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77 助手、役割を果たす
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二乃子と篤が急に帰ると言い出し、帰路についた。満も慌てて後を追う。馬車に乗り、城下へと帰る。
「どれぐらい覚えてる?」
二乃子が頭を抑えながら篤に聞いた。
「なんとなく。やっぱり記憶操作にはまだこの術は弱いみたいだね…。ミッチーは?」
満が見えない篤は馬車の中をきょろきょろと見渡す。二乃子が満の手を取って術を解く。
「おお!見えた!」
「満殿は、ちゃんと覚えてますよね?」
「はい。ほぼ完ぺきに。」
そうして、満は二人に会談の一部始終を話して聞かせた。
ーーーー
「黄泉返りの話のところまでは、覚えてます。黄泉返りをするつもりだったがやめた、墓土では不可能だと。」
二乃子は腕を組んだ。
「でも、その後からよく覚えていません。私はもう霊脈を使わないのか確認し、師匠は黙秘したんですね。それは使うということでしょう。」
「そうだね。でも黄泉返りをすることは明確に否定した。だから、黄泉返り以外のことをしようとしているんだ。」
「黄泉返りをしようとした動機、今回のことも教えにのっとっている、と。つまり、民草のためだということでしょうか?」
「教えにのっとっている、と言っても、教えだけにのっとっているというわけではなさそうですね。」
まるで言葉遊びだ。涼夜の言ったことから言っていないことを推測する。この時は自分の記憶力が良く、ほぼ正確に涼夜の言葉を二人に伝えられたことに安堵した。
「その後、どうやら師匠はアズとカナ兄はまだ自分に逆らうほど術の影響を抜けられていないと判断した様ですね。その後の会話は二人に精神操作を上書きしようとしているように聞こえます。」
篤は青い顔をしている。
「九条家への悪感情を植え付けようとしています。」
「ごめん。精神操作の術以前の問題で僕もカナ兄も普通に引っかかった。」
術以前の問題…巧みな話し言葉で感情を揺さぶられてということでいいのだろうか?あの時確かに篤は何かを口走ろうとして二乃子に遮られていた。
「でも、その後の二ノの言葉で師匠はめちゃくちゃ動揺したんじゃないかな。記憶操作を強めにかけて僕たちを追い出したんだ。」
「『姉上の授業方法が唯一正しいと信じ込んで。』これってどういう意味ですか?」
二乃子は少し困ったように天を仰いでから、話し始めた。
「師匠が私に課していたオールラウンダー巫覡育成のための修行は、師匠の姉の巫覡殿がやっていた修行そのままなんです。」
「涼夜殿の姉、というと誠二伯父上の母君ですね。」
「はい。常磐家外の人は、知らないと思いますが、師匠の姉君は前任の大巫女でオールラウンダー巫覡なのです。」
「え?大巫女?でも伯父上の母君は貴族の家に嫁いで女主人をしていたって…。」
「まあ、大巫女にまでなれば常磐家にずっといなくても大事な時に飛んでこれますから。」
二乃子はしれっと言うが、満には信じられないことだった。それと同時に、大巫女の孫巫覡だったら、いったいどれだけの力を持つことになるんだろうとふと思った。
「それを聞いた師匠は、私がほぼ完全に自分の精神支配から抜けていると思ったことでしょう。」
「霊脈の力を使うかどうかを明言しなかったのは、撤退する余地を残したとは考えられませんか?」
二乃子と篤は顔を見合わせる。
「師匠にとっては今年がラストチャンスです。撤退するとは考えにくいでしょう。」
二乃子は淡々と言ったが、篤の顔が真っ青だったのが気になった。
「どれぐらい覚えてる?」
二乃子が頭を抑えながら篤に聞いた。
「なんとなく。やっぱり記憶操作にはまだこの術は弱いみたいだね…。ミッチーは?」
満が見えない篤は馬車の中をきょろきょろと見渡す。二乃子が満の手を取って術を解く。
「おお!見えた!」
「満殿は、ちゃんと覚えてますよね?」
「はい。ほぼ完ぺきに。」
そうして、満は二人に会談の一部始終を話して聞かせた。
ーーーー
「黄泉返りの話のところまでは、覚えてます。黄泉返りをするつもりだったがやめた、墓土では不可能だと。」
二乃子は腕を組んだ。
「でも、その後からよく覚えていません。私はもう霊脈を使わないのか確認し、師匠は黙秘したんですね。それは使うということでしょう。」
「そうだね。でも黄泉返りをすることは明確に否定した。だから、黄泉返り以外のことをしようとしているんだ。」
「黄泉返りをしようとした動機、今回のことも教えにのっとっている、と。つまり、民草のためだということでしょうか?」
「教えにのっとっている、と言っても、教えだけにのっとっているというわけではなさそうですね。」
まるで言葉遊びだ。涼夜の言ったことから言っていないことを推測する。この時は自分の記憶力が良く、ほぼ正確に涼夜の言葉を二人に伝えられたことに安堵した。
「その後、どうやら師匠はアズとカナ兄はまだ自分に逆らうほど術の影響を抜けられていないと判断した様ですね。その後の会話は二人に精神操作を上書きしようとしているように聞こえます。」
篤は青い顔をしている。
「九条家への悪感情を植え付けようとしています。」
「ごめん。精神操作の術以前の問題で僕もカナ兄も普通に引っかかった。」
術以前の問題…巧みな話し言葉で感情を揺さぶられてということでいいのだろうか?あの時確かに篤は何かを口走ろうとして二乃子に遮られていた。
「でも、その後の二ノの言葉で師匠はめちゃくちゃ動揺したんじゃないかな。記憶操作を強めにかけて僕たちを追い出したんだ。」
「『姉上の授業方法が唯一正しいと信じ込んで。』これってどういう意味ですか?」
二乃子は少し困ったように天を仰いでから、話し始めた。
「師匠が私に課していたオールラウンダー巫覡育成のための修行は、師匠の姉の巫覡殿がやっていた修行そのままなんです。」
「涼夜殿の姉、というと誠二伯父上の母君ですね。」
「はい。常磐家外の人は、知らないと思いますが、師匠の姉君は前任の大巫女でオールラウンダー巫覡なのです。」
「え?大巫女?でも伯父上の母君は貴族の家に嫁いで女主人をしていたって…。」
「まあ、大巫女にまでなれば常磐家にずっといなくても大事な時に飛んでこれますから。」
二乃子はしれっと言うが、満には信じられないことだった。それと同時に、大巫女の孫巫覡だったら、いったいどれだけの力を持つことになるんだろうとふと思った。
「それを聞いた師匠は、私がほぼ完全に自分の精神支配から抜けていると思ったことでしょう。」
「霊脈の力を使うかどうかを明言しなかったのは、撤退する余地を残したとは考えられませんか?」
二乃子と篤は顔を見合わせる。
「師匠にとっては今年がラストチャンスです。撤退するとは考えにくいでしょう。」
二乃子は淡々と言ったが、篤の顔が真っ青だったのが気になった。
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