救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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79 助手、またデートする

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大晦日まであと半月といった師走の半ば。満は二乃子を異人街に連れ出していた。

大晦日が近づくにつれて、二乃子は徐々に元気をなくしていった。夜に一人で泣いていることもあり、もしかして篤が星読みで告げたという涼夜殿の最期が近づいているのが辛いのかもしれない。
篤もどことなく辛そうな顔をしていることが増えた。

そこで、『クリスマス』という異国のイベントに向けて盛り上がる、異人街に二乃子を連れて行って気分転換をさせることにしたのだ。
僕も行きたーい、という篤に巫覡が不在なのはまずいからとか理由をつけて二人で出かけてきた。

つまりはデートである。


異人街にこの時期に並ぶマーケットは異国のお菓子や軽食を売る屋台や、『クリスマス』のためのオーナメントを売る店、プレゼント用のおもちゃを売る店が並ぶ。

珍しい異国の料理と温かい飲み物を買い、二乃子とベンチで食べる。

「すごいですね!見たことないものがいっぱいあります!」

満が勝ってきたホットサンドを一口食べて驚いた顔をしている。「食べたことない味です」と言いながらパクパクと食べていく。

…きっとたくさん食べるだろうと思って、多めに買ってきてよかった。

「二乃子殿、こっちのワッフルも食べてみてください。これは甘いですよ。」

「満殿はお母上が異人ですから、昔からよく異国の料理を食べていたんですか?」

満が差し出すワッフルを受け取りながら、二乃子が聞いてきた。

「そうですね…。母上に連れられて異人街に来ることはよくありました。その時には度々。」

「どっちの国の料理が好きですか?」

「え?難しいことききますね。でも、やっぱり毎日食べるならうちの料理長の料理がいいですね。異国の料理はたまにで十分です。」

ふと二乃子が手をとめた。

「もしかして、私が九条家に行かないの、迷惑かけてますか?」

「え?そんなことないですよ!城の料理も美味しいですし。16年間食べてきたので、しばらく食べなくても問題ないですよ!」

二乃子と食べる料理が一番おいしいです。とはさすがにドン引きされそうで言えなかった。


「飾りがいっぱいあるんですね。」

「巫覡院にも買って帰って飾りますか?」

二乃子は丸い玉飾りの装飾を見ながら、これはどうやって作るんだろうと観察している。巫覡院の色でもある白地に銀色の飾り模様の入った装飾をいくつか買っていく。

あと今日来られなかった篤と蓮太郎、咲たちに人型のクッキーを買った。二乃子が「私のお守りに似てますね」と言って喜んで買っていた。…以前渡されたペラペラの人型の紙と比べれば装飾もされていて大分可愛らしいが。

ふと満の目に出店に並ぶウサギのぬいぐるみが目に入った。特に白いウサギは二乃子の使い魔のトゥロワに見えなくもない。

「ぬいぐるみ、買いませんか?」

「え?」

「抱き枕代わりにでも。あれなんてトゥロワによく似てませんか?最近、二乃子殿夜に…。」

満ははっとして口をつぐむ。二乃子も気まずそうに目を逸らす。

「見てたんですか…。」

「いや、たまたまですよ?夜に二乃子殿がちゃんと寝てるか確認しに行ったら、たまたま…泣いているのを見て…。」

満は黙り込んでしまった二乃子を窺う。

「その、無理には聞きませんが、何か辛いことがあるなら言ってください。相談にのりますので。」

二乃子はちょっと笑うと頷いた。満はほっと安堵するが、後日、ここでちゃんと話を聞きださなかったことを後悔することとなる。

「じゃあ、ウサちゃん、買って帰りましょうか。もしかしたら満殿も泣きたいときに使えるかも。」

「な、俺は使いません!」


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