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59 助手、天国から地獄に落とされる
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夜の翠都を堪能した二乃子はお土産に綺麗なランタンを買い、包子をまた食べて、夜もぐっすり眠っていた。
…本当に連れてきてよかった。
翌朝はしっかり二乃子の髪を新しい髪飾りを使って編み込んでまとめ上げた。二乃子はドン引きといった顔をしていたが。
そして朝早くに翠都を出発した。
「昼過ぎには王都につきそうですね。」
二乃子が満の腰にしがみつきながら言った。
「また来ましょうね!」
後ろにいた二乃子がどういう顔をしていたか、満には見えなかった。
ーーーー
何度か休憩をはさみつつ、まもなく霊脈の活性化地域に入るところだった。
「止めて!」
二乃子に服を引っ張られ、その切羽詰まった声に馬を強く止める。愛馬から抗議の声があがったが、二乃子が馬から半ば転がるように落ちたのでそれどころではない。
慌てて満も馬から飛び降り、錫杖をもって立ち上がろうとしている二乃子を助け起こそうとした時だった。
地面が大きく揺れた。
慌てて二乃子を抱え込み、地面に伏せる。揺れは体感で5分近く続いた。
揺れがとまった途端に立ち上がろうとする二乃子を力づくでおさえ、周囲をうかがう。愛馬は無事そうだ。
「満殿!邪魔しないでください!」
二乃子がバシバシと満の腕を叩いてくる。二乃子を立たせてやると、青ざめた顔で満を見上げてきた。
「…霊脈ですか?」
「はい。また拒絶反応の様です。ここからじゃ…。」
二乃子は消えそうな声で、何もできませんでした、と呟いた。…いや、これは昨日のうちに王都に戻ろうとした二乃子を言いくるめた自分が悪い。でも、落ち込むのは後だ。
「二乃子殿、今からできることをしましょう!城では建物の倒壊はなくとも火災など、起きているかもしれません。けが人もいるかも。」
揺れは長かったが、王都の建物は新しいし、補強もよくされている。壊れた建物は先ほどの揺れ程度なら少ないだろう。
「じゃあ、急いで戻らないと。」
「飛ばします。」
満は馬に飛び乗り、二乃子を前に引っ張り上げて駆けだした。
30分ほど駆けると王都の端の関所が見えてきたが、先ほどの地震でパニック状態だった。手早く身分証を出し、通過する。
またスピードをあげようと手綱を握りなおした時、二乃子が待ったをかけた。
「陛下と連絡が取れました。『陛下、二乃子です。そちらの様子を教えてください。こちらは関所を越えました。』」
二乃子が黙ってなにやら耳を傾ている。おそらく、帝につけている使い魔のアンを通して話しているのだろう。
「『火事は、消火できそうですか?雨がいります?』」
雨?城下の方を見れば、煙が立ち上り始めていた。
「『わかりました。』満殿、降ります。」
慌てて馬を降り、二乃子を降ろす。
馬から降りた二乃子は、サンクと呟いて、唐傘を右手につかんだ。紺色に銀の水流模様が入った唐傘を開いた回しながら、空へと跳ね上げた。
「城下に雨を!」
唐傘の飛んで行ったまだ少し距離のある城の上空に黒い雨雲が集まっていった。
…本当に連れてきてよかった。
翌朝はしっかり二乃子の髪を新しい髪飾りを使って編み込んでまとめ上げた。二乃子はドン引きといった顔をしていたが。
そして朝早くに翠都を出発した。
「昼過ぎには王都につきそうですね。」
二乃子が満の腰にしがみつきながら言った。
「また来ましょうね!」
後ろにいた二乃子がどういう顔をしていたか、満には見えなかった。
ーーーー
何度か休憩をはさみつつ、まもなく霊脈の活性化地域に入るところだった。
「止めて!」
二乃子に服を引っ張られ、その切羽詰まった声に馬を強く止める。愛馬から抗議の声があがったが、二乃子が馬から半ば転がるように落ちたのでそれどころではない。
慌てて満も馬から飛び降り、錫杖をもって立ち上がろうとしている二乃子を助け起こそうとした時だった。
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慌てて二乃子を抱え込み、地面に伏せる。揺れは体感で5分近く続いた。
揺れがとまった途端に立ち上がろうとする二乃子を力づくでおさえ、周囲をうかがう。愛馬は無事そうだ。
「満殿!邪魔しないでください!」
二乃子がバシバシと満の腕を叩いてくる。二乃子を立たせてやると、青ざめた顔で満を見上げてきた。
「…霊脈ですか?」
「はい。また拒絶反応の様です。ここからじゃ…。」
二乃子は消えそうな声で、何もできませんでした、と呟いた。…いや、これは昨日のうちに王都に戻ろうとした二乃