救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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閑話 巫女姫の父、これまでを振り返る

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永遠が北西州に赴任が決まった時、誠二は当時一歳だった長女の一の姫とついていくことに決めた。北西州での仕事が安定してから、二人目が欲しいという話になり、永遠が妊娠した。

そして春に生まれたのは可愛い女の子だった。

「私たちの二番目の子なのだから、二子にこよ。」

「なんかすごいなんだけど。二子はやめよう?二乃子にのこでどう?ちょっと可愛くなるよ?」

永遠の名づけセンスの無さは奥様に似たらしいと後日義父上から聞いた。

九条家の二の姫として生まれた二乃子には一目見てわかる問題があった。

薄い色合いの黒髪に灰色の巫覡の目。容姿が巫覡としての才能があると示していたのだ。
誠二の母は巫覡だったが、誠二に巫覡の能力は一切ない。つまり、二乃子は強い力を持つとされる孫巫覡なのだ。そして、永遠の母にも巫覡の素養はあったが、永遠には皆無。こちら側から見ても孫巫覡に該当する可能性があった。
義父上は王家の血を引くし、この子はやばい子になる、というのが当時存命だった母の見立てだった。

「早いうちに常磐家に預けた方がいいわ。涼夜に頼んで育ててもらいましょう。」

母はそう言ったし、永遠もそれに賛成したが、まだ物心もつかないうちに娘を手放すことに難色を示した誠二がずるずるとそれを固辞し、引き延ばした。
今思えば、永遠の頭には巫覡院の立ち上げがちらついていたのかもしれない。


そして、二乃子が三歳になった時、事件が起きた。

北西州の領地の使用人は、当時はまだ教育が行き届いておらず、噂話が好きな口さがない輩が幾人かいた。誠二が常磐家の血を引くとは知らない使用人たちが、容姿が両親に似ていない二乃子が不義の子であると噂話をし、二乃子がそれを聞いてしまったのだ。

大泣きした二乃子は霊力で屋敷の柱をへこませ、優秀な使用人の一人に怪我を負わせてしまった。

それがきっかけとなり、誠二は二乃子を涼夜に託すことにした。


時を同じくして、誠二はちびっこが四人もいててんやわんやになっていた九条家に一足先に帰ることとなり、一の姫とも離れることになった。
永遠に娘を任せるのは少し不安だった。案の定、永遠は一年後に一の姫を北西州において帰ってきた。

「なんかね、藤堂家の子と仲良くなっちゃって、残りたいって聞かなかったの。」

永遠は愛があれば離れていても大丈夫、と思っている節がある。平気で誠二もおいて仕事に旅立っていくし、何日も帰ってこない。…でも、俺は娘たちと一緒にいたい。会いたいと言ってくれたらすぐにでも会いに行こう。

しかし、誠二の思いに反して、娘たちから会いたいと言ってくることはなかった。


ーーーー


一の姫が近衛になるために幼馴染を連れて九条家に帰ってきたとき、九条家には激震が走った。九条三姉弟は切れ者ぞろいのため裏をかかれる、ということはほとんどないのだが、完全に一の姫にのだ。

そのせいで今ちょっとした難題を抱えているのだが、まあ、その話はまた別の時に。


そしてその二年後に九条家にやってきた二乃子は、かなり他人行儀だった。

二乃子が二の姫であることは常磐家で徹底的に隠されたため、二乃子本人にも伝えられていなかった。誠二も手紙やプレゼントは渡したが、名を名乗ることはしなかった。

親の顔も、もしかしたら覚えていないのかも。自分も永遠も老けたし。
でもこれからは九条家に住むわけだから、どこかで名乗りを…と思っていたが、その後二乃子は巫覡院に泊まりこむようになり、ずるずると名乗らないまま時が過ぎて行った。

自分と二乃子は疎遠なままなのに、甥の満はどんどん二乃子と仲良くなっていったのは、ちょっと気に食わなかった。甲斐甲斐しく世話を焼く満を見ながら、あれは俺でもできると何度思ったことか。

※誠二は満と同じような感じで永遠の世話を焼いている。


二乃子が自分のことを捨て子と思っている事実を知り、大晦日の対話を経て、誠二は激しく後悔した。

会いたいと言われなくても会いに行くべきだったのだ。目に見えるものだけで判断してはいけなかった。自分のやりたいようにやればよかった。

叶うなら、これからは娘たちと長く一緒に過ごしたい。


二乃子が息を吹き返した時、誠二は安堵してその場にへたりこんだ。

目を覚ましたらこれまでの経緯を伝えて、二乃子に謝ろう。そう思ったが、その後一日、一週間、一か月すぎても二乃子が目覚めることはなかった。

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