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81 巫女姫、捕獲作戦を決行する
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「師匠の離れにはアズの予知妨害とカナ兄の訪問者探知の結界があると思います。前回は招き入れられた形でしたが、今回のように招待なく侵入するのは不可能でしょう。」
「東雲の偵察もダメでした。なぜか離れに入れないと。」
「そして、それだけの守護がある離れを師匠が出ることはまずないでしょう。言い換えれば、離れの中では安心していると思います。それを利用して、離れに師匠を閉じ込めます。霊脈に接触するには城に来る必要がありますから。」
「でも離れの中にいる涼夜殿を捕獲するのは…どうやって?」
「結界は人仕様です。ネズミは入れませんでしたが、蜘蛛は入れました。」
「…どうしてそれがわかるのです?」
「私が一番得意なのは、使役です。使役は使い魔を作る術だと思われていますが、動物たちに協力を頼むのも使役に入ります。使役の中では失敗ととられる術ですが、汎用性は高いです。」
気持ち悪がられるかな…と思いつつ手のひらを開き、三匹の蜘蛛を見せる。そこそこ大きいサイズを選んできた。
満は蜘蛛を凝視した後、二乃子を見た。
「もしかして、蜘蛛越しに術をかけるとか言うんじゃないですよね?」
「その通りです。複雑な術なので、蜘蛛を一度に三匹使役して、三方向から術をかけます。」
「…まさか、人間も使役できるとか言わないですよね?」
「人間は思考回路が複雑なので使役できません。精神を操作して骨の髄から私に好意的であればできるかもしれませんが。」
…師匠が羽月ではなく私に意識操作の術を授けていたら、無敵になれたかもしれない。まあ身体接触がなければ無理な術のようなので、使ったら満の雷が落ちそうだ。キスだけで怒ったし。もう縁がない術だろう。
「行きますか?」
「はい。」
こうして、巫覡院の極秘任務がスタートした。
ーーーー
まず涼夜の離れの敷地のすぐ外側に満が忍び込み身を潜めた。次いで、二乃子が満につけた印めがけて転移してくる。そして、森の木々に隠れるようにして離れの様子をうかがいながら、蜘蛛を放つ。
まるで蜘蛛が任せろというように肢をあげて挨拶をして去っていく様は満にとって大変面白かったらしいと後で聞いた。
蜘蛛が離れの結界を越え、敷地に入り、涼夜を探し出したタイミングで、二乃子もボス蜘蛛の視点に切り替える。…目が8つもあって気持ち悪い。虫を使役する時の嫌な点だ。
途中で将軍に見つかりそうになりながらも、なんとか涼夜を見つけた。…一体将軍の神経はどうなっているんだ?蜘蛛からの視線を察知するなんて化け物だ。
ボス蜘蛛と子分蜘蛛で涼夜を囲み、二重の結界を展開する。
一つ目、精神操作を他者にかけられないよう内側に跳ね返す結界。
師匠が先の内戦で捉えられてもすぐに脱獄してきたのは、この精神操作で牢番を操るからである。今回も周囲の人間の手を借りて結界を破壊できないように結界を用意する。
また、この結界は師匠自身が張られていることを感じられないような薄いものにする。そうすれば内側からも破壊しにくい。
二つ目、師匠の得意な滅却の術対策の結界。
滅却の術と結界の基礎術である封印は相性が悪い。滅却の術なら結界を壊すことができる。そこでとりわけ頑丈な結界を作り、師匠にかける。
二つの結界を出来上がり直前まで師匠に気づかれずに構築し、構築した瞬間に同時に展開した。
なにやら書斎で書類をめくっていた涼夜ははっと顔をあげて四方を確認する。しかし、さすがに足元の蜘蛛にはまだ気づいていない。
その隙に、外側の結界と離れの結界を紐づけることで、師匠を離れから出れなくする。
終わった瞬間に蜘蛛たちの術を解き、自分も視点を戻す。そのままふらりと倒れたところを満が抱き留めてくれたのを感じた後、二乃子は意識を手放した。
「東雲の偵察もダメでした。なぜか離れに入れないと。」
「そして、それだけの守護がある離れを師匠が出ることはまずないでしょう。言い換えれば、離れの中では安心していると思います。それを利用して、離れに師匠を閉じ込めます。霊脈に接触するには城に来る必要がありますから。」
「でも離れの中にいる涼夜殿を捕獲するのは…どうやって?」
「結界は人仕様です。ネズミは入れませんでしたが、蜘蛛は入れました。」
「…どうしてそれがわかるのです?」
「私が一番得意なのは、使役です。使役は使い魔を作る術だと思われていますが、動物たちに協力を頼むのも使役に入ります。使役の中では失敗ととられる術ですが、汎用性は高いです。」
気持ち悪がられるかな…と思いつつ手のひらを開き、三匹の蜘蛛を見せる。そこそこ大きいサイズを選んできた。
満は蜘蛛を凝視した後、二乃子を見た。
「もしかして、蜘蛛越しに術をかけるとか言うんじゃないですよね?」
「その通りです。複雑な術なので、蜘蛛を一度に三匹使役して、三方向から術をかけます。」
「…まさか、人間も使役できるとか言わないですよね?」
「人間は思考回路が複雑なので使役できません。精神を操作して骨の髄から私に好意的であればできるかもしれませんが。」
…師匠が羽月ではなく私に意識操作の術を授けていたら、無敵になれたかもしれない。まあ身体接触がなければ無理な術のようなので、使ったら満の雷が落ちそうだ。キスだけで怒ったし。もう縁がない術だろう。
「行きますか?」
「はい。」
こうして、巫覡院の極秘任務がスタートした。
ーーーー
まず涼夜の離れの敷地のすぐ外側に満が忍び込み身を潜めた。次いで、二乃子が満につけた印めがけて転移してくる。そして、森の木々に隠れるようにして離れの様子をうかがいながら、蜘蛛を放つ。
まるで蜘蛛が任せろというように肢をあげて挨拶をして去っていく様は満にとって大変面白かったらしいと後で聞いた。
蜘蛛が離れの結界を越え、敷地に入り、涼夜を探し出したタイミングで、二乃子もボス蜘蛛の視点に切り替える。…目が8つもあって気持ち悪い。虫を使役する時の嫌な点だ。
途中で将軍に見つかりそうになりながらも、なんとか涼夜を見つけた。…一体将軍の神経はどうなっているんだ?蜘蛛からの視線を察知するなんて化け物だ。
ボス蜘蛛と子分蜘蛛で涼夜を囲み、二重の結界を展開する。
一つ目、精神操作を他者にかけられないよう内側に跳ね返す結界。
師匠が先の内戦で捉えられてもすぐに脱獄してきたのは、この精神操作で牢番を操るからである。今回も周囲の人間の手を借りて結界を破壊できないように結界を用意する。
また、この結界は師匠自身が張られていることを感じられないような薄いものにする。そうすれば内側からも破壊しにくい。
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終わった瞬間に蜘蛛たちの術を解き、自分も視点を戻す。そのままふらりと倒れたところを満が抱き留めてくれたのを感じた後、二乃子は意識を手放した。
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