救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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84 助手、大晦日を迎える

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九条家に一泊した翌朝、二乃子はいつも以上に萎れていた。

「二乃子殿?どうしました?」

「いえ…、帰りましょう。巫覡院に。」

巫覡院に帰った後、二乃子は篤となにやら話し込み、二人そろって萎れていた。


ーーーー


大晦日。多くの官吏が仕事を納め、家族とともに過ごすために家に帰っている。二乃子は城で一番高い建物の屋根の上に座っていた。

「二乃子殿、涼夜殿が行動するのはおそらく夜なんですよね?こんなお昼から屋根の上で見張っていなくても…。」

「今日はですから。」

二乃子は頭上に紺色の唐傘を浮かばせて、上空に薄い雨雲を呼んでいた。

「そろそろ雨を降らせましょうか。満殿、傘の下に来てください。」

満が二乃子の隣に座ると、ぱらぱらと雨が降り始めた。紺色の唐傘の下は雨が降っていない。

「これって、傘の外に雨が降るんですね?いや、傘ってそうなんですけど。…あ、おやき食べましょうか。」

満が持ってきたおやきを二乃子に食べさせる。二乃子は小さい口でもそもそと食べ始める。…朝食もあんまり職が進まないようだったし、今日を無事に終えることが大分ストレスになっているようだ。

「大丈夫です。二乃子殿は今日のために準備をしてきたし、アズも奏殿もいるじゃないですか。」

二乃子は少し真面目な顔をして満を見た。満が思わず息をのむ。

「満殿は、過去に戻りたいですか?」

「え?」

「過去に戻ってやり直したいことはありますか?」

急にどうしたんだろう?もしかして、まだわかっていない涼夜の動機に関係するのだろうか。

「お、俺は…、やり直したいことはいろいろありますけど、過去に戻りたいとは思いませんね。」

「…どうしてですか?」

「過去に戻ってそこを変えたら、今が変わってしまうかもしれないじゃないですか。俺は今、巫覡院で働くのが楽しいし、二乃子殿の面倒を見るのも気に入っています。」

二乃子は少し目を見開いて、それから考えるように食べかけのおやきを見つめた。

「そうですね。私も気に入ってますよ。」

「え?」

「満殿に、面倒を見てもらうの。」

そう言って満を見てにっこり笑顔になった。その後、満の顔が真っ赤になって二乃子が不思議そうな顔になったのは言うまでもない。

「でも、急に、どうしたんですか?」

「師匠の目的が、時戻しなんじゃないかと思って。」

「時戻し?できるんですか?」

「わかりません。でも、月の姫様の魂を九条家から剥がす必要があることから、魂だけで逆行する術なのではないかと思います。アズの星読みにも合致します。」

「星読み…、内容を俺が聞いても?」

「師匠は65歳にと。」



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