109 / 115
閑話 巫女姫の父、これまでを振り返る
しおりを挟む
永遠が北西州に赴任が決まった時、誠二は当時一歳だった長女の一の姫とついていくことに決めた。北西州での仕事が安定してから、二人目が欲しいという話になり、永遠が妊娠した。
そして春に生まれたのは可愛い女の子だった。
「私たちの二番目の子なのだから、二子よ。」
「なんかすごいデジャブなんだけど。二子はやめよう?二乃子でどう?ちょっと可愛くなるよ?」
永遠の名づけセンスの無さは奥様に似たらしいと後日義父上から聞いた。
九条家の二の姫として生まれた二乃子には一目見てわかる問題があった。
薄い色合いの黒髪に灰色の巫覡の目。容姿が巫覡としての才能があると示していたのだ。
誠二の母は巫覡だったが、誠二に巫覡の能力は一切ない。つまり、二乃子は強い力を持つとされる孫巫覡なのだ。そして、永遠の母にも巫覡の素養はあったが、永遠には皆無。こちら側から見ても孫巫覡に該当する可能性があった。
義父上は王家の血を引くし、この子はやばい子になる、というのが当時存命だった母の見立てだった。
「早いうちに常磐家に預けた方がいいわ。涼夜に頼んで育ててもらいましょう。」
母はそう言ったし、永遠もそれに賛成したが、まだ物心もつかないうちに娘を手放すことに難色を示した誠二がずるずるとそれを固辞し、引き延ばした。
今思えば、永遠の頭には巫覡院の立ち上げがちらついていたのかもしれない。
そして、二乃子が三歳になった時、事件が起きた。
北西州の領地の使用人は、当時はまだ教育が行き届いておらず、噂話が好きな口さがない輩が幾人かいた。誠二が常磐家の血を引くとは知らない使用人たちが、容姿が両親に似ていない二乃子が不義の子であると噂話をし、二乃子がそれを聞いてしまったのだ。
大泣きした二乃子は霊力で屋敷の柱をへこませ、優秀な使用人の一人に怪我を負わせてしまった。
それがきっかけとなり、誠二は二乃子を涼夜に託すことにした。
時を同じくして、誠二はちびっこが四人もいててんやわんやになっていた九条家に一足先に帰ることとなり、一の姫とも離れることになった。
永遠に娘を任せるのは少し不安だった。案の定、永遠は一年後に一の姫を北西州において帰ってきた。
「なんかね、藤堂家の子と仲良くなっちゃって、残りたいって聞かなかったの。」
永遠は愛があれば離れていても大丈夫、と思っている節がある。平気で誠二もおいて仕事に旅立っていくし、何日も帰ってこない。…でも、俺は娘たちと一緒にいたい。会いたいと言ってくれたらすぐにでも会いに行こう。
しかし、誠二の思いに反して、娘たちから会いたいと言ってくることはなかった。
ーーーー
一の姫が近衛になるために幼馴染を連れて九条家に帰ってきたとき、九条家には激震が走った。九条三姉弟は切れ者ぞろいのため裏をかかれる、ということはほとんどないのだが、完全に一の姫にしてやられたのだ。
そのせいで今ちょっとした難題を抱えているのだが、まあ、その話はまた別の時に。
そしてその二年後に九条家にやってきた二乃子は、かなり他人行儀だった。
二乃子が二の姫であることは常磐家で徹底的に隠されたため、二乃子本人にも伝えられていなかった。誠二も手紙やプレゼントは渡したが、名を名乗ることはしなかった。
親の顔も、もしかしたら覚えていないのかも。自分も永遠も老けたし。
でもこれからは九条家に住むわけだから、どこかで名乗りを…と思っていたが、その後二乃子は巫覡院に泊まりこむようになり、ずるずると名乗らないまま時が過ぎて行った。
自分と二乃子は疎遠なままなのに、甥の満はどんどん二乃子と仲良くなっていったのは、ちょっと気に食わなかった。甲斐甲斐しく世話を焼く満を見ながら、あれは俺でもできると何度思ったことか。
※誠二は満と同じような感じで永遠の世話を焼いている。
二乃子が自分のことを捨て子と思っている事実を知り、大晦日の対話を経て、誠二は激しく後悔した。
会いたいと言われなくても会いに行くべきだったのだ。目に見えるものだけで判断してはいけなかった。自分のやりたいようにやればよかった。
叶うなら、これからは娘たちと長く一緒に過ごしたい。
二乃子が息を吹き返した時、誠二は安堵してその場にへたりこんだ。
目を覚ましたらこれまでの経緯を伝えて、二乃子に謝ろう。そう思ったが、その後一日、一週間、一か月すぎても二乃子が目覚めることはなかった。
そして春に生まれたのは可愛い女の子だった。
「私たちの二番目の子なのだから、二子よ。」
「なんかすごいデジャブなんだけど。二子はやめよう?二乃子でどう?ちょっと可愛くなるよ?」
永遠の名づけセンスの無さは奥様に似たらしいと後日義父上から聞いた。
九条家の二の姫として生まれた二乃子には一目見てわかる問題があった。
薄い色合いの黒髪に灰色の巫覡の目。容姿が巫覡としての才能があると示していたのだ。
誠二の母は巫覡だったが、誠二に巫覡の能力は一切ない。つまり、二乃子は強い力を持つとされる孫巫覡なのだ。そして、永遠の母にも巫覡の素養はあったが、永遠には皆無。こちら側から見ても孫巫覡に該当する可能性があった。
義父上は王家の血を引くし、この子はやばい子になる、というのが当時存命だった母の見立てだった。
「早いうちに常磐家に預けた方がいいわ。涼夜に頼んで育ててもらいましょう。」
