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本編
中編1
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飛世と藍が知り合いになり、友達となってから2年の月日が経過し、二人とも17歳になっていた。
藍は相変わらず、初の女竜使いとなるべく、玄人の竜使いに師事し、依頼を解決することで研鑽をつんでいた。
一方の飛世を取り巻く環境は大きく変わっていた。
これまで東宮の地位は揺るがないと思われていた第一王子の実家の失脚により、それまで目立っていなかった第二王子が東宮になる可能性が高まった。
というか、多くの貴族たちがそうなるだろうと見越していた。
時に藍の任務を手伝い、各所に顔を出していた飛世は、気づけば”飛世一派”なる若手の派閥を形成するまでに至っていた。
正直、しょーじき、藍はこれは藍一派だろうと思っていた。
相棒の瑠璃も賛同するように大きく頷いていた。
一派にいるのは藍の知り合いや藍の兄たちの友人がほとんどである。なぜか紹介した端から派閥に所属すると世間にみなされてしまうのだ。
一番面白かったのは、近衛大将にその剣術の腕を見込まれ、近衛兵に飛世が稽古をつけた時のことである。
(護衛対象より弱い近衛兵の存在意義、と思ったが仕方ない。飛世が強すぎるのだ。)
「何かたしなんでいる流派があるのですか?」
「あー、最近は英流の剣術を学びました。」
飛世は本家で学んだわけではない。藍の剣術を見よう見まねで真似しただけである。英流の師範とはあったこともない。他に挙げられる名前がなかっただけである。
正直に我流だって言えばよかったのに。
飛世は英流の使い手である。英流は男女分け隔てなく剣術を学べる唯一の流派であり、飛世も陛下と同じく女性進出改革を行っていくに違いない。
という噂が翌日から広まった。もうすごい勢いで。三日で国中回ったんじゃなかろうか。
このようなことが重なり、第二王子に名君の資質があるみたいな大きな話になっていったのだ。
そんな秋の日のある日。
「見合いの釣書が30件も?」
藍は東宮への道に乗りたくないのに乗りかけている飛世を気晴らしのために”卵狩り”の任務に連れ出していた。
”卵狩り”とは、野生の竜の巣から卵を取ってくる、竜使いたちにとって大切な任務である。
この卵を蒼ノ宮邸で孵し、竜使いの相棒として育てていくのだ。
蒼ノ宮家で竜使いを選ばなかった竜同士で番となり卵を産む場合もある。しかし、ここ十数年卵は生まれていないのだ。必然的に野生の卵に頼ることとなる。
「そう、大小さまざまな貴族の姫から。中には5歳もあった。」
「うわあ。」
「父上が言うには、大半が兄上にも釣書を送っていたって。兄上が私の年のころに。すべて断ったらしい。」
第一王子は我々の4つ上だ。藍は彼が婚約者を置いていない理由を知っているが、他の貴族から見ればこのことも飛世の婚約を待っていると見られるだろう。
「それで?第一王子と話したのか?」
最初はいろいろ失敗した飛世も最近は貴族たちの仲での立ち回りがうまくなっている。たくさん来た釣書も、兄上が選ぶまでは、と送り返したらしい。
まあ、最初の失敗の数々のせいで東宮有力なんて一番困った噂になっているのだが。
しかし、第一王子が飛世への対応を明確にしないためにその立ち回りの効果がうすい。
藍は内心、まずいまずいぞと思っていた。
「会えてもいない…。避けられてるのかも…。」
最初のころは、藍がいないと(第一王子と)話したくないとかほざいていた飛世も今では一対一での対面を望むまでに成長した。
しかし、その機会は全く得られていない。
第一王子が城にいないせいでもある。
「釣書も兄上がこの状態じゃまた来るかも。…藍、私と婚約しない?」
「そんな場当たり的に選ばれる伴侶やだ。」
王子の妻では竜使いも続けられない。
「藍は結婚はどうするんだい?未婚で竜使いを続けるの?」
「本家のじいさまたちの意向では、はとこの誰かと結婚するだろう。」
