88 / 115
76 巫女姫、言い争う
しおりを挟む
「状況証拠は全て師匠を指していますから。」
「何をしようとしているかもわかっていると?」
「状況証拠からは、霊脈の霊力を使って、月の姫様の黄泉返りを狙っているのではないかと。正直、なんでそんなことをしようとしているのか、全く理解できません。」
自分たちの推測が合っているのか確かめるためにも、ここはなるべく具体的に尋ねた方がいい。何しろ涼夜は嘘がつけない。特に、大きな術を使う準備をしている今は。
涼夜は少し驚いた顔をした。
「なぜ、そう思った?」
「月の姫様の墓参りに行き、墓土のが荒らされていることに気づきました。」
「そうか…。」
「黄泉返りをするつもりなんですか?」
「黄泉返りをするつもりだったがやめた。墓土での黄泉返りは不可能だ。」
二乃子は目を見開いた。横では篤が同じ顔をして二乃子の方を見た。
「では、もう霊脈の力を使って何かをする気はないということですか?」
騙されてはいけない。二乃子は民草の安全を背負っているのだから、しっかり確認しなくてはならない。
師匠は答えなかった。しかし、何もしないなら否定すればいい。否定しないなら、何かするということだ。
「師匠はなんで黄泉返りを計画したの?」
篤がきいた。声色から困惑の色が聞いて取れる。
「師匠、昔言ってたよね?『巫覡の力は力を持たない民草のためだ』って。そんな大掛かりな術をしたら、周囲の環境にも影響が出るし、次はもっと大きな地震になるかもしれない!霊脈の霊力が枯渇すれば、不作になって多くの人が苦しむ!」
「そうです、師匠!やっていることが矛盾してます!それとも…。」
あの教えは全部嘘だったんですか?篤も奏もそう聞きたかったのだろうけど、問いかけることができなかった。
「俺はお前たちに間違ったことを教えたことは一度もない。今回の行動も教えにのっとったものだ。」
篤と奏が息をのんだ。この二人はまだ涼夜の精神操作の影響を抜け切れていないと、涼夜は判断した様だ。二乃子に向き直り問答を再開する。
「どこまで帝に報告した?」
「師匠のが疑わしいと、私からは告げていません。」
代わりに帝から言ってもらいましたけど。
「九条家の子供たちにも?」
「同様に。」
多分満が言ってるけど。
「ですが、時間の問題でしょう?もうとっくに疑われています。だから、帝と九条家が私を疑うように秋の地震を起こしたのでしょう?信じられませんでした。」
暗に師匠にこっちは裏切られているということを示す。
「九条家はとんでもない、家だな、本当に。自分たちの都合でお前に厳しい修行をさせていたのに、少し意に沿わないとすぐに手のひらを反す。」
九条家がお前を裏切っていると、洗脳しようとする。反応したのは二乃子ではなく、隣にいた巫覡の二人だった。
「え?どいういこと?」
「二ノのあの過酷な修行は九条家のせいだったのですか?」
「じゃあ二ノが…。」
「責任転嫁しないでください。師匠。」
篤の声を遮る。
「私を鍛えるよう頼んだのは九条家でも、厳しい修行をさせたのは師匠だ。姉上の修行方法が唯一正しいと信じ込んで。」
涼夜が目を見開いた。
「お前、まさか、姉上が視えるのか?」
こうして、二乃子と篤は会談を終えて巫覡院に帰るが、正直後半の記憶は曖昧だった。
「何をしようとしているかもわかっていると?」
「状況証拠からは、霊脈の霊力を使って、月の姫様の黄泉返りを狙っているのではないかと。正直、なんでそんなことをしようとしているのか、全く理解できません。」
自分たちの推測が合っているのか確かめるためにも、ここはなるべく具体的に尋ねた方がいい。何しろ涼夜は嘘がつけない。特に、大きな術を使う準備をしている今は。
涼夜は少し驚いた顔をした。
「なぜ、そう思った?」
「月の姫様の墓参りに行き、墓土のが荒らされていることに気づきました。」
「そうか…。」
「黄泉返りをするつもりなんですか?」
「黄泉返りをするつもりだったがやめた。墓土での黄泉返りは不可能だ。」
二乃子は目を見開いた。横では篤が同じ顔をして二乃子の方を見た。
「では、もう霊脈の力を使って何かをする気はないということですか?」
