救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
101 / 115

86 助手、見守る

しおりを挟む
二乃子が水の檻に涼夜を閉じ込めると言ったとき、篤は大層驚いていた。どうやら水を使う術というのは巫覡の中でも珍しいのだろう。

二乃子は本気で涼夜を殺しにきている。一般の男の子なら100年の恋も覚めるほど殺気だっているが、暗殺者としても修行を積んだ経験のある満からすればオールオッケーである。
むしろこの後二乃子に何を食べさせるか考えていた。

満は今、庭園の見渡せる後宮の陰に潜み、二乃子の様子を見守っていた。何かあればすぐに助けに行けるように。


小一時間ほどたったところだった。

「二ノ!危ない!」

篤が突然、二乃子に飛びついた。それと同時に水の塊から黒い棘のような物が生え、次々と打ち出された。そして、篤の背に数本、深々と刺さったのを満はしっかり目撃した。

黒い棘は後宮の建物自体にも襲い掛かったが、後宮は奏が強力な防御結界を施していたために無傷で数分にわたる棘の嵐を耐えきった。

嵐がやむと同時に少し離れたところで倒れていた二乃子と篤の体が、勝手に後宮に向かって吸い寄せられて結界内に入った。

慌てて満が駆け寄り、二人の様子を見る。

二乃子は右わき腹、腕、太もものあたりを棘が引き裂いたのか裂傷があったが、それ以外に怪我はない。ただ気絶していたので何かほかに影響があるのかもしれない。

重症なのは篤の方で背中には黒い棘が刺さったらしい跡、腹部に至っては貫通したものもあったらしく、出血がひどかった。棘そのものはどこかへ消えていた。

「アズ!しっかり!」

満は篤の傷の応急手当を始めた。

「二ノ!アズ!」

奏が駆けてきて、二人の様子を確認する。見るからに重症の篤を見て、頷いた。

「アズは止血だけで大丈夫だよ、満殿。治癒術が上手いからね。自己治癒を始めてるみたいだ。」

問題は…と言って奏は二乃子の傷に手を触れていく。そうすると血が止まっていった。

そして、二乃子の口を開けると何か緑色の四角いものをいれた。次には気絶していた二乃子がカッと目を開き、咳き込んで起き上がった。

「二ノは正常だからね。今、口に入れたの、めちゃくちゃ苦いんだ。」

「カナ兄、なんかこれ、昔より苦い…。」

二乃子は咳き込み、舌を出し入れするのを繰り返している。

「体にはめちゃくちゃいいんだけどね。で、二乃子、何があった?」

二乃子ははっとして庭園の方を見た。そこでは黒い棘をハリネズミのようにまとった涼夜が地面に手をあててなにやらぶつぶつと呟いていた。

「あれは…。」

二乃子がふらふらと立ち上がり、さらによく見ようと目を細めた時だった。

音を立てて地面が大きく揺れた。反動で二乃子が後ろに倒れたのを抱き留め、抱え込んで地面に伏せる。隣では篤に覆いかぶさって奏が伏せた。

地面が揺れて、砂埃が異様にあがる。地震は数十分は続いた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記

ぺきぺき
ファンタジー
とある東洋の島国の名門貴族家のエリート令息である満(みつる)は、文武両道の将来を期待された若君であった。しかし、何でも器用にこなすが故の悩みを抱え、将来に悩んでいたある日、人生をかけて愛するべき相手と出会った。 彼女はまだ10代の若さで国を巡って邪を払う、最強の巫女姫様だった。 エリート令息が規格外(にズボラ)の巫女姫をお世話して旅をしながら各地の怪異や問題を解決するお話。 ー--- 恋愛は遅々として進まないので、ファンタジーです。笑 執筆が完了済みの二章を公開します。その後、一度完結にしますが、続きを書ければまた投稿します。 第一章 夜市に浮かぶ火の玉 全8話 第二章 気の早い雪女 全7話 『救国の巫女姫、誕生史』の続編ではありますが、読んでいなくても問題ないです。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...