飛世は驚いた様子だった。それもそうだろう。飛世は藍がはとこ達と仲が悪いことを知っているから。
「蒼ノ宮家はいつの日か始祖が帰ってくるという言い伝えがある。」
「どういうこと?」
「始祖のように竜と心を通わせあえる存在が生まれる、と。しかし、蒼ノ宮家には男子しか生まれてこなかったから始祖の血は薄まる一方だ。」
「血が濃くなれば始祖のように才能豊かな子が生まれるっていうこと?」
「それに年々蒼ノ宮姓の竜使いは生まれなくなっているから。その考えの支持者は多い。」
竜使いには蒼ノ宮家の者でなくても、修行を積めばなれる。
実際、今藍が師事している玄人は商人の家庭の生まれでありながら、現役No1と名高い。
しかし、蒼ノ宮姓の竜使いこそが本物である、みたいな思考も確かに存在する。
『お話のところ悪いけど、竜の巣をみつけたわ。』
頭に瑠璃の声が響いた。
『大問題が発生しちゃってるけど。』
「これは…。」
遅れて到着した藍の師匠、玄人竜使いの守が絶句した。
そこにあったのは、荒らされた竜の巣があった。
たくさんの靴の跡。竜と争ったのか逃げたのか、周りの木々の枝は折れ、葉が散っていた。
そして、卵は一つもなかった。
「これは怪我をした竜もどこかにいるんじゃ?」
「わからない。でも竜は雛は大切に育てるが、卵には執着しない。見回りの竜に遭遇して、慌てて逃げたと考えるのが普通だ。」
「しかし、これは一大事だ。」
守は額に手をやった。藍も全く同じ気持ちだ。瑠璃もぐるると不機嫌そうに唸った。
竜の密猟は違法である。もちろん、卵もだ。まあ、成体は強すぎて太刀打ちできないので、そんなことをする命知らずはいないのだが。
特にこの竜の群生地となっている山は蒼ノ宮家が管理しており、人の入山は禁じられている。
「卵狩りは中止だ。急いで本邸に帰ろう。」
ーーーー
事態はどんどん大事へと発展していく。
「異国のオークションに竜が?卵ではなく?」
守が深刻な顔で頷いた。
竜の卵を孵化させ、なおかつ、幼体を育てるなんて、知識がないとできない。
こうして異国への竜の密輸と蒼ノ宮家の秘伝の技術の流出という二つの事件が発生した。
藍は相変わらず、初の女竜使いとなるべく、玄人の竜使いに師事し、依頼を解決することで研鑽をつんでいた。
一方の飛世を取り巻く環境は大きく変わっていた。
これまで東宮の地位は揺るがないと思われていた第一王子の実家の失脚により、それまで目立っていなかった第二王子が東宮になる可能性が高まった。
というか、多くの貴族たちがそうなるだろうと見越していた。
時に藍の任務を手伝い、各所に顔を出していた飛世は、気づけば”飛世一派”なる若手の派閥を形成するまでに至っていた。
正直、しょーじき、藍はこれは藍一派だろうと思っていた。
相棒の瑠璃も賛同するように大きく頷いていた。
一派にいるのは藍の知り合いや藍の兄たちの友人がほとんどである。なぜか紹介した端から派閥に所属すると世間にみなされてしまうのだ。
一番面白かったのは、近衛大将にその剣術の腕を見込まれ、近衛兵に飛世が稽古をつけた時のことである。
(護衛対象より弱い近衛兵の存在意義、と思ったが仕方ない。飛世が強すぎるのだ。)
「何かたしなんでいる流派があるのですか?」
「あー、最近は英流の剣術を学びました。」
飛世は本家で学んだわけではない。藍の剣術を見よう見まねで真似しただけである。英流の師範とはあったこともない。他に挙げられる名前がなかっただけである。
正直に我流だって言えばよかったのに。
飛世は英流の使い手である。英流は男女分け隔てなく剣術を学べる唯一の流派であり、飛世も陛下と同じく女性進出改革を行っていくに違いない。
という噂が翌日から広まった。もうすごい勢いで。三日で国中回ったんじゃなかろうか。
このようなことが重なり、第二王子に名君の資質があるみたいな大きな話になっていったのだ。
そんな秋の日のある日。
「見合いの釣書が30件も?」
藍は東宮への道に乗りたくないのに乗りかけている飛世を気晴らしのために”卵狩り”の任務に連れ出していた。
”卵狩り”とは、野生の竜の巣から卵を取ってくる、竜使いたちにとって大切な任務である。
