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閑話 新米四席、九条家に行く
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地震が起きた。
正月の時よりも、大きく、そして長く揺れた。
そうして揺れが収まると、篤はぱっと顔をあげた。地面にへたりこんでいた蓮太郎と目が合う。
「みんな、怪我はない?」
各々に返事をする。篤は頷くと立ち上がる。
「僕は陛下のところに行ってくる!彩葉ちゃん、陽己と咲ちゃんをよろしくね!」
「は、はい!」
篤は巫覡院内から自分のカバンを引っ張り出して、背負い、なんと跳びあがり空中を走っていった。
「え?」
「巫覡院で秘書官するなら、慣れた方がいいですよ。」
ーーーー
その後、深刻な二次災害が起こる場所を予知した篤にヘルプ人員としてこき使われた蓮太郎が城内にある自分の宿舎に戻ったのは夕飯時だった。
食堂でゆっくりご飯でも、と思っていたが。
「も、燃えた…?」
城内で最も被害が大きかった場所の一つが、若手官吏の宿舎だった。どうやら食堂から火が出て宿舎に燃え移り、半焼したらしい。幸い日中だったため、宿舎には人がいなく、食堂からはすぐに非難したことから、篤は人を派遣しなかったのだ。
「宿舎に滞在していたみなさんには近衛が宿舎を開放してくれてるよ。多分もう空いてないけど。」
すでに寝床を手配した先輩官吏に教えられ、急いで近衛の宿舎に向かったが、すでに空き部屋は満タンだった。
話を聞くに、すでに空はなく、しっかり仕事をしていて帰りの遅い真面目な者が宿無しになってしまうという状況になっていた。
同じく宿がない楓太と合流した蓮太郎は途方にくれた。
もっというと部屋も燃えたので、着替えとかもない。宿舎に入れないということは食事も自分で確保しなければならない。実家に仕送りをしている身としてはその出費はつらい。
「とりあえず、職場で寝るしか…。」
「あれ、蓮太郎殿?」
振り返るとそこには巫覡院で会った赤毛の少女・彩葉がショートカットで長身の女性と近衛宿舎の横に立っていた。
「もしかして、宿無しになってしまわれたのですか?」
「は、はい。彩葉殿、でしたね?彩葉殿も宿無しに?」
「いえ。実は父上から宿無しで困っている我が家の知り合いがいたら回収してくるようにと頼まれてここに。」
蓮太郎はどういうことだと首をかしげる。彩葉は隣の長身の女性となにやら話し込み、頷きあう。
「蓮太郎殿は兄上のお友達だと伺っておりますから、当家にご招待しても問題ないでしょう。お隣の方は今年の首席殿とお見受けしますが。」
「はい。そうです。もしかして、満の妹姫?」
「申し遅れました。九条家の五の姫・彩葉と申します。満は兄です。」
美しい所作でお辞儀をした彩葉。
「お二人とも、ぜひ九条家へいらっしゃってください。歓迎いたしますわ。」
そう言ってにっこり笑った。
ーーーー
庭に本格的な菜園。使用人も使う共通の食堂。地震の影響をほとんど受けていない邸内。
九条家にお世話になることになったのは約10人の宿無しになってしまった若手官吏と近衛兵だ。ついでに一の姫とその友人も宿舎の部屋を宿無しに明け渡し、九条家へ帰ってきた。
「ではみなさん!申し訳ありませんが二人一部屋でお願いします!客室棟の5室を開放します!」
蓮太郎は楓太と相部屋になり、宿舎の自分の部屋の二倍以上ある客室の一つに入った。
「大貴族、九条家に住めるなんて…!永遠官吏の育ったお屋敷…!」
楓太はしきりに感動している。蓮太郎も同感だ。蓮太郎の先生も幼少期のほとんどをここで過ごしたと聞いている。
頼めば九条家の書庫なども使わせてもらえるかもしれない。何より敏腕と噂の人々を間近で見れるのだ。
九条家で知識を吸収しよう!
