救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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91 助手、援護する

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満と篤が九条家にたどり着いた時には、二乃子が黒い刀身の刀を振り回して涼夜と戦っていた。二乃子が刀で空を切るたびに、黒い線のようなものが現れ、少しすると消えていく。

「あれは、いったい?」

「あの刀、空間を切ってるんだ。初めて見た…。空間を切って、師匠を魂ごと狭間に落とそうとしてるんだ。」

「狭間?」

「時間の止まった亜空間だよ。眉唾物の噂話だったけど、あれを見るに、本当にあるんだね…。」

よくわからないが、あの黒い刀は以前にも見たことがある。そしてその欠点も把握している。

恐らく、今、体を動かす主導権はあの刀にある状態なのだ。しかし、あの刀の動きは。命にかかわらない限り交わさないし、普段の二乃子では絶対にできないような動きをして負荷をかける。

要は、長期戦になれば、先に二乃子の体が動けなくなってしまう。

「援護しよう。」

「どうやって?入っていくのは危険だよ?」

「この屋敷には改良した長距離銃がある。俺のこと涼夜殿から隠せる?」


ーーーー


なかなか満にチャンスは訪れなかった。というのも二乃子の動きがキレキレすぎて、涼夜だけに狙いを定めるのが難しかったからだ。

しかし、二乃子はやがて反応が鈍くなり、涼夜に屋根の下まで吹き飛ばされるタイミングがあった。

一発、涼夜の右肩を撃ち抜く。続いて右腕。どうやら右手に月の姫様の魂を持っているらしいから。

涼夜がカッと目を見開いてこちらを見た。篤が満を引きずって屋根から落ちると同時に、先ほどまでいた場所に雷が落ちた。
篤を抱えて受け身を取って地面に転がる。

「うへえ!ミッチー、大丈夫?」

満は転がって顔をあげるとすぐに涼夜の方を見た。

ちょうど二乃子が黒い刀で涼夜の胴体に切りかかっているところだった。涼夜を中心に黒い線が走り、口を開けるように開いた。そのまま後ろへ倒れる涼夜がなにやら最後に上空へ手を伸ばした。

二乃子がハッとしてその指先のあたりを刀で切りつける。

涼夜の体を飲み込んだ黒い空間は再びパチンという音とともに閉じた。


急に体の制御を失ったかのように、二乃子が屋根にしりもちをつき、そのまま転がるように落ちてきた。その過程で刀を手放し、刀は灰となって消えてしまった。

慌てて駆けこんで二乃子を抱き留める。そのまま地面に寝かす。

「二ノ!今手当を!」

篤は探るように二乃子の全身を見た後、左腕の袖をめくった。赤く浮かび上がる何かの文字。やがてジュっという音とともに黒くなり、二乃子の肌に刻まれた。

「これ、多分さっきの刀を使役してた術式だ!さっきの戦闘で霊力を一気に奪って、今契約が終わったんだと思う。」

篤は何か白い紙を噛んで口にくわえると端を引っ張って引き延ばした。そのまま包帯のように二乃子の左腕に巻き付ける。

二乃子がうめきながら起き上がろうとするのを満が慌ててとめる。

「二乃子殿、休んでいてください。」

「…だめ。取り逃がしたみたい。確認しないと…。」

二乃子は咳き込みながら右ひじをついて起き上がろうとして、満の上に倒れこんだ。満が抱きかかえ直す。

…でも傷はたくさんあるが、命に別状はないように見える。もうすぐ年は明けるが、この様子なら
大丈夫じゃないだろうか。


そう希望を持った時に、そんなことはないというように二乃子が咳き込んで血を吐いた。


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