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65 巫女姫、墓参りする
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「じゃあ、すみわけはそのような感じで。明日からよろしくお願いします。」
どうやら、蓮太郎殿が巫覡院に秘書官として来てくれることになったらしい。
二人の打ち合わせを、横で満が剥いてくれた果物を食べながら聞いた。
「予算管理をやっていただけたら、いろいろと助かります。お金の官吏ってそれだけで気を使いますから。」
「いえ、よくこれだけの仕事を一人でされていましたね。」
やっぱり、満の仕事は過多だったようだ。果物をもぐもぐしながらうんうんと頷く。
満は二乃子が果物だったら特に口に突っ込まなくても自分から食べることを発見し、もっぱらおやつには果物だった。
「にしても、案外食べ物の手配が多いんですね?どなたがこんなに食べるんですか?」
ーえ!多いの?
二乃子が驚いた顔で満を見た。満は何でもない顔でしれっとしている。
「巫覡は体が資本ですから。無理にでも食べさせないといけないんです。これからは、ちょっと珍しい食べ物を多めに用意してください。」
なぜ、珍しい食べ物?と思ったが、深くは聞くまい。
そこに二の姫の月がやってきた。
「満殿、二乃子殿、お仕事終わりましたか?今日は休日なのでしたら、これから一緒におばあさまのお墓参りに行きませんか?」
二の姫のおばあ様、現九条家の守護霊様のお墓参りである。
ーーーー
秋の始まるこの季節は、守護霊様の命日が近い。そこで九条家の子供たちは手の空いたものからお墓参りに行くそうだ。
守護霊様は生前、月の姫様と呼ばれ人々に親しまれていた。そのお墓は城下で一番大きなお寺にある。
「やあ、二乃子、満、それに月も。」
寺には月の姫様の夫である九条将軍がいた。
「おじい様?どうしてこちらに?」
「妻の命日が近づくと、こちらの寺で世話になって、毎日墓参りをしているんだ。」
月の姫様の魂は守護霊として九条家にいる、が、それが視えない将軍にとって、奥方をしのぶ場所はここなのだろう。
「そういえば、昨日は涼夜が来たんだよ。」
二乃子がピクリと反応する。
「もう私と涼夜しか生きていないからね。ここ数年は涼夜もこの時期によく寺に来てくれるんだ。」
将軍は一つの立派な墓の前で止まった。異国の花がたくさん供えられており、それだけで来訪者の多さがうかがえた。
「私が死んだらこの墓に入れてほしいって三人にも伝えておくよ。」
将軍は優しい笑顔で言った。
「師匠に昔、好きな人はいたんですか?」
二乃子が直球な質問を将軍に投げかける。墓を参っていた満が驚いて咳き込む。
「満殿?」
二乃子の不思議そうな顔を見て、なぜか真っ赤になって目を逸らした。…なぞだ。
「うーん、私は把握していないな。私も妻も縁談を紹介したことは何度かあったんだけど、その度に断られてね。」
「なんで師匠は結婚しなかったんでしょう?巫覡は数を減らさないように、子孫を残すことを求められますが…。」
師匠が派閥を持たない、いや持てない理由として自分の後を継ぐ似たような技を使う巫覡がいないことがあげられる。弟子の私たちも、結局師匠の技を全ては継げなかった。
そして、自分の直の子供が最も技の傾向が似るのだ。
「なぜだろうね。まあ、涼夜が常磐家を嫌っていることは間違いないよ。常磐に根付かなきゃいけなくなるようなことはしたくなかったんじゃないかな。」
でも、師匠は結局常磐に根付いている。その矛盾が意味するところは何なのだろう。
将軍が知己達の墓を巡るため、いなくなった後も、月がもう少し墓にいたいというので二乃子と満も付き合う形で月の姫様の墓に残った。
あたりをぐるぐると回って墓を眺めていた二乃子は月の姫様の墓の裏手で不自然な盛り土を見つけた。迷わずぺたりとそこに膝をつき、手をつく。
…おかしい。この土だけ周りの土と霊力の溜まり方が違う。まるでどこかからこの土を持ってきたような。
土を手でつかんで観察する。どれくらいの量があるのか、その場を素手で掘り返す。
「ちょっと!二乃子殿!泥遊びなんてしないでください!」
満が慌てて二乃子を捕まえる。
「満殿、ここの土、ここのじゃないです。」
「え?」
「誰かが月の姫様の墓の土を盗んで別の土を盛った様です。」
どうやら、蓮太郎殿が巫覡院に秘書官として来てくれることになったらしい。
二人の打ち合わせを、横で満が剥いてくれた果物を食べながら聞いた。
「予算管理をやっていただけたら、いろいろと助かります。お金の官吏ってそれだけで気を使いますから。」
「いえ、よくこれだけの仕事を一人でされていましたね。」
やっぱり、満の仕事は過多だったようだ。果物をもぐもぐしながらうんうんと頷く。
満は二乃子が果物だったら特に口に突っ込まなくても自分から食べることを発見し、もっぱらおやつには果物だった。
「にしても、案外食べ物の手配が多いんですね?どなたがこんなに食べるんですか?」
ーえ!多いの?
