、事実を打ち明けることにしたのだ。
『とりあえず、藍は大人しくしてなさい。大人しくしていれば、先代のように薬を飲まされることもないわ。おそらく、じじいたちも本当に藍が”龍の子”なのか半信半疑なのよ。』
「わかった。」
『私はすぐにこの試験を終わらせて、邸に帰るわ。合格だけはしっかりもらうから安心して。もう最後の地点だし、ここから飛ばせば三日で帰れるわ。』
それは、速すぎる。守も付き合って飛ばしているのだろう。なんだか申し訳ない。
藍が幽閉された離れは人の接近は禁じられていたが、竜の接近は禁じられていない。
兄②の竜・李は、兄の代わりになのか、よく離れのそばまで来て兄②が語り聞かせたと思われる近況を教えてくれた。
どうやら、私は死亡扱いされ、飛世との婚約は正式に断られてしまったらしい。
飛世は何度か蒼ノ宮家に来て、遺体を見せろ、証拠を出せ、と偉い方を問い詰めているらしいが全員に箝口令がだされて誰も何も話すことはないそうだ。
…こういうときは、古い頭で結束が強くて嫌になる。
兄②は藍を離れから出そうと奮闘しているようだが、父上と兄①が賛成に回ってしまい、旗色が悪い。
どうやら、私が”龍の子”だと見破ったのも兄①だったようだ。
兄上、どうして…と悲しい気持ちになる。現状、あんなに兄二人に応援されていると思っていた竜使いへの夢も断たれてしまった。
しかし、兄①も藍に薬を飲ませたり、拘束して自由を奪うことには反対しており、離れへの幽閉で済んでいるのはそのためかもしれなかった。
とりあえず、今は飛世からの、つまりは王家からの追及をかわすこと。それに注力しているようだ。
先日帰ってきた、瑠璃。守にせっついて藍を一人前に昇進させた。
公式には死亡したことになっている藍も、記録上では一人前として亡くなったことになる。ここに初の女竜使いが誕生したわけだ。
その後、瑠璃は引きずってでも連れて行こうとする蒼ノ宮の男衆を振り払い、どこかへ飛んで行った。そうだ。
もちろん、藍は行き先を知っている。
瑠璃は飛世の屋敷へと飛んで行ったのだ。
『任せて!』なんて言われたけれど、瑠璃と飛世は意思疎通ができない。いったいどうするのか。
藍が幽閉されて一週間が経過していた。
蒼ノ宮家は大きな問題を抱えていた。
まずは、竜の誕生数の低下。
蒼ノ宮家の敷地内においても竜を飼育して、卵を得るべく、雄と雌をめあわせている。しかし、50年ほど前から卵の数は減少し、ここ10年は一つも生まれていない。
そして、蒼ノ宮姓の竜使い数の減少。
蒼ノ宮の直系三兄妹とそのはとこ一人をのぞいて、その年のころの蒼ノ宮姓の竜使い候補たちは竜に選ばれていない。
蒼ノ宮姓以外の竜使い数は変わらないのに対して、蒼ノ宮家の竜使い数は50年ほど前から減少の一途をたどっている。
さらに、将来を担う子供の出生数も低下している。
一番小さい子供が15歳だ。若い夫婦は何組もいるし、みな励んでいるのだが、全く子供が生まれないのだ。
これもまた、50年ほど前から始まっている。
50年前に何があったのか。蒼ノ宮家最大の機密事項を雄と郁も知ることとなった。
蒼ノ宮家にずっとある始祖待望論。
始祖のように竜と心を通わせる存在が現れ、蒼ノ宮家を再び盛り上げる、というあれ。
これはあながち間違いではないのだ。
蒼ノ宮家では約100年おきに”龍の子”と呼ばれる、竜に好かれる特別な力を持った子供が生まれるのだ。
その子が蒼ノ宮家にいる限り、竜たちは蒼ノ宮家の者を好いていてくれる。そう信じられている。
先代の”龍の子”が亡くなったのが50年前だ。
先代の”龍の子”は、竜使いではなかったため、独り立ちしようと蒼ノ宮邸を出ていこうとしたらしい。
自分が”龍の子”だとは知らなかったのだ。そこを家の大人たちに止められ、森奥の離れに幽閉され…。
そして年老いて亡くなった。
”龍の子”が生まれると、竜たちは喜んで吠えるらしい。