この卵を蒼ノ宮邸で孵し、竜使いの相棒として育てていくのだ。
蒼ノ宮家で竜使いを選ばなかった竜同士で番となり卵を産む場合もある。しかし、ここ十数年卵は生まれていないのだ。必然的に野生の卵に頼ることとなる。
「そう、大小さまざまな貴族の姫から。中には5歳もあった。」
「うわあ。」
「父上が言うには、大半が兄上にも釣書を送っていたって。兄上が私の年のころに。すべて断ったらしい。」
第一王子は我々の4つ上だ。藍は彼が婚約者を置いていない理由を知っているが、他の貴族から見ればこのことも飛世の婚約を待っていると見られるだろう。
「それで?第一王子と話したのか?」
最初はいろいろ失敗した飛世も最近は貴族たちの仲での立ち回りがうまくなっている。たくさん来た釣書も、兄上が選ぶまでは、と送り返したらしい。
まあ、最初の失敗の数々のせいで東宮有力なんて一番困った噂になっているのだが。
しかし、第一王子が飛世への対応を明確にしないためにその立ち回りの効果がうすい。
藍は内心、まずいまずいぞと思っていた。
「会えてもいない…。避けられてるのかも…。」
最初のころは、藍がいないと(第一王子と)話したくないとかほざいていた飛世も今では一対一での対面を望むまでに成長した。
しかし、その機会は全く得られていない。
第一王子が城にいないせいでもある。
「釣書も兄上がこの状態じゃまた来るかも。…藍、私と婚約しない?」
「そんな場当たり的に選ばれる伴侶やだ。」
王子の妻では竜使いも続けられない。
「藍は結婚はどうするんだい?未婚で竜使いを続けるの?」
「本家のじいさまたちの意向では、はとこの誰かと結婚するだろう。」
飛世は驚いた様子だった。それもそうだろう。飛世は藍がはとこ達と仲が悪いことを知っているから。
「蒼ノ宮家はいつの日か始祖が帰ってくるという言い伝えがある。」
「どういうこと?」
「始祖のように竜と心を通わせあえる存在が生まれる、と。しかし、蒼ノ宮家には男子しか生まれてこなかったから始祖の血は薄まる一方だ。」
「血が濃くなれば始祖のように才能豊かな子が生まれるっていうこと?」
「それに年々蒼ノ宮姓の竜使いは生まれなくなっているから。その考えの支持者は多い。」
竜使いには蒼ノ宮家の者でなくても、修行を積めばなれる。
実際、今藍が師事している玄人は商人の家庭の生まれでありながら、現役No1と名高い。
しかし、蒼ノ宮姓の竜使いこそが本物である、みたいな思考も確かに存在する。
『お話のところ悪いけど、竜の巣をみつけたわ。』
頭に瑠璃の声が響いた。
『大問題が発生しちゃってるけど。』
「これは…。」
遅れて到着した藍の師匠、玄人竜使いの守が絶句した。
そこにあったのは、荒らされた竜の巣があった。
たくさんの靴の跡。竜と争ったのか逃げたのか、周りの木々の枝は折れ、葉が散っていた。
そして、卵は一つもなかった。
「これは怪我をした竜もどこかにいるんじゃ?」
「わからない。でも竜は雛は大切に育てるが、卵には執着しない。見回りの竜に遭遇して、慌てて逃げたと考えるのが普通だ。」
「しかし、これは一大事だ。」
守は額に手をやった。藍も全く同じ気持ちだ。瑠璃もぐるると不機嫌そうに唸った。
竜の密猟は違法である。もちろん、卵もだ。まあ、成体は強すぎて太刀打ちできないので、そんなことをする命知らずはいないのだが。
特にこの竜の群生地となっている山は蒼ノ宮家が管理しており、人の入山は禁じられている。
「卵狩りは中止だ。急いで本邸に帰ろう。」
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事態はどんどん大事へと発展していく。
「異国のオークションに竜が?卵ではなく?」
守が深刻な顔で頷いた。
竜の卵を孵化させ、なおかつ、幼体を育てるなんて、知識がないとできない。
こうして異国への竜の密輸と蒼ノ宮家の秘伝の技術の流出という二つの事件が発生した。
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