二乃子が驚いた顔で満を見た。満は何でもない顔でしれっとしている。
「巫覡は体が資本ですから。無理にでも食べさせないといけないんです。これからは、ちょっと珍しい食べ物を多めに用意してください。」
なぜ、珍しい食べ物?と思ったが、深くは聞くまい。
そこに二の姫の月がやってきた。
「満殿、二乃子殿、お仕事終わりましたか?今日は休日なのでしたら、これから一緒におばあさまのお墓参りに行きませんか?」
二の姫のおばあ様、現九条家の守護霊様のお墓参りである。
ーーーー
秋の始まるこの季節は、守護霊様の命日が近い。そこで九条家の子供たちは手の空いたものからお墓参りに行くそうだ。
守護霊様は生前、月の姫様と呼ばれ人々に親しまれていた。そのお墓は城下で一番大きなお寺にある。
「やあ、二乃子、満、それに月も。」
寺には月の姫様の夫である九条将軍がいた。
「おじい様?どうしてこちらに?」
「妻の命日が近づくと、こちらの寺で世話になって、毎日墓参りをしているんだ。」
月の姫様の魂は守護霊として九条家にいる、が、それが視えない将軍にとって、奥方をしのぶ場所はここなのだろう。
「そういえば、昨日は涼夜が来たんだよ。」
二乃子がピクリと反応する。
「もう私と涼夜しか生きていないからね。ここ数年は涼夜もこの時期によく寺に来てくれるんだ。」
将軍は一つの立派な墓の前で止まった。異国の花がたくさん供えられており、それだけで来訪者の多さがうかがえた。
「私が死んだらこの墓に入れてほしいって三人にも伝えておくよ。」
将軍は優しい笑顔で言った。
「師匠に昔、好きな人はいたんですか?」
二乃子が直球な質問を将軍に投げかける。墓を参っていた満が驚いて咳き込む。
「満殿?」
二乃子の不思議そうな顔を見て、なぜか真っ赤になって目を逸らした。…なぞだ。
「うーん、私は把握していないな。私も妻も縁談を紹介したことは何度かあったんだけど、その度に断られてね。」
「なんで師匠は結婚しなかったんでしょう?巫覡は数を減らさないように、子孫を残すことを求められますが…。」
師匠が派閥を持たない、いや持てない理由として自分の後を継ぐ似たような技を使う巫覡がいないことがあげられる。弟子の私たちも、結局師匠の技を全ては継げなかった。
そして、自分の直の子供が最も技の傾向が似るのだ。
「なぜだろうね。まあ、涼夜が常磐家を嫌っていることは間違いないよ。常磐に根付かなきゃいけなくなるようなことはしたくなかったんじゃないかな。」
でも、師匠は結局常磐に根付いている。その矛盾が意味するところは何なのだろう。
将軍が知己達の墓を巡るため、いなくなった後も、月がもう少し墓にいたいというので二乃子と満も付き合う形で月の姫様の墓に残った。
あたりをぐるぐると回って墓を眺めていた二乃子は月の姫様の墓の裏手で不自然な盛り土を見つけた。迷わずぺたりとそこに膝をつき、手をつく。
…おかしい。この土だけ周りの土と霊力の溜まり方が違う。まるでどこかからこの土を持ってきたような。
土を手でつかんで観察する。どれくらいの量があるのか、その場を素手で掘り返す。
「ちょっと!二乃子殿!泥遊びなんてしないでください!」
満が慌てて二乃子を捕まえる。
「満殿、ここの土、ここのじゃないです。」
「え?」
「誰かが月の姫様の墓の土を盗んで別の土を盛った様です。」
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