母はそう言ったし、永遠もそれに賛成したが、まだ物心もつかないうちに娘を手放すことに難色を示した誠二がずるずるとそれを固辞し、引き延ばした。
今思えば、永遠の頭には巫覡院の立ち上げがちらついていたのかもしれない。
そして、二乃子が三歳になった時、事件が起きた。
北西州の領地の使用人は、当時はまだ教育が行き届いておらず、噂話が好きな口さがない輩が幾人かいた。誠二が常磐家の血を引くとは知らない使用人たちが、容姿が両親に似ていない二乃子が不義の子であると噂話をし、二乃子がそれを聞いてしまったのだ。
大泣きした二乃子は霊力で屋敷の柱をへこませ、優秀な使用人の一人に怪我を負わせてしまった。
それがきっかけとなり、誠二は二乃子を涼夜に託すことにした。
時を同じくして、誠二はちびっこが四人もいててんやわんやになっていた九条家に一足先に帰ることとなり、一の姫とも離れることになった。
永遠に娘を任せるのは少し不安だった。案の定、永遠は一年後に一の姫を北西州において帰ってきた。
「なんかね、藤堂家の子と仲良くなっちゃって、残りたいって聞かなかったの。」
永遠は愛があれば離れていても大丈夫、と思っている節がある。平気で誠二もおいて仕事に旅立っていくし、何日も帰ってこない。…でも、俺は娘たちと一緒にいたい。会いたいと言ってくれたらすぐにでも会いに行こう。
しかし、誠二の思いに反して、娘たちから会いたいと言ってくることはなかった。
ーーーー
一の姫が近衛になるために幼馴染を連れて九条家に帰ってきたとき、九条家には激震が走った。九条三姉弟は切れ者ぞろいのため裏をかかれる、ということはほとんどないのだが、完全に一の姫にしてやられたのだ。
そのせいで今ちょっとした難題を抱えているのだが、まあ、その話はまた別の時に。
そしてその二年後に九条家にやってきた二乃子は、かなり他人行儀だった。
二乃子が二の姫であることは常磐家で徹底的に隠されたため、二乃子本人にも伝えられていなかった。誠二も手紙やプレゼントは渡したが、名を名乗ることはしなかった。
親の顔も、もしかしたら覚えていないのかも。自分も永遠も老けたし。
でもこれからは九条家に住むわけだから、どこかで名乗りを…と思っていたが、その後二乃子は巫覡院に泊まりこむようになり、ずるずると名乗らないまま時が過ぎて行った。
自分と二乃子は疎遠なままなのに、甥の満はどんどん二乃子と仲良くなっていったのは、ちょっと気に食わなかった。甲斐甲斐しく世話を焼く満を見ながら、あれは俺でもできると何度思ったことか。
※誠二は満と同じような感じで永遠の世話を焼いている。
二乃子が自分のことを捨て子と思っている事実を知り、大晦日の対話を経て、誠二は激しく後悔した。
会いたいと言われなくても会いに行くべきだったのだ。目に見えるものだけで判断してはいけなかった。自分のやりたいようにやればよかった。
叶うなら、これからは娘たちと長く一緒に過ごしたい。
二乃子が息を吹き返した時、誠二は安堵してその場にへたりこんだ。
目を覚ましたらこれまでの経緯を伝えて、二乃子に謝ろう。そう思ったが、その後一日、一週間、一か月すぎても二乃子が目覚めることはなかった。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説


五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?


愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記
ぺきぺき
ファンタジー
とある東洋の島国の名門貴族家のエリート令息である満(みつる)は、文武両道の将来を期待された若君であった。しかし、何でも器用にこなすが故の悩みを抱え、将来に悩んでいたある日、人生をかけて愛するべき相手と出会った。
彼女はまだ10代の若さで国を巡って邪を払う、最強の巫女姫様だった。
エリート令息が規格外(にズボラ)の巫女姫をお世話して旅をしながら各地の怪異や問題を解決するお話。
ー---
恋愛は遅々として進まないので、ファンタジーです。笑
執筆が完了済みの二章を公開します。その後、一度完結にしますが、続きを書ければまた投稿します。
第一章 夜市に浮かぶ火の玉 全8話
第二章 気の早い雪女 全7話
『救国の巫女姫、誕生史』の続編ではありますが、読んでいなくても問題ないです。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。

素直になる魔法薬を飲まされて
青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。
王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。
「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」
「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」
わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。
婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる