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69 巫女姫、仲直りする
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二乃子は満の言葉に怒って、水差しを割ったことを度々思い出し、ため息をついた。
…恥ずかしい。でも、むしゃくしゃしたものが収まらない。
気づけば一週間も満と口をきいていなかった。術をするためにはそろそろどうにかしなければ。
「二乃子殿。」
咲が奥の部屋で作業していた二乃子に声をかけた。
「満殿、物を取りに九条家にいったん戻ったよ。」
…そう。今、術を展開しちゃえばいいんじゃない?
しかし、咲が涙ながらに抱き着いてきて、それをさせなかった。
「二乃子殿!満殿を許してあげて!」
「…咲?どうしたの?」
「二乃子殿、満殿と喧嘩したんでしょ?満殿が、悪いよ、多分。」
巫覡院にいる人は何かあるといつも満が悪いと言っているような気がする。でも、今回のことは私も悪いだろう。あそこで意固地に全部秘密だと言わず、情報を小出しにすればよかったのだ。
許可を得るには、どう考えたってそうする必要があったのだから。
「満殿ね、二乃子殿が寝ている間、ずっと看病してたんだよ?」
「え?」
「二乃子殿、うなされてるとき、ずっと手を握ってくれてたんだよ?きっと全然寝てなかったんだよ!だから変なこと言っちゃったんだよ!」
咲は満のために、いかに二乃子に満が尽くしていたのか、言葉を尽くす。
…これを満が聞いていたら、恥ずかしがって咲を止めただろう。でも、二乃子はそれが聞けて嬉しさと共にいらだちをぶつけた後悔がこみあげてきた。
「満殿、二乃子殿のこと大好きなんだよ?」
二乃子はふっと笑って咲を抱きしめた。
「そうだね。私も満殿、大好きだよ。もちろん咲もね。ありがとう。」
咲は、なんかちょっと意味が違う気がする、と思ったが、二乃子に抱きしめられたのが嬉しくてすぐに忘れた。
ーーーー
結局、満の不在を狙って術を展開することはしなかった。
大人しく帰ってくるのを縁側で咲と待っていると、夕方になりあたりが薄暗くなったころ、荷物を抱えた満が帰ってきた。
「満殿、お帰りなさい。」
「え、あ、ただいま帰りました。あの、二乃子殿…えっと…。」
満はそわそわと荷物を開き、いつかにも見たたくさんのランタンを取り出した。翠都でも見た綺麗なランタンだ。
「今日はちょっと息抜きをしませんか。料理長に包子もたくさんつくってもらってきました。咲、手伝って。」
「私、やり方わかります!満殿は二乃子殿とお話ししてください!」
咲が満の手からランタンを奪い取る。満が一瞬固まる。
「わ、わかった。」
満と二乃子は縁側から中に入り、居間のソファに並んで座った。
「満殿、先日はいらだちをぶつけてしまって…すみませんでした。」
「待ってください!先に謝らないでください!」
満が慌てて遮る。
「俺のほうこそ、この前はすみませんでした。なんか、イライラしてしまって。帝や父上たちが、二乃子殿を調べろ、と言われているのに、二乃子殿が、その、さらに疑わせようみたいなことを言うから…。」
満が目線を二乃子から逸らすとバツが悪そうな顔をした。
「二乃子殿の嫌な思い出にふれてしまったこと、謝ります。今日まで謝れなかったことも。九条家のこと、よく思っていなかったことを知って、どう話しかけていいかわからなくて…。」
「確かに、複雑な思いがあります。九条家に対しても、師匠に対しても、帝に対しても。でも、被害を受ける民草は守られなければなりませんから。巫覡院の活動に思うところはありません。」
「俺は、二乃子殿の助けになりたいんです。苦しめるつもりはありません。…だから、嫌なことがあったら正直に言ってください。…篤殿に巫覡は術に対して嘘はつかないと聞きました。
嘘で人を操る予知の術と、真を保つ必要がある術、どっちも使う二乃子が秘密主義になるのは当然です。」
二乃子は驚いた。篤がそんなことを満に言うとは。
「もしかして、俺がこれまで巫覡について根掘り葉掘り質問したのは、不快だったんじゃありませんか?」
…やっと気づいたか。でも、まあ、満ならいいか、と最近は二乃子も思う。
「まあ、最初は不快でしたけど、今は気にしてないです。満殿は、なんか、私のことすごく大切にしてくれますから。」
二乃子は苦笑しながら言うと、なぜか満は顔を真っ赤にしてしまった。
…恥ずかしい。でも、むしゃくしゃしたものが収まらない。
気づけば一週間も満と口をきいていなかった。術をするためにはそろそろどうにかしなければ。
「二乃子殿。」
咲が奥の部屋で作業していた二乃子に声をかけた。
「満殿、物を取りに九条家にいったん戻ったよ。」
…そう。今、術を展開しちゃえばいいんじゃない?