この時は蓮太郎ものん気にそう思っていた。
正月の時よりも、大きく、そして長く揺れた。
そうして揺れが収まると、篤はぱっと顔をあげた。地面にへたりこんでいた蓮太郎と目が合う。
「みんな、怪我はない?」
各々に返事をする。篤は頷くと立ち上がる。
「僕は陛下のところに行ってくる!彩葉ちゃん、陽己と咲ちゃんをよろしくね!」
「は、はい!」
篤は巫覡院内から自分のカバンを引っ張り出して、背負い、なんと跳びあがり空中を走っていった。
「え?」
「巫覡院で秘書官するなら、慣れた方がいいですよ。」
ーーーー
その後、深刻な二次災害が起こる場所を予知した篤にヘルプ人員としてこき使われた蓮太郎が城内にある自分の宿舎に戻ったのは夕飯時だった。
食堂でゆっくりご飯でも、と思っていたが。
「も、燃えた…?」
城内で最も被害が大きかった場所の一つが、若手官吏の宿舎だった。どうやら食堂から火が出て宿舎に燃え移り、半焼したらしい。幸い日中だったため、宿舎には人がいなく、食堂からはすぐに非難したことから、篤は人を派遣しなかったのだ。
「宿舎に滞在していたみなさんには近衛が宿舎を開放してくれてるよ。多分もう空いてないけど。」
すでに寝床を手配した先輩官吏に教えられ、急いで近衛の宿舎に向かったが、すでに空き部屋は満タンだった。
話を聞くに、すでに空はなく、しっかり仕事をしていて帰りの遅い真面目な者が宿無しになってしまうという状況になっていた。
同じく宿がない楓太と合流した蓮太郎は途方にくれた。
もっというと部屋も燃えたので、着替えとかもない。宿舎に入れないということは食事も自分で確保しなければならない。実家に仕送りをしている身としてはその出費はつらい。
「とりあえず、職場で寝るしか…。」
「あれ、蓮太郎殿?」
振り返るとそこには巫覡院で会った赤毛の少女・彩葉がショートカットで長身の女性と近衛宿舎の横に立っていた。
「もしかして、宿無しになってしまわれたのですか?」
「は、はい。彩葉殿、でしたね?彩葉殿も宿無しに?」
「いえ。実は父上から宿無しで困っている我が家の知り合いがいたら回収してくるようにと頼まれてここに。」
蓮太郎はどういうことだと首をかしげる。彩葉は隣の長身の女性となにやら話し込み、頷きあう。
「蓮太郎殿は兄上のお友達だと伺っておりますから、当家にご招待しても問題ないでしょう。お隣の方は今年の首席殿とお見受けしますが。」
「はい。そうです。もしかして、満の妹姫?」
「申し遅れました。九条家の五の姫・彩葉と申します。満は兄です。」
美しい所作でお辞儀をした彩葉。
「お二人とも、ぜひ九条家へいらっしゃってください。歓迎いたしますわ。」
そう言ってにっこり笑った。
ーーーー
庭に本格的な菜園。使用人も使う共通の食堂。地震の影響をほとんど受けていない邸内。
九条家にお世話になることになったのは約10人の宿無しになってしまった若手官吏と近衛兵だ。ついでに一の姫とその友人も宿舎の部屋を宿無しに明け渡し、九条家へ帰ってきた。
「ではみなさん!申し訳ありませんが二人一部屋でお願いします!客室棟の5室を開放します!」
蓮太郎は楓太と相部屋になり、宿舎の自分の部屋の二倍以上ある客室の一つに入った。
「大貴族、九条家に住めるなんて…!永遠官吏の育ったお屋敷…!」
楓太はしきりに感動している。蓮太郎も同感だ。蓮太郎の先生も幼少期のほとんどをここで過ごしたと聞いている。
頼めば九条家の書庫なども使わせてもらえるかもしれない。何より敏腕と噂の人々を間近で見れるのだ。
九条家で知識を吸収しよう!
この時は蓮太郎ものん気にそう思っていた。
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