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終幕 帝、頼もしい部下を得る
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宰相からあがってきた秋の人事案を見て、帝は頭を悩ませていた。この後、満からのアポイントメントがある。
満には巫覡院のスパイを任せたことから、直接自分と話ができる伝手を持たせていた。正月からこちらスパイ業務は開店休業状態だったが、今回、満から接触があった。
宇宙から、満を他部署へというお願いがあったことから、恐らく人事の話だろう。
単なる直談判なら無視するが、さて。
「自分も二乃子殿の旅に同行したいのです。」
「ふむ。しかし、宇宙殿からは、君を別の部署にといわれているが?」
「それは九条家の益となる人事で会って、陛下の益となる人事ではございません。」
ほう。面白いことを言ってきたな。
「君を巫覡院に留め置く方が私の益になると?」
「いえ。陛下が選りすぐりの若手を送り出す、あのお役目に私をつけていただきたいのです。」
帝は目を瞠った。ちょうど自分が悩んでいた人事だからである。
「監察御史か…。」
監察院は官吏たちの不正を見張る部署であり、宰相からも独立した帝直属の部署である。監察御史は監察院に所属する官吏で、5年の任期で全国を行脚して高官たちの不正を暴いている。
実践を重ねることからめきめきと実力がつき、その後の配属では各部署から引っ張りだことなる、隠れた名官吏への登竜門である。
もちろん過酷な任務であることから、途中で挫折し、窓際職へと追いやられる者も少なくはない。ハイリスクハイリターンなのである。
だから、そこそこ覚悟と根性があるタイプを選ばねばならないのだが、たしかに満ならいいかもしれない。
「二乃子殿の護衛も兼ねながら監察御史として全国行脚に出ます。二乃子殿に手伝ってもらえたら、監察御史の仕事もはかどるように思います。」
確かに巫覡の多才な術は隠密行動と相性がよさそうだが。
「この任を任されたものは抜きんでて実力があがると伺っています。私の実力が上がることと、二乃子殿と私が離れないことは陛下の益となるのです。」
「面白い。理由は?」
「現在、九条家は当主夫妻の特殊な子育てによってある大きな問題に直面しています。」
「後継問題だな。」
当主・永遠の後を継ぐのは二人の娘の内のどちらかだろう。順当にいけば一の姫だが、現状では一の姫が当主となるのは難しい。
この度、正当な二の姫である二乃子が九条家に戻ったが、いわばぽっと出。しかも特殊な職に就いている。最上位ともいえる貴族の跡目を継ぐには、圧倒的に知識も経験も、素養も足りなかった。
「気づいていたのか…。」
「はい。九条家の当主たるもの、九条の内情はもちろんのこと、国のこと、貴族たちのこと、裏も表も詳しい必要があります。もし、私を監察御史にしていただけたなら…。」
帝には何となく満が何を言いたいのか予想できた。帝も皇后を嫁にもらうとき、将軍に似たようなことを言ったから。なんだかんだ、満は従兄弟の子にあたるので、似ているところがあるのだろう。
「なら?」
「必ずや高い実力を身に着け、九条家の二の姫である二乃子殿の心をつかみ、陛下の忠実な臣下として九条家の次期当主となってみせます。」
後に名当主として名をはせる満が、そこに向かって進みだした瞬間であった。
満には巫覡院のスパイを任せたことから、直接自分と話ができる伝手を持たせていた。正月からこちらスパイ業務は開店休業状態だったが、今回、満から接触があった。
宇宙から、満を他部署へというお願いがあったことから、恐らく人事の話だろう。
単なる直談判なら無視するが、さて。
「自分も二乃子殿の旅に同行したいのです。」
「ふむ。しかし、宇宙殿からは、君を別の部署にといわれているが?」
「それは九条家の益となる人事で会って、陛下の益となる人事ではございません。」
ほう。面白いことを言ってきたな。
「君を巫覡院に留め置く方が私の益になると?」
「いえ。陛下が選りすぐりの若手を送り出す、あのお役目に私をつけていただきたいのです。」
帝は目を瞠った。ちょうど自分が悩んでいた人事だからである。
「監察御史か…。」
監察院は官吏たちの不正を見張る部署であり、宰相からも独立した帝直属の部署である。監察御史は監察院に所属する官吏で、5年の任期で全国を行脚して高官たちの不正を暴いている。
実践を重ねることからめきめきと実力がつき、その後の配属では各部署から引っ張りだことなる、隠れた名官吏への登竜門である。
もちろん過酷な任務であることから、途中で挫折し、窓際職へと追いやられる者も少なくはない。ハイリスクハイリターンなのである。
だから、そこそこ覚悟と根性があるタイプを選ばねばならないのだが、たしかに満ならいいかもしれない。
「二乃子殿の護衛も兼ねながら監察御史として全国行脚に出ます。二乃子殿に手伝ってもらえたら、監察御史の仕事もはかどるように思います。」
確かに巫覡の多才な術は隠密行動と相性がよさそうだが。
「この任を任されたものは抜きんでて実力があがると伺っています。私の実力が上がることと、二乃子殿と私が離れないことは陛下の益となるのです。」
「面白い。理由は?」
「現在、九条家は当主夫妻の特殊な子育てによってある大きな問題に直面しています。」
「後継問題だな。」
当主・永遠の後を継ぐのは二人の娘の内のどちらかだろう。順当にいけば一の姫だが、現状では一の姫が当主となるのは難しい。
この度、正当な二の姫である二乃子が九条家に戻ったが、いわばぽっと出。しかも特殊な職に就いている。最上位ともいえる貴族の跡目を継ぐには、圧倒的に知識も経験も、素養も足りなかった。
「気づいていたのか…。」
「はい。九条家の当主たるもの、九条の内情はもちろんのこと、国のこと、貴族たちのこと、裏も表も詳しい必要があります。もし、私を監察御史にしていただけたなら…。」
帝には何となく満が何を言いたいのか予想できた。帝も皇后を嫁にもらうとき、将軍に似たようなことを言ったから。なんだかんだ、満は従兄弟の子にあたるので、似ているところがあるのだろう。
「なら?」
「必ずや高い実力を身に着け、九条家の二の姫である二乃子殿の心をつかみ、陛下の忠実な臣下として九条家の次期当主となってみせます。」
後に名当主として名をはせる満が、そこに向かって進みだした瞬間であった。
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