救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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83 巫女姫、大晦日を迎える

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大晦日に備えて二乃子はいろいろなことをやった。

まず秋の初めに行った、霊脈を枯渇させないための術式。これは結界と予知、さらに妖術を組み合わせたものだ。一定まで霊脈から霊力を吸い上げた後、気化した水分を吸い上げるように誘導する。

そのためにここ一週間は不自然じゃない程度に雨を降らせた。


次に、師匠を離れに閉じ込める結界術。師匠の厄介な精神操作とお得意の滅却の術を封じるのが目的だ。大晦日までに師匠がもしている。

結界を切る妖刀の実力次第ではあるが、離れの結界を壊す以外に師匠には離れを出る方法がない。しかし、離れの結界には篤の予知妨害が紐づいており、結界を捨てるということは、篤や二乃子に行動を予知される危険を冒すということになる。

そんな手は打たないだろう。実際打っていないし、二乃子の結界は妖刀に勝ったのかもしれない。


最後に、師匠の狙いに九条家の守護霊である月の姫様が絡むことが予想されることから、数か月ぶりに九条家に戻り、守護霊様と対面した。

『久しぶりだな。巫女姫。』

「九条家をお守りくださるお方、お久しぶりです。」

『何があったのか、話してくれるんだろう?』

二乃子は頷いて、師匠であり守護霊様の旧友でもある常磐涼夜が城下の霊脈の莫大な霊力を使って何か大規模な術を行おうとしているらしいこと、その決行がこの年の大晦日以外に考えられないこと、その目的にどうやら守護霊様の存在が絡んでいるらしいこと、を伝えた。

「どう思われます?」

『リョウの後悔におそらくこれだというものがある。』

二乃子は驚いて守護霊様を見た。

『巫覡院を巫女姫に任せる前にしっかりとした準備をしてやれなかったことだ。』

二乃子はきょとんとした。…巫覡院はちゃんとした建物もあったし、満もいたし、始動に何も困らなかったけど。

『本来なら、立ち上げの際に優秀な官吏を数人つけるべきだった。しかし、他の案件で新部署の立ち上げを任せられるような優秀な人材は手が空いていなかった。また、第二王子の件は極秘事項だったから巫覡院の重要性を伝えることもできず、人材が集まらなかった。
まだ10代の子供二人に立ち上げをやらせるなんて、普通は考えられない。その点、巫女姫はよくやったよ。』

そして、守護霊様は決まりが悪そうに斜め上を見た。

『そして巫覡院の立ち上げが上手くいかなかったのは、私が構想した段階で死んでしまったからだ。一番私の考えを理解してくれそうなは私が死んだあとは腑抜けになってしまっていたからな…。
永遠が官吏になって、そこそこの地位を得て、再び着手してくれたんだ。ちょうどタイミングよく巫女姫が生まれてくれたというのもある。』

「その後悔が守護霊様の黄泉返りを計画したきっかけかもしれない、と?」

『涼夜の後悔はもう一つあるわ。』

ぼわっともう一人、力の強い霊が現れた。その人物を見て二乃子がぎょっとする。

「おばあさま!?今までどこにいたんですか?」

いたわよ!二乃子よくがんばったわね!』

時子ときこ姫、今の話聞いてたか?』

『もちろんよ!』

祖母は腕を腰に当て、胸を張った。

『二乃子が山籠もりを終えた後、涼夜の夢枕に立ってやったのよ!ガツンと言ってやったわ!って。』

『あー、なんかリョウ、相当ひどいことした疑惑があるらしいな。誠二が書斎で泣いてたぞ。』

『そうね。誠二は泣いちゃうわね。』

「師匠がやったひどいことってなんですか?」

『あなたの両親から…もっと言うと篤くんの両親からも、たくさん手紙が来てたのよ。あなたの場合は誕生月にプレゼントも毎年よ。』

「え。」

そんなの…一通も届いていない。もちろん篤にも。小さいころは二人でよく門のところで郵便を待って自由時間を過ごしたものだ。

手紙は一通も来なくて、やがて待つことをやめて、両親の顔も忘れた。そして、私たちは捨てられたんだという思いだけが残った。

「ま、まさか、これも精神操作?」

『記憶操作もかかっているわね。対抗できるようになったからと言って、失った記憶や忘れた思いが帰ってくるわけではないわ。』

祖母は二乃子の手を優しく握った。

『あなたは両親にちゃんと愛されてる。にちゃんときいてみなさい。』


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