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86 助手、見守る
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二乃子が水の檻に涼夜を閉じ込めると言ったとき、篤は大層驚いていた。どうやら水を使う術というのは巫覡の中でも珍しいのだろう。
二乃子は本気で涼夜を殺しにきている。一般の男の子なら100年の恋も覚めるほど殺気だっているが、暗殺者としても修行を積んだ経験のある満からすればオールオッケーである。
むしろこの後二乃子に何を食べさせるか考えていた。
満は今、庭園の見渡せる後宮の陰に潜み、二乃子の様子を見守っていた。何かあればすぐに助けに行けるように。
小一時間ほどたったところだった。
「二ノ!危ない!」
篤が突然、二乃子に飛びついた。それと同時に水の塊から黒い棘のような物が生え、次々と打ち出された。そして、篤の背に数本、深々と刺さったのを満はしっかり目撃した。
黒い棘は後宮の建物自体にも襲い掛かったが、後宮は奏が強力な防御結界を施していたために無傷で数分にわたる棘の嵐を耐えきった。
嵐がやむと同時に少し離れたところで倒れていた二乃子と篤の体が、勝手に後宮に向かって吸い寄せられて結界内に入った。
慌てて満が駆け寄り、二人の様子を見る。
二乃子は右わき腹、腕、太もものあたりを棘が引き裂いたのか裂傷があったが、それ以外に怪我はない。ただ気絶していたので何かほかに影響があるのかもしれない。
重症なのは篤の方で背中には黒い棘が刺さったらしい跡、腹部に至っては貫通したものもあったらしく、出血がひどかった。棘そのものはどこかへ消えていた。
「アズ!しっかり!」
満は篤の傷の応急手当を始めた。
「二ノ!アズ!」
奏が駆けてきて、二人の様子を確認する。見るからに重症の篤を見て、頷いた。
「アズは止血だけで大丈夫だよ、満殿。治癒術が上手いからね。自己治癒を始めてるみたいだ。」
問題は…と言って奏は二乃子の傷に手を触れていく。そうすると血が止まっていった。
そして、二乃子の口を開けると何か緑色の四角いものをいれた。次には気絶していた二乃子がカッと目を開き、咳き込んで起き上がった。
「二ノは味覚だけ正常だからね。今、口に入れたの、めちゃくちゃ苦いんだ。」
「カナ兄、なんかこれ、昔より苦い…。」
二乃子は咳き込み、舌を出し入れするのを繰り返している。
「体にはめちゃくちゃいいんだけどね。で、二乃子、何があった?」
二乃子ははっとして庭園の方を見た。そこでは黒い棘をハリネズミのようにまとった涼夜が地面に手をあててなにやらぶつぶつと呟いていた。
「あれは…。」
二乃子がふらふらと立ち上がり、さらによく見ようと目を細めた時だった。
音を立てて地面が大きく揺れた。反動で二乃子が後ろに倒れたのを抱き留め、抱え込んで地面に伏せる。隣では篤に覆いかぶさって奏が伏せた。
地面が揺れて、砂埃が異様にあがる。地震は数十分は続いた。
二乃子は本気で涼夜を殺しにきている。一般の男の子なら100年の恋も覚めるほど殺気だっているが、暗殺者としても修行を積んだ経験のある満からすればオールオッケーである。
むしろこの後二乃子に何を食べさせるか考えていた。
満は今、庭園の見渡せる後宮の陰に潜み、二乃子の様子を見守っていた。何かあればすぐに助けに行けるように。
小一時間ほどたったところだった。
「二ノ!危ない!」
篤が突然、二乃子に飛びついた。それと同時に水の塊から黒い棘のような物が生え、次々と打ち出された。そして、篤の背に数本、深々と刺さったのを満はしっかり目撃した。
黒い棘は後宮の建物自体にも襲い掛かったが、後宮は奏が強力な防御結界を施していたために無傷で数分にわたる棘の嵐を耐えきった。
嵐がやむと同時に少し離れたところで倒れていた二乃子と篤の体が、勝手に後宮に向かって吸い寄せられて結界内に入った。
慌てて満が駆け寄り、二人の様子を見る。
二乃子は右わき腹、腕、太もものあたりを棘が引き裂いたのか裂傷があったが、それ以外に怪我はない。ただ気絶していたので何かほかに影響があるのかもしれない。
重症なのは篤の方で背中には黒い棘が刺さったらしい跡、腹部に至っては貫通したものもあったらしく、出血がひどかった。棘そのものはどこかへ消えていた。
「アズ!しっかり!」
満は篤の傷の応急手当を始めた。
「二ノ!アズ!」
奏が駆けてきて、二人の様子を確認する。見るからに重症の篤を見て、頷いた。
「アズは止血だけで大丈夫だよ、満殿。治癒術が上手いからね。自己治癒を始めてるみたいだ。」
問題は…と言って奏は二乃子の傷に手を触れていく。そうすると血が止まっていった。
そして、二乃子の口を開けると何か緑色の四角いものをいれた。次には気絶していた二乃子がカッと目を開き、咳き込んで起き上がった。
「二ノは味覚だけ正常だからね。今、口に入れたの、めちゃくちゃ苦いんだ。」
「カナ兄、なんかこれ、昔より苦い…。」
二乃子は咳き込み、舌を出し入れするのを繰り返している。
「体にはめちゃくちゃいいんだけどね。で、二乃子、何があった?」
二乃子ははっとして庭園の方を見た。そこでは黒い棘をハリネズミのようにまとった涼夜が地面に手をあててなにやらぶつぶつと呟いていた。
「あれは…。」
二乃子がふらふらと立ち上がり、さらによく見ようと目を細めた時だった。
音を立てて地面が大きく揺れた。反動で二乃子が後ろに倒れたのを抱き留め、抱え込んで地面に伏せる。隣では篤に覆いかぶさって奏が伏せた。
地面が揺れて、砂埃が異様にあがる。地震は数十分は続いた。
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