騙されてはいけない。二乃子は民草の安全を背負っているのだから、しっかり確認しなくてはならない。
師匠は答えなかった。しかし、何もしないなら否定すればいい。否定しないなら、何かするということだ。
「師匠はなんで黄泉返りを計画したの?」
篤がきいた。声色から困惑の色が聞いて取れる。
「師匠、昔言ってたよね?『巫覡の力は力を持たない民草のためだ』って。そんな大掛かりな術をしたら、周囲の環境にも影響が出るし、次はもっと大きな地震になるかもしれない!霊脈の霊力が枯渇すれば、不作になって多くの人が苦しむ!」
「そうです、師匠!やっていることが矛盾してます!それとも…。」
あの教えは全部嘘だったんですか?篤も奏もそう聞きたかったのだろうけど、問いかけることができなかった。
「俺はお前たちに間違ったことを教えたことは一度もない。今回の行動も教えにのっとったものだ。」
篤と奏が息をのんだ。この二人はまだ涼夜の精神操作の影響を抜け切れていないと、涼夜は判断した様だ。二乃子に向き直り問答を再開する。
「どこまで帝に報告した?」
「師匠のが疑わしいと、私からは告げていません。」
代わりに帝から言ってもらいましたけど。
「九条家の子供たちにも?」
「同様に。」
多分満が言ってるけど。
「ですが、時間の問題でしょう?もうとっくに疑われています。だから、帝と九条家が私を疑うように秋の地震を起こしたのでしょう?信じられませんでした。」
暗に師匠にこっちは裏切られているということを示す。
「九条家はとんでもない、家だな、本当に。自分たちの都合でお前に厳しい修行をさせていたのに、少し意に沿わないとすぐに手のひらを反す。」
九条家がお前を裏切っていると、洗脳しようとする。反応したのは二乃子ではなく、隣にいた巫覡の二人だった。
「え?どいういこと?」
「二ノのあの過酷な修行は九条家のせいだったのですか?」
「じゃあ二ノが…。」
「責任転嫁しないでください。師匠。」
篤の声を遮る。
「私を鍛えるよう頼んだのは九条家でも、厳しい修行をさせたのは師匠だ。姉上の修行方法が唯一正しいと信じ込んで。」
涼夜が目を見開いた。
「お前、まさか、姉上が視えるのか?」
こうして、二乃子と篤は会談を終えて巫覡院に帰るが、正直後半の記憶は曖昧だった。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記
ぺきぺき
ファンタジー
とある東洋の島国の名門貴族家のエリート令息である満(みつる)は、文武両道の将来を期待された若君であった。しかし、何でも器用にこなすが故の悩みを抱え、将来に悩んでいたある日、人生をかけて愛するべき相手と出会った。
彼女はまだ10代の若さで国を巡って邪を払う、最強の巫女姫様だった。
エリート令息が規格外(にズボラ)の巫女姫をお世話して旅をしながら各地の怪異や問題を解決するお話。
ー---
恋愛は遅々として進まないので、ファンタジーです。笑
執筆が完了済みの二章を公開します。その後、一度完結にしますが、続きを書ければまた投稿します。
第一章 夜市に浮かぶ火の玉 全8話
第二章 気の早い雪女 全7話
『救国の巫女姫、誕生史』の続編ではありますが、読んでいなくても問題ないです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
素直になる魔法薬を飲まされて
青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。
王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。
「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」
「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」
わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。
婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる