救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
105 / 115

90 巫女姫、刀を握る

しおりを挟む
「は、母上?」

守護霊様と二乃子はそろって呆然とした様子の宇宙を振り返った。

「視えるのですか?」

『視えるのか、宇宙?』

「あ、ああ。母上、若いな。」

守護霊にまでなれる力の強い人は霊体で若いころの姿になりがちである。守護霊様も20代の様に視える。

『巫女姫、これはリョウの術か?』

「恐らく。一時的に霊的な者の力を強くして情人にも視えるようにしたのかもしれません。」

『なら、やはり私を狙っていると。』

「と思われます。」

これで、将軍にも守護霊様が視えるようになったわけだ。

「おそらく、師匠は守護霊様の魂を九条家から剥がしたいのだと思います。」

『私がここに張り付いていることが、あいつにとっては邪魔になるわけか…。しかし、どうやって?』

「とりあえず、守護霊様はどこかに隠れていてください!」

『巫女姫。大きな術の余波は霊的な者たちに影響を与える。つまり、リョウに術を実行させると、後からどんな影響があるかわからない。わかるな?』

「はい。」

眠れる上等妖怪たちを刺激したり、荒魂が活性化したりでもしたら、とてつもない被害がでるだろう。させないことが一番いいのだ。

『いざというときは私ごと切り捨てて構わない。私はすでに死んでいるわけだしな。』

不敵に笑う守護霊様はちょっとかっこよかった。


その時、地面から何かが立ち上るのを感じて、思わず守護霊様の手をつかんだ。…霊体の手を実体の状態でつかめるとは、何がどうなっているのか。

そのまま二人そろってふわりと浮き上がる。

「そ、宇宙殿!」

二乃子の慌てた声に、宇宙が浮かび上がった二乃子の片足をつかんで引き寄せてくれた。二乃子も守護霊様を離すまじとしっかりとその手を握る。

「無事だったか、二乃子。」

ふと声がした方に目をやると九条家の屋根の上に涼夜と、九条将軍が立っていた。九条将軍は目を丸くして、二乃子が離すまいとつかんでいる半分宙に浮いた女性を見つめている。

将軍からは女性の後ろ姿しか見えていないはずだが、誰だかわかったらしい。

「  」

何か、将軍がささやくと守護霊様は目を見開いて将軍を振り返り、目が合うことに気づき、大きく動揺した。


ブチっという音が聞こえた。


次の瞬間には二乃子の手の中から守護霊様が消え、落ちた二乃子の体とともに宇宙が後ろへと倒れこんでいた。

呆然としていた将軍は涼夜に突き飛ばされて屋根から落ちてきた。もちろん年齢を感じさせない華麗な受け身で着地して涼夜を見上げる。

「リョウ、い、今のは?なぜここにあ…?」

涼夜は何も話そうとはしない。二乃子にはその右手に守護霊様の魂が握られているのがしっかりと視えた。

「将軍、話は後です!下がっていてください!キャトル!」

二乃子は左手に黒い刀身の刀を握った。

「今日は手加減無用!あいつを”狭間はざま”に落として!」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記

ぺきぺき
ファンタジー
とある東洋の島国の名門貴族家のエリート令息である満(みつる)は、文武両道の将来を期待された若君であった。しかし、何でも器用にこなすが故の悩みを抱え、将来に悩んでいたある日、人生をかけて愛するべき相手と出会った。 彼女はまだ10代の若さで国を巡って邪を払う、最強の巫女姫様だった。 エリート令息が規格外(にズボラ)の巫女姫をお世話して旅をしながら各地の怪異や問題を解決するお話。 ー--- 恋愛は遅々として進まないので、ファンタジーです。笑 執筆が完了済みの二章を公開します。その後、一度完結にしますが、続きを書ければまた投稿します。 第一章 夜市に浮かぶ火の玉 全8話 第二章 気の早い雪女 全7話 『救国の巫女姫、誕生史』の続編ではありますが、読んでいなくても問題ないです。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...