しかし、まだそのような子供は生まれていない。しかし、時期的には、もうとっくに生まれているはずなのだ。
約20年前に先代が生まれてから100年が経過していた。
「その”龍の子”はどのような力をもって生まれてくるのですか?」
「ああ。竜たちと脳内で会話することができるんだ。念話とでも言うのかな。」
小さいころから藍を守ってきた兄二人はすぐにピンときた。
ーーーー
藍が幽閉されたのは蒼ノ宮家の敷地内にある森の奥の離れだ。このあたりの森は竜使いを持たないが、蒼ノ宮家が飼育している竜たちの生息域で、蒼ノ宮家の直系と訓練された世話係以外の人を受け付けない。
つまり、半自然の要塞となっている。
『やっぱり、藍が”龍の子”だってバレてしまったんじゃないかしら。』
幽閉された藍の支えになったのは、瑠璃との念話が結局一度も途切れず,つながったままだったことだ。
「外はどうなっているんだろう?」
幽閉されて三日。飛世にはどんな話が伝わっているのだろう。
自分が”龍の子”であることは竜使い候補になった時に、父の竜・千里から伝えられた。
『あなたは私たち、竜と脳内で会話することができるの。でもそれを他人に知られてはだめよ。』
そうして教えられた先代の”龍の子”の悲しい生涯。竜たちは”龍の子”を飼殺すことになってしまった結末をずっと悔いていた。
その思いが脈々と蒼ノ宮家の竜たちに継がれ、次の”龍の子”が自由に生きられるように、竜たちから話しかけることを禁じたのである。
しかし、生まれたばかりの竜たちにそんな分別はない。
だから、藍が子供の竜と接する立場になる際に、事実を打ち明けることにしたのだ。
『とりあえず、藍は大人しくしてなさい。大人しくしていれば、先代のように薬を飲まされることもないわ。おそらく、じじいたちも本当に藍が”龍の子”なのか半信半疑なのよ。』
「わかった。」
『私はすぐにこの試験を終わらせて、邸に帰るわ。合格だけはしっかりもらうから安心して。もう最後の地点だし、ここから飛ばせば三日で帰れるわ。』
それは、速すぎる。守も付き合って飛ばしているのだろう。なんだか申し訳ない。
藍が幽閉された離れは人の接近は禁じられていたが、竜の接近は禁じられていない。
兄②の竜・李は、兄の代わりになのか、よく離れのそばまで来て兄②が語り聞かせたと思われる近況を教えてくれた。
どうやら、私は死亡扱いされ、飛世との婚約は正式に断られてしまったらしい。
飛世は何度か蒼ノ宮家に来て、遺体を見せろ、証拠を出せ、と偉い方を問い詰めているらしいが全員に箝口令がだされて誰も何も話すことはないそうだ。
…こういうときは、古い頭で結束が強くて嫌になる。
兄②は藍を離れから出そうと奮闘しているようだが、父上と兄①が賛成に回ってしまい、旗色が悪い。
どうやら、私が”龍の子”だと見破ったのも兄①だったようだ。
兄上、どうして…と悲しい気持ちになる。現状、あんなに兄二人に応援されていると思っていた竜使いへの夢も断たれてしまった。
しかし、兄①も藍に薬を飲ませたり、拘束して自由を奪うことには反対しており、離れへの幽閉で済んでいるのはそのためかもしれなかった。
とりあえず、今は飛世からの、つまりは王家からの追及をかわすこと。それに注力しているようだ。
先日帰ってきた、瑠璃。守にせっついて藍を一人前に昇進させた。
公式には死亡したことになっている藍も、記録上では一人前として亡くなったことになる。ここに初の女竜使いが誕生したわけだ。
その後、瑠璃は引きずってでも連れて行こうとする蒼ノ宮の男衆を振り払い、どこかへ飛んで行った。そうだ。
もちろん、藍は行き先を知っている。
瑠璃は飛世の屋敷へと飛んで行ったのだ。
『任せて!』なんて言われたけれど、瑠璃と飛世は意思疎通ができない。いったいどうするのか。
藍が幽閉されて一週間が経過していた。
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