救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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68 助手、反省する

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翌日から、二乃子は満と仕事以外で口をきかなかった。何かあったことは巫覡院中の皆が知るところとなり、いろいろな人が仲直りの助言をしてきた。

「そうしていると、満殿も年相応ですね。」

自分の机に額を打ち付けながら、二乃子との喧嘩を思い返してうなだれる満に、最初に声をかけたのは人生の先輩・蓮太郎である。

「本当に満殿は二乃子殿のために官吏になったんですね。喧嘩しただけで仕事も手についてないですよ。」

「喧嘩しただけっていうか。」

満は明らかに胸に秘めたる二乃子の涼夜への、そして九条家への怒りを引き出してしまった。それを聞いてしまった今、九条家の令息である自分が二乃子とどう接すればいいのか、わからなかった。

「とりあえず、謝り倒して許してもらうしかないでしょう。だって、これが満殿のなのですから。」

蓮太郎は内心、さっさと結婚しろと思いながら書類をめくった。


ーーーー


「うーん、ミッチーが二ノと喧嘩するのは予知できてなかったから…回避させられなくてごめんね。予知って感情的になって起きるイベントにはあまり効かないんだよね。」

次に声をかけてきたのは、二乃子歴の先輩・篤だった。

「二乃子殿の術について詳しくきいたら、言い争いになってさ…。」

「あーなるほど。教えてくれなきゃ許可できないとか言ったんでしょ。」

図星だ。篤はちょっと悩んだ顔をしてから、とても大事なことを教えてくれた。

「巫覡ってさ、自分の術が大掛かりであればあるほど、術に対してんだよね。」

「え?」

「巫覡ならだれでも知ってるんだけどね。自分に嘘をつく行為は術の威力を弱めるんだ。言霊の力だよ。」

「…でも予知の能力者は散々嘘をつくってきいたけど。」

「そりゃ予知はね。相手の行動を誘導することで強さを発揮するからさ。巫覡が専門化する理由の一つだよ。嘘で強力になる術と、真で強力になる術があるんだ。
だからさ、二ノが術の内容を伏せるときは、『それは危険ですか?』って聞けばいいんだよ。」

にも伝えていいから~と言って篤は去っていった。

じゃあ、オールラウンダーの二乃子はどうするのか…何も話さないが最適解になるのか。


ーーーー


「全く、お前はまた二乃子を傷つけたのか?」

久々の登場、精神力の先輩・陽己が満にお説教をかましにきた。

「咲が二乃子が元気がないと泣いておったぞ!」

…ごめん、咲。心配かけて。

「何か頑張っている二乃子に水を差すようなことを言ったのだろう。」

「…なぜわかるのですか、陽己殿。」

「お前の仕事は二乃子を父上たちから守ることだろう!二乃子を助けるために官吏になったのではなかったのか?お主がさらに負荷をかけてどうする!」

「わかっております。」

「いや、わかっておらん。もう一週間も二乃子をあの状態で放っておくのはそういうことだ!」

「でも、二乃子殿が話をしてくれなくて…。」

思わず言い訳をしてしまう。

「なぜ好きな女子に自分から行動させようとするのだ。そんなもの、自分でなんとかしろ。フラれるぞ!」

「え、え?」

満が真っ赤になった。


ーーーー


「あらあら、まあまあ!」

最後に、満はなぜか九条家で月にアドバイスをもらっていた。…本当は彩葉に相談しに来たのだが、いなかった。

「じゃあ、満殿は二乃子殿のことが?まあ!お似合いだと思っていましたわ!」

「月姫、はしゃがないでください…。恥ずかしいです…。」

月は誠二によく似た顔でふふふと笑った。

「でも、二乃子殿は正直、満殿をそのようには見ていないと思いますよ。今は…そうね、といったところかしら。思いを伝えるにも、時期尚早かと。」

運命に?不思議な表現だ。

「わかっています。しばらくは今までと変わらずに、二乃子殿を支えようと思います。」

「そうね。私からアドバイスするとすれば、といったところかしら。」

「…九条家のことを考えろということですか?」

「まさか!」

月は声をたてて笑った。

「欲しい女は必ず手に入れ、かつこの国の益となるように事を回せ、ということです。」


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