救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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82 助手、餌付けする

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レジェンド巫覡との休む間もない戦いに臨む二乃子をサポートするために満は甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

二乃子が涼夜にかけた二重の結界。あれを、二乃子の負荷を少なめにして、維持し続けるためには二乃子の体調が万全である必要がある。
術を使った直後に倒れてしまった二乃子を素早く巫覡院に連れて帰り、二週間ほど前から巫覡院の横で飼いだしたヤギのメーさんの乳を搾って毎日飲ませた。

二乃子はもちろん「飲んだことない」と言って喜んで毎日飲んでいる。ちなみにメーさんの名づけも二乃子による。

食事も間食を加えて一日五食食べさせる。二乃子の体重が全く増えてこないことから、これで適正量、もしくはまだ少ないのかもしれない。

夜は眠くないと言っても横にさせ、朝は適度にトレーニングをした。

「満殿の言うとおりにすると、術の持ちがいいです。」

と言っていつからか二乃子は満の餌付け行動も寝かしつけも朝のトレーニングも素直に受け入れるようになっていた。

「お母さんってきっとミッチーのことを言うんだよね。」

最近は巫覡院に泊まりこんでいる篤も二乃子と一緒に似たようなルーティンで過ごすようになっていた。…さすがに篤は一日五食食べさせたら太りだしたので、間食とメーさんの乳は途中でやめさせたが。


大晦日の三日前には、新しい巫覡が巫覡院にやってきた。

「こんにちは。今日からしばらくお世話になります。」

荷物を背負って巫覡院に現れたのは常磐奏。二乃子と篤の幼馴染で結界のスペシャリストの巫覡である。門から巫覡院までの案内は近衛の一花がやってくれた。

「奏殿、よくいらっしゃいました。」

「満殿。よろしくお願いします。」

奏は縁側にいた咲と陽己に挨拶し、蓮太郎に自己紹介をして奥にあがった。


巫覡が三人集まれば、展開されるのは涼夜の話だ。

「二乃子の結界、解析させられたよ。ごめん。正直に見立てを話した。」

「問題ないよ。カナ兄。」

「ちなみにどんな結界だったの?僕、お留守番だったから知らないんだよね。」

「二重の結界になっていて内側の薄い結界で師匠の精神操作を妨害して、外側の結界を離れの俺の結界と結びつけることで師匠を離れに閉じ込めたんだ。壊せないか相談されたけど、それは断ったよ。」

「師匠、壊せそう?」

「内側のは師匠じゃ難しいかもね。察知もできていないみたいだったから。外側も…どうだろう。結構な力を割かないと壊せなさそうだけど。」

「結界の巫覡の協力を仰げないなら、師匠には難しいと思う。城下まで来れなければ霊脈への接触も難しいだろうし。でもあの結界は妖術の使用を妨害するものではなく、まとっていても師匠の邪魔はしないから…。」

「離れの結界を壊せたら、城下へきて霊脈へ接触できてしまうということですね?」

満も心得たように話を挟む。

「はい。でも滅却の術は通さないので師匠が外側の結界を自力で壊すことも難しいと思いますが。」

「ここで里奈に聞いた新情報なんだけど…。」

奏は深刻そうな顔で言った。

「師匠、持ってるらしいんだ。羽月が使ってた。打ち直したのを欲しいと言われて渡したって。」

巫覡三人は重いため息をついた。



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