救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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閑話 東雲頭領、来年のことを考える

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雨のぱらつく大晦日は静かに更けて行った。

夕飯を終えた後、九条家当主の弟である宇宙そらと夫である誠二せいじが書斎にて来年の九条家について話し合っていた。

「満は来年も巫覡院にいるつもりなのかな?」

「はっきりと聞いていませんが、配属一年で移動になることはまずないでしょう。満が順当に巫覡院に配属されたのにも驚いたが…。」

なにやら帝と密約があるのではないかと睨んでいる。

「二乃子は、巫覡院にいるだろうし、今日を乗り切れば予算も増え、人員も増強できる。まだまだ駆け出しでこれからだが、本当によくやってるよ。」

誠二は少し寂しそうな顔をしている。宇宙も満に距離を置かれているが、誠二は完全に二乃子に避けられている。昨日の朝は、誠二が何かやらかしたのではというぐらい露骨に目を背けられていた。

…二乃子はもう自分の両親について察しているのだろう。涼夜のせいでとんでもないすれ違いが起こってしまったが、この大晦日を乗り越えたら、素直に親子の名乗りをしたらいい。

「月はどうする?他の子供たちには16から仕事をするように言っているが、月は来年は17の年です。体調もいいなら仕事をしてもらうのは?」

「しかし、今もたまに寝込んでいるしな…。本人に相談してみるか…。あの子のは私にもよくわからないよ。」

「一花と凛はそろそろ地方赴任になるかもしれませんね。」

「女近衛のための設備はまだ地方では完備されていないからね。九条家に縁の土地になってくれれば何かと手は回せるが。」

「そのあたりは千尋ちひろがなんとかしてくれますよ。そのための近衛大将でしょう。」

千尋は妻の双葉ふたばは現在妊娠中である。任務の途中での妊娠に双葉に怒られてしまったと帰ってきた時に言っていた。

「彩葉と琅菜がまさか国試を受けて官吏になるとは…。とりあえずお金を貯めるって案外守銭奴なところはローズに似たみたいで。」

この調子で宇宙と誠二は来年のイメージを固めながら、夜が更けていく。

「…何も起きないね。」

「城では姉上も千尋も陛下のそばに控えていますから。よっぽどのことがない限り、大丈夫でしょう。」

「しかし、実力のある巫覡がみんなそろって『何かある』と言っているからね。」

誠二は少し不安な顔だ。そして、その不安は現実のものとなる。

一瞬後に、地面が大きく揺れたのだ。


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