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66 助手、看病する
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「墓土が盗まれるって、墓土を何に使おうと考えているのでしょうか?」
「過去に黄泉返りの術に墓土を用いた事例を呼んだことがあります。もちろん失敗していますが。」
「墓土を使えるということは、故人が亡くなって長い間墓に入っていないといけない。でもその場合だと魂が昇天しているから魂が戻ってこず、ただの動く土の塊にしかならないんだ。」
「でも、月の姫様は違う。」
「違う?」
篤が不思議そうな顔をした。
「月の姫様は、守護霊として九条家にいらっしゃる。魂はまだ昇天してない。」
「じゃあ、九条家から引き離すことができれば…。でも墓土に魂をくっつけるなんて相当難易度が高いんじゃない?羽月の時みたいなフレッシュな死体と違うんだから。」
「羽月は霊脈の力なしにそれをやってのけた。つまり、霊脈の力があれば、あれ以上のことができるかもしれない。」
その日から二乃子はなにやら術式を構築すると言って、巫覡院に籠った。
ーーーー
「二乃子殿、もう三日も籠っていますが?」
秘書官としてやってきた蓮太郎への引継ぎを終え、スムーズに彼の巫覡院での仕事も始まった。
「死んでいないことはちゃんと確認しています。」
二乃子は一心不乱に紙に何かを書き連ね、たまに円陣や五芒星を書き、ぶつぶつと何かを唱えている。満は1時間おきに様子を確認しに行き、そのたびに二乃子の口に食べ物をつっこんで帰ってくる。
「多分だけど、二ノは直感的に今回の術では霊脈枯渇寸前まで霊力が奪われる可能性に思い当たったんじゃないかな…。僕もそう思うし。」
「そうなると、作物の不作などが長年にわたり深刻化しうる、と。」
「だから、何か術を考えているんじゃないかな…。僕には全然思いつかないけど。複数の技を使えるとこういうときに一人で技の構成ができちゃうんだよね。」
この三日の間に蓮太郎への情報共有もすませた。想定できない問題の大きさに目を回していた。
二乃子が奥の部屋から出てきたのはその日の夕方だった。
「術ができました。今から…。」
その場にばたんと二乃子が倒れた。一瞬の沈黙の後、巫覡院が大騒動に見舞われた。
その晩から、二乃子はひどい熱を出し、満が寝ずの看病をした。…ちゃんと食べさせて仮眠もとらせてたから大丈夫だと思っていたけど、やっぱり精神的な負担は計り知れなかったのかもしれない。
「すみません、二乃子殿…。俺がついていながら…。」
二乃子はうわ言で「行きたくない」「一人は嫌だ」「クソジジイ」みたいなことを繰り返し呟いており、篤に聞くと目線を明後日の方向に泳がせた。
「多分、山籠もりの修行に無理やり行かされた日のことを夢に見てるのかな…。ミッチーには言わなかったっけ?修行が嫌で二ノは離れを半壊させたって。その後、気絶させられてどこかの山に置き去りにされたんだ。」
「え?」
想像していたより大分壮絶である。
「師匠、ちょっと二乃子に対しては過度に期待をかけすぎていたというか、オールラウンダーにならなければいけないとことあるごとに言い聞かせてた。
あとオールラウンダーはこういう風に育つっていう強固な信念みたいのがあってね。二乃子には人にあまり術のことも話させなかったし、なるべく人となれあわせなかったね。」
もしかして、それは巫覡院の立ち上げに涼夜が強い思いを持っていたことの表れではないだろうか。
「陰で『クソジジイ』って呼んでるの、よく聞いてたよ。懐かしい。」
篤は笑っているが、満にとっては笑い事ではない。
二乃子が一人は嫌だと言っているのを見ると、胸が痛んだ。だから、看病の間はなるべくそばにいて手を握っていた。…俺がそばにいますよ、というつもりで。
