救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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74 助手、驚きの作戦を聞く

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「九条将軍が、いなくなった?」

朝のトレーニング前に真っ黒な装束に身を包んだ宇宙が音もなく巫覡院へ訪れた。…まあ音もなく訪れても巫覡院には来客探知の結界があるので鈴が鳴ってすぐにわかるのだが。

最近は巫覡院に篤も泊まり込んでおり、すぐさま水晶玉を出して探索を始めた。

「僕、将軍に会ったことないから、とりあえず生年月日を教えてもらっても?ちょっと見てみるよ。」

しばらく探して、もう少し情報をとさらに詳しい身長や体重、髪色、血筋なんかを聞き取り、さらに探す。

「うん、見つからないです。」

小一時間でさじを投げた。宇宙はいぶかし気な顔をする。

「この国で、アズが予知できない場所が二か所あります。一か所目はここ巫覡院。二か所目は…私たちが育った師匠の離れです。」

「どういうことだ?」

「僕がをかけているので。」

「離れの中に入らないことには、中の様子を探れないんです。」

「術は解けないんですか?」

「師匠にバレますから、それはやめておきたいです。…でも、いいタイミングかもしれませんね。」

「「「いいタイミング?」」」

「師匠に直接話を聞きに行く、いいタイミングだと。」

二乃子はさも簡単なことであるかのように、そう言った。


ーーーー


宇宙を追い返した後、作戦会議が始まった。

「師匠は今、調べたいことがあるはずです。」

「僕たち、とくに二乃子が自分の言うことをどれくらい聞くのか、だね。」

「師匠は私たちが師匠の精神操作を見破り、回避のために距離を取ろうとしていることを察しているでしょう。おそらく、頼みごとをしても理由を求められるぐらいには精神操作が解けていることも。」

「かけなおせるのか、もう術にかけることもできないのか、把握したいということですか?」

「はい。そして、自分に意思があるかどうか。」

「僕たちは小さいころから師匠のことが好きになるように育てられてきたんだ。二乃子は力が強いから当時よく反発してたけど、今思うと不自然なほどその後は可愛がられてた。それでころっと機嫌を直すんだ。」

「つまり、長く続いた精神汚染はなかなか抜け出せない、と私たちも師匠も考えているのです。」

「それが嘘ばっかりだったとも思えないしね。師匠は特にから。」

どうやら満が予想した通り、二乃子と篤の中には、あまり涼夜を邪魔したくない気持ちがあるらしい。

「だから、ここで私たちが面会を申し込んでも、拒否はしない、ということです。将軍が離れにいる証拠をつかまれてもかまわないと考えるでしょう。」

「それに、まだ術が完全に解かれていない自信もあると思う。まだちょっとぐずぐず言ってるカナ兄をそばに置いてるし、リナ姉には気づいてもいないから。羽月は最後まで心酔してたし。」

「むしろ解けていないと思わせる。」

二乃子が力強く言った。

「そして、師匠がのを利用して可能な限り情報を引き出す。」

「待って、僕たちが記憶操作に引っかかったらどうする?しゃべりすぎたことを忘れさせられるかも。」

「…結界をはっているから大丈夫なのではないのですか?」

「記憶操作を受けたので、この結界が記憶操作に対応しているかわからないのです。でも、大丈夫、満殿がいます。」

「「え?」」

「満殿を透明人間にして連れて行って、会話のすべてを覚えておいてもらうのです。」


いや、もう巫覡ってなんでもありなの?と満は思う。

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