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63 巫女姫、昔を振り返る
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3歳で常磐家に連れてこられた二乃子は同時期に常磐家に来た篤と共にすぐに涼夜に預けられた。
涼夜に与えられた離れで育ち、4歳の頃には新たに涼夜に預けられた3つ年上の里奈とともに大分早めに巫覡の基礎術の教育を受け始めた。
そして基礎術をマスターした7歳の頃、涼夜は羽月を除く教え子たちに巫覡とは何なのかを教え聞かせた。
「今回、無事に奏が巫覡名簿に載り、里奈、二乃子、篤も基礎術の授業を終えた。二乃子と篤はまだ年齢の問題で巫覡名簿には載れないが、実力としてはもう立派な巫覡だ。
これから応用術を学んでいくお前たちに巫覡とは何なのかを伝えたい。」
このころの涼夜はまだ白髪もほどほどだった。この翌年に大巫女であった姉を亡くし、一気に老け込んでいく。
「巫覡は体内で霊力を作り、術をくりだすことができる存在じゃないの?」
篤が首をかしげる。
「ああ。そうだ。俺が話したいのは、巫覡が何のためにその力を使うのか、ということだ。」
奏と里奈は真面目な顔をしていたが二乃子と篤はよくわからず、顔を見合わせた。
「我々は特別な力を持っている。体内で霊力を作れるし、それを自在に操れる。巫覡の目を持てば、普通の人が視えないものが視える。この力は力を持たない民草を守るために神より与えられたものだ。
妖や天災に対抗する術を我々は持っている。その力を世のために使うんだ。」
ーーーー
10歳になると、二乃子と篤は巫覡名簿に載った。この時には篤は予知の技を鍛え、さらに少し前に星読みの才能が開花した。
一方の、二乃子は器用にすべての術をこなすオールラウンダーであり、一つの術に全力を割く常磐家の巫覡たちでは教えられることはほとんどなかった。
だからだろう。涼夜は一人で山籠もり修行をするように二乃子に命令した。
「え?アズは?」
「篤は常磐家で星読みについて学び、修行をしなければならない。この前も失敗したばかりだろう。」
「なんで私だけ一人で修業しなきゃいけないの?アズもカナ兄も派閥で先輩から習うのに!」
「お前はオールラウンダーだ。均等に技に力を割き、力のやりくりをする方法は自分で身につけなければいけない。『巫覡は孤独で強くなる』んだ。お前は才能があるんだから強くならなければならない。」
「常磐家にいても強くなれる!」
この先、長くはないのに、なぜそんな孤独に過ごさなければならないのか。
「だめだ。この修業は私の姉もやっていた修行だ。姉もオールラウンダーだった。お前には必要な修行だ。」
涼夜は二乃子に言い聞かせにかかる。
「お前には、将来的に国のために城で働いてもらう任務がある。姉も…、私の友も、待ち望んだ部署の立ち上げにお前が必要なんだ。」
「師匠の姉上は私じゃない!!私はそんなことやりたくない!!」
二乃子の内側から霊力が発散し、部屋の柱にミシっとひびが入った。涼夜の目も怒りにそまり、次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
ーーーー
目を開けた時、二乃子は見知らぬ家の床に寝転がっていた。むくりと起き上がると心配そうな黒猫のアンが膝に乗ってきてにゃーと鳴いた。
「アン。」
二乃子はあたりを見回し、周りに全く人の気配がないのを察した。横に以前師匠からもらったカバンがあるだけだ。
「あーあ。」
二乃子はまたその場に寝転がった。…もう死んじゃおうかな。
そうして、三日過ぎたころ、その人は現れた。
『待ったく、あの子ったら、無理やりやらせてもこういう修業は意味がないのにね。』
黒髪に黒目の霊体の女性だった。まとう力に近いものを感じて、すぐにこの人と直径で血がつながっているとわかった。
「誰?お母さま?」
『ふふふ。違うの。あなたのおばあちゃんよ。』
涼夜に与えられた離れで育ち、4歳の頃には新たに涼夜に預けられた3つ年上の里奈とともに大分早めに巫覡の基礎術の教育を受け始めた。
そして基礎術をマスターした7歳の頃、涼夜は羽月を除く教え子たちに巫覡とは何なのかを教え聞かせた。
「今回、無事に奏が巫覡名簿に載り、里奈、二乃子、篤も基礎術の授業を終えた。二乃子と篤はまだ年齢の問題で巫覡名簿には載れないが、実力としてはもう立派な巫覡だ。
これから応用術を学んでいくお前たちに巫覡とは何なのかを伝えたい。」
このころの涼夜はまだ白髪もほどほどだった。この翌年に大巫女であった姉を亡くし、一気に老け込んでいく。
「巫覡は体内で霊力を作り、術をくりだすことができる存在じゃないの?」
篤が首をかしげる。
「ああ。そうだ。俺が話したいのは、巫覡が何のためにその力を使うのか、ということだ。」
奏と里奈は真面目な顔をしていたが二乃子と篤はよくわからず、顔を見合わせた。
「我々は特別な力を持っている。体内で霊力を作れるし、それを自在に操れる。巫覡の目を持てば、普通の人が視えないものが視える。この力は力を持たない民草を守るために神より与えられたものだ。
妖や天災に対抗する術を我々は持っている。その力を世のために使うんだ。」
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10歳になると、二乃子と篤は巫覡名簿に載った。この時には篤は予知の技を鍛え、さらに少し前に星読みの才能が開花した。
一方の、二乃子は器用にすべての術をこなすオールラウンダーであり、一つの術に全力を割く常磐家の巫覡たちでは教えられることはほとんどなかった。
だからだろう。涼夜は一人で山籠もり修行をするように二乃子に命令した。
「え?アズは?」
「篤は常磐家で星読みについて学び、修行をしなければならない。この前も失敗したばかりだろう。」
「なんで私だけ一人で修業しなきゃいけないの?アズもカナ兄も派閥で先輩から習うのに!」
「お前はオールラウンダーだ。均等に技に力を割き、力のやりくりをする方法は自分で身につけなければいけない。『巫覡は孤独で強くなる』んだ。お前は才能があるんだから強くならなければならない。」
「常磐家にいても強くなれる!」
この先、長くはないのに、なぜそんな孤独に過ごさなければならないのか。
「だめだ。この修業は私の姉もやっていた修行だ。姉もオールラウンダーだった。お前には必要な修行だ。」
涼夜は二乃子に言い聞かせにかかる。
「お前には、将来的に国のために城で働いてもらう任務がある。姉も…、私の友も、待ち望んだ部署の立ち上げにお前が必要なんだ。」
「師匠の姉上は私じゃない!!私はそんなことやりたくない!!」
二乃子の内側から霊力が発散し、部屋の柱にミシっとひびが入った。涼夜の目も怒りにそまり、次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
ーーーー
目を開けた時、二乃子は見知らぬ家の床に寝転がっていた。むくりと起き上がると心配そうな黒猫のアンが膝に乗ってきてにゃーと鳴いた。
「アン。」
二乃子はあたりを見回し、周りに全く人の気配がないのを察した。横に以前師匠からもらったカバンがあるだけだ。
「あーあ。」
二乃子はまたその場に寝転がった。…もう死んじゃおうかな。
そうして、三日過ぎたころ、その人は現れた。
『待ったく、あの子ったら、無理やりやらせてもこういう修業は意味がないのにね。』
黒髪に黒目の霊体の女性だった。まとう力に近いものを感じて、すぐにこの人と直径で血がつながっているとわかった。
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