献身的に看病した満だったが、回復した二乃子とは開口一番に大喧嘩することとなる。
「過去に黄泉返りの術に墓土を用いた事例を呼んだことがあります。もちろん失敗していますが。」
「墓土を使えるということは、故人が亡くなって長い間墓に入っていないといけない。でもその場合だと魂が昇天しているから魂が戻ってこず、ただの動く土の塊にしかならないんだ。」
「でも、月の姫様は違う。」
「違う?」
篤が不思議そうな顔をした。
「月の姫様は、守護霊として九条家にいらっしゃる。魂はまだ昇天してない。」
「じゃあ、九条家から引き離すことができれば…。でも墓土に魂をくっつけるなんて相当難易度が高いんじゃない?羽月の時みたいなフレッシュな死体と違うんだから。」
「羽月は霊脈の力なしにそれをやってのけた。つまり、霊脈の力があれば、あれ以上のことができるかもしれない。」
その日から二乃子はなにやら術式を構築すると言って、巫覡院に籠った。
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「二乃子殿、もう三日も籠っていますが?」
秘書官としてやってきた蓮太郎への引継ぎを終え、スムーズに彼の巫覡院での仕事も始まった。
「死んでいないことはちゃんと確認しています。」
二乃子は一心不乱に紙に何かを書き連ね、たまに円陣や五芒星を書き、ぶつぶつと何かを唱えている。満は1時間おきに様子を確認しに行き、そのたびに二乃子の口に食べ物をつっこんで帰ってくる。
「多分だけど、二ノは直感的に今回の術では霊脈枯渇寸前まで霊力が奪われる可能性に思い当たったんじゃないかな…。僕もそう思うし。」
「そうなると、作物の不作などが長年にわたり深刻化しうる、と。」
「だから、何か術を考えているんじゃないかな…。僕には全然思いつかないけど。複数の技を使えるとこういうときに一人で技の構成ができちゃうんだよね。」
この三日の間に蓮太郎への情報共有もすませた。想定できない問題の大きさに目を回していた。
二乃子が奥の部屋から出てきたのはその日の夕方だった。
「術ができました。今から…。」
その場にばたんと二乃子が倒れた。一瞬の沈黙の後、巫覡院が大騒動に見舞われた。
その晩から、二乃子はひどい熱を出し、満が寝ずの看病をした。…ちゃんと食べさせて仮眠もとらせてたから大丈夫だと思っていたけど、やっぱり精神的な負担は計り知れなかったのかもしれない。
「すみません、二乃子殿…。俺がついていながら…。」
二乃子はうわ言で「行きたくない」「一人は嫌だ」「クソジジイ」みたいなことを繰り返し呟いており、篤に聞くと目線を明後日の方向に泳がせた。
「多分、山籠もりの修行に無理やり行かされた日のことを夢に見てるのかな…。ミッチーには言わなかったっけ?修行が嫌で二ノは離れを半壊させたって。その後、気絶させられてどこかの山に置き去りにされたんだ。」
「え?」
想像していたより大分壮絶である。
「師匠、ちょっと二乃子に対しては過度に期待をかけすぎていたというか、オールラウンダーにならなければいけないとことあるごとに言い聞かせてた。
あとオールラウンダーはこういう風に育つっていう強固な信念みたいのがあってね。二乃子には人にあまり術のことも話させなかったし、なるべく人となれあわせなかったね。」
もしかして、それは巫覡院の立ち上げに涼夜が強い思いを持っていたことの表れではないだろうか。
「陰で『クソジジイ』って呼んでるの、よく聞いてたよ。懐かしい。」
篤は笑っているが、満にとっては笑い事ではない。
二乃子が一人は嫌だと言っているのを見ると、胸が痛んだ。だから、看病の間はなるべくそばにいて手を握っていた。…俺がそばにいますよ、というつもりで。
献身的に看病した満だったが、回復した二乃子とは開口一番に大喧嘩することとなる。
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