しかし、咲が涙ながらに抱き着いてきて、それをさせなかった。
「二乃子殿!満殿を許してあげて!」
「…咲?どうしたの?」
「二乃子殿、満殿と喧嘩したんでしょ?満殿が、悪いよ、多分。」
巫覡院にいる人は何かあるといつも満が悪いと言っているような気がする。でも、今回のことは私も悪いだろう。あそこで意固地に全部秘密だと言わず、情報を小出しにすればよかったのだ。
許可を得るには、どう考えたってそうする必要があったのだから。
「満殿ね、二乃子殿が寝ている間、ずっと看病してたんだよ?」
「え?」
「二乃子殿、うなされてるとき、ずっと手を握ってくれてたんだよ?きっと全然寝てなかったんだよ!だから変なこと言っちゃったんだよ!」
咲は満のために、いかに二乃子に満が尽くしていたのか、言葉を尽くす。
…これを満が聞いていたら、恥ずかしがって咲を止めただろう。でも、二乃子はそれが聞けて嬉しさと共にいらだちをぶつけた後悔がこみあげてきた。
「満殿、二乃子殿のこと大好きなんだよ?」
二乃子はふっと笑って咲を抱きしめた。
「そうだね。私も満殿、大好きだよ。もちろん咲もね。ありがとう。」
咲は、なんかちょっと意味が違う気がする、と思ったが、二乃子に抱きしめられたのが嬉しくてすぐに忘れた。
ーーーー
結局、満の不在を狙って術を展開することはしなかった。
大人しく帰ってくるのを縁側で咲と待っていると、夕方になりあたりが薄暗くなったころ、荷物を抱えた満が帰ってきた。
「満殿、お帰りなさい。」
「え、あ、ただいま帰りました。あの、二乃子殿…えっと…。」
満はそわそわと荷物を開き、いつかにも見たたくさんのランタンを取り出した。翠都でも見た綺麗なランタンだ。
「今日はちょっと息抜きをしませんか。料理長に包子もたくさんつくってもらってきました。咲、手伝って。」
「私、やり方わかります!満殿は二乃子殿とお話ししてください!」
咲が満の手からランタンを奪い取る。満が一瞬固まる。
「わ、わかった。」
満と二乃子は縁側から中に入り、居間のソファに並んで座った。
「満殿、先日はいらだちをぶつけてしまって…すみませんでした。」
「待ってください!先に謝らないでください!」
満が慌てて遮る。
「俺のほうこそ、この前はすみませんでした。なんか、イライラしてしまって。帝や父上たちが、二乃子殿を調べろ、と言われているのに、二乃子殿が、その、さらに疑わせようみたいなことを言うから…。」
満が目線を二乃子から逸らすとバツが悪そうな顔をした。
「二乃子殿の嫌な思い出にふれてしまったこと、謝ります。今日まで謝れなかったことも。九条家のこと、よく思っていなかったことを知って、どう話しかけていいかわからなくて…。」
「確かに、複雑な思いがあります。九条家に対しても、師匠に対しても、帝に対しても。でも、被害を受ける民草は守られなければなりませんから。巫覡院の活動に思うところはありません。」
「俺は、二乃子殿の助けになりたいんです。苦しめるつもりはありません。…だから、嫌なことがあったら正直に言ってください。…篤殿に巫覡は術に対して嘘はつかないと聞きました。
嘘で人を操る予知の術と、真を保つ必要がある術、どっちも使う二乃子が秘密主義になるのは当然です。」
二乃子は驚いた。篤がそんなことを満に言うとは。
「もしかして、俺がこれまで巫覡について根掘り葉掘り質問したのは、不快だったんじゃありませんか?」
…やっと気づいたか。でも、まあ、満ならいいか、と最近は二乃子も思う。
「まあ、最初は不快でしたけど、今は気にしてないです。満殿は、なんか、私のことすごく大切にしてくれますから。」
二乃子は苦笑しながら言うと、なぜか満は顔を真っ赤にしてしまった。
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