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85 巫女姫、妖術合戦をする
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それは、帝の力が急激に弱まったのを感じた夜8時、篤が屋根の上でぱっと顔をあげた。
「破れた!」
二乃子が立ちあがり、常磐家の別邸の方を向く。
「でも常磐の別邸からここまで、馬でも小一時間かかります。焦る必要は…。」
「来る!北北東!斜め47度上空に向けて!」
満の意見は、篤の声に遮られた。二乃子は空をつかんで錫杖を握る。
「殺る。」
「今!」
炎が突如巻き起こり、渦を巻いてすごい速さで篤が指定した方向へと吹き抜けていく。涼夜はかわすことはせずに炎の渦をぶった切って、二乃子たちの目の前に現れた。
「二乃子。篤。」
二乃子と篤は錫杖を構えて満の前に出る。涼夜は二人が協力する気がないのを見て取ると、問答無用で攻撃してきた。
「いやー!怖い怖い!」
篤が満と二乃子に飛びついて屋根から飛び降りると同時に、周囲がピカッと光ってドカーンという音とともに、三人がいた場所に雷が落ちた。
「ドゥ!」
城で一番高い屋根から落ちながら、二乃子は金色の鳥であるドゥを呼び、左側から満に抱き着いた。右側からは篤が抱き着く。ドゥが三人をつかんで涼夜から遠ざけ、二乃子が結界をはり涼夜からの追撃をかわす。
「師匠、一番得意な術は封じられているはずなのに、キレッキレだよ!」
篤がひーひー言っている。
「右旋回!師匠の横を抜けて建物の陰に!」
「右旋回。横を抜けてあの建物の陰に。」
「師匠は深追いせずに霊脈への接触を狙うはず!」
篤が指示を飛ばし、二乃子がドゥに命令する。そして三人は涼夜の攻撃を逃れ、いったん身を隠した。
「どうする?」
「正面からやりあっても勝てない。奇策を使うしかない。満殿は離れていてください。アズは一緒に来て。予知をお願い。」
「何するの?」
予知の正確性のために、これは伝えておかないといけない。
「城の庭園には池があるの。あの庭園のあたりが城の中心で師匠にとっても都合がいいはず。水で師匠を捕まえる。」
ーーーー
涼夜は二乃子が予想した通り、庭園のあたりで地面に足をついた。「シス。」と呟いて、右手に大ぶりな銀色の扇子を持つ。
師匠が霊脈への接触を始める直前に、大きく扇子を振った。
突風が巻き起こり、池の水をまき上げつつ、師匠に襲い掛かる。炎の渦をぶった切れる師匠は、もちろん突風なんてへでもないと薙ぎ払うが、二乃子の本命はそれではない。
妖術は炎、雷、風を操る術がほとんどである。下等な妖怪であってもそのような術を操るものは多いことから、巫覡にとっての難易度は高いが、妖術の中では簡単な部類がそれらの術なのだ。
そして、水を操るのは巫覡の妖術では不可能とされてきた。
故に、師匠にとっては完全に想定外の術となる。
散った風の合間から強引に水を動かし、師匠の全身にまとわりつかせ、顔も覆う。…このまま息の根を止めてやる。
本来、二乃子の性格はかなり物騒で口汚い。まあ、一人での修業が多かったのだから、過激思想を持つのも仕方がないのかもしれない。
水の塊とにらみ合うこと30分。やった?並の人間なら水中で30分も息を止めていられないはずだ。
「二ノ!危ない!」
篤の声がして、かばうように押し倒される。その一瞬後に黒い槍のようにとがった物が師匠を中心に四方に発射された。
「破れた!」
二乃子が立ちあがり、常磐家の別邸の方を向く。
「でも常磐の別邸からここまで、馬でも小一時間かかります。焦る必要は…。」
「来る!北北東!斜め47度上空に向けて!」
満の意見は、篤の声に遮られた。二乃子は空をつかんで錫杖を握る。
「殺る。」
「今!」
炎が突如巻き起こり、渦を巻いてすごい速さで篤が指定した方向へと吹き抜けていく。涼夜はかわすことはせずに炎の渦をぶった切って、二乃子たちの目の前に現れた。
「二乃子。篤。」
二乃子と篤は錫杖を構えて満の前に出る。涼夜は二人が協力する気がないのを見て取ると、問答無用で攻撃してきた。
「いやー!怖い怖い!」
篤が満と二乃子に飛びついて屋根から飛び降りると同時に、周囲がピカッと光ってドカーンという音とともに、三人がいた場所に雷が落ちた。
「ドゥ!」
城で一番高い屋根から落ちながら、二乃子は金色の鳥であるドゥを呼び、左側から満に抱き着いた。右側からは篤が抱き着く。ドゥが三人をつかんで涼夜から遠ざけ、二乃子が結界をはり涼夜からの追撃をかわす。
「師匠、一番得意な術は封じられているはずなのに、キレッキレだよ!」
篤がひーひー言っている。
「右旋回!師匠の横を抜けて建物の陰に!」
「右旋回。横を抜けてあの建物の陰に。」
「師匠は深追いせずに霊脈への接触を狙うはず!」
篤が指示を飛ばし、二乃子がドゥに命令する。そして三人は涼夜の攻撃を逃れ、いったん身を隠した。
「どうする?」
「正面からやりあっても勝てない。奇策を使うしかない。満殿は離れていてください。アズは一緒に来て。予知をお願い。」
「何するの?」
予知の正確性のために、これは伝えておかないといけない。
「城の庭園には池があるの。あの庭園のあたりが城の中心で師匠にとっても都合がいいはず。水で師匠を捕まえる。」
ーーーー
涼夜は二乃子が予想した通り、庭園のあたりで地面に足をついた。「シス。」と呟いて、右手に大ぶりな銀色の扇子を持つ。
師匠が霊脈への接触を始める直前に、大きく扇子を振った。
突風が巻き起こり、池の水をまき上げつつ、師匠に襲い掛かる。炎の渦をぶった切れる師匠は、もちろん突風なんてへでもないと薙ぎ払うが、二乃子の本命はそれではない。
妖術は炎、雷、風を操る術がほとんどである。下等な妖怪であってもそのような術を操るものは多いことから、巫覡にとっての難易度は高いが、妖術の中では簡単な部類がそれらの術なのだ。
そして、水を操るのは巫覡の妖術では不可能とされてきた。
故に、師匠にとっては完全に想定外の術となる。
散った風の合間から強引に水を動かし、師匠の全身にまとわりつかせ、顔も覆う。…このまま息の根を止めてやる。
本来、二乃子の性格はかなり物騒で口汚い。まあ、一人での修業が多かったのだから、過激思想を持つのも仕方がないのかもしれない。
水の塊とにらみ合うこと30分。やった?並の人間なら水中で30分も息を止めていられないはずだ。
「二ノ!危ない!」
篤の声がして、かばうように押し倒される。その一瞬後に黒い槍のようにとがった物が師匠を中心に四方に発射された。
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