救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
76 / 115

65 巫女姫、墓参りする

しおりを挟む
「じゃあ、すみわけはそのような感じで。明日からよろしくお願いします。」

どうやら、蓮太郎殿が巫覡院に秘書官として来てくれることになったらしい。

二人の打ち合わせを、横で満が剥いてくれた果物を食べながら聞いた。

「予算管理をやっていただけたら、いろいろと助かります。お金の官吏ってそれだけで気を使いますから。」

「いえ、よくこれだけの仕事を一人でされていましたね。」

やっぱり、満の仕事は過多だったようだ。果物をもぐもぐしながらうんうんと頷く。

満は二乃子が果物だったら特に口に突っ込まなくても自分から食べることを発見し、もっぱらおやつには果物だった。

「にしても、案外食べ物の手配が多いんですね?どなたがこんなに食べるんですか?」

ーえ!多いの?
二乃子が驚いた顔で満を見た。満は何でもない顔でしれっとしている。

「巫覡は体が資本ですから。無理にでも食べさせないといけないんです。これからは、ちょっと珍しい食べ物を多めに用意してください。」

なぜ、珍しい食べ物?と思ったが、深くは聞くまい。

そこに二の姫のるながやってきた。

「満殿、二乃子殿、お仕事終わりましたか?今日は休日なのでしたら、これから一緒におばあさまのお墓参りに行きませんか?」

二の姫のおばあ様、現九条家の守護霊様のお墓参りである。


ーーーー


秋の始まるこの季節は、守護霊様の命日が近い。そこで九条家の子供たちは手の空いたものからお墓参りに行くそうだ。

守護霊様は生前、月の姫様と呼ばれ人々に親しまれていた。そのお墓は城下で一番大きなお寺にある。

「やあ、二乃子、満、それに月も。」

寺には月の姫様の夫である九条将軍がいた。

「おじい様?どうしてこちらに?」

「妻の命日が近づくと、こちらの寺で世話になって、毎日墓参りをしているんだ。」

月の姫様の魂は守護霊として九条家にいる、が、それが視えない将軍にとって、奥方をしのぶ場所はここなのだろう。

「そういえば、昨日は涼夜が来たんだよ。」

二乃子がピクリと反応する。

「もう私と涼夜しか生きていないからね。ここ数年は涼夜もこの時期によく寺に来てくれるんだ。」

将軍は一つの立派な墓の前で止まった。異国の花がたくさん供えられており、それだけで来訪者の多さがうかがえた。

「私が死んだらこの墓に入れてほしいって三人にも伝えておくよ。」

将軍は優しい笑顔で言った。


「師匠に昔、好きな人はいたんですか?」

二乃子が直球な質問を将軍に投げかける。墓を参っていた満が驚いて咳き込む。

「満殿?」

二乃子の不思議そうな顔を見て、なぜか真っ赤になって目を逸らした。…なぞだ。

「うーん、私は把握していないな。私も妻も縁談を紹介したことは何度かあったんだけど、その度に断られてね。」

「なんで師匠は結婚しなかったんでしょう?巫覡は数を減らさないように、子孫を残すことを求められますが…。」

師匠が派閥を持たない、いや理由として自分の後を継ぐ似たような技を使う巫覡がいないことがあげられる。弟子の私たちも、結局師匠の技を全ては継げなかった。

そして、自分の直の子供が最も技の傾向が似るのだ。

「なぜだろうね。まあ、涼夜が常磐家をことは間違いないよ。常磐に根付かなきゃいけなくなるようなことはしたくなかったんじゃないかな。」

でも、師匠は結局常磐に根付いている。その矛盾が意味するところは何なのだろう。


将軍が知己達の墓を巡るため、いなくなった後も、月がもう少し墓にいたいというので二乃子と満も付き合う形で月の姫様の墓に残った。

あたりをぐるぐると回って墓を眺めていた二乃子は月の姫様の墓の裏手で不自然なを見つけた。迷わずぺたりとそこに膝をつき、手をつく。

…おかしい。この土だけ周りの土とが違う。まるでどこかからこの土を持ってきたような。

土を手でつかんで観察する。どれくらいの量があるのか、その場を素手で掘り返す。

「ちょっと!二乃子殿!泥遊びなんてしないでください!」

満が慌てて二乃子を捕まえる。

「満殿、ここの土、ここのじゃないです。」

「え?」

「誰かが月の姫様の墓の土を盗んで別の土を盛った様です。」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記

ぺきぺき
ファンタジー
とある東洋の島国の名門貴族家のエリート令息である満(みつる)は、文武両道の将来を期待された若君であった。しかし、何でも器用にこなすが故の悩みを抱え、将来に悩んでいたある日、人生をかけて愛するべき相手と出会った。 彼女はまだ10代の若さで国を巡って邪を払う、最強の巫女姫様だった。 エリート令息が規格外(にズボラ)の巫女姫をお世話して旅をしながら各地の怪異や問題を解決するお話。 ー--- 恋愛は遅々として進まないので、ファンタジーです。笑 執筆が完了済みの二章を公開します。その後、一度完結にしますが、続きを書ければまた投稿します。 第一章 夜市に浮かぶ火の玉 全8話 第二章 気の早い雪女 全7話 『救国の巫女姫、誕生史』の続編ではありますが、読んでいなくても問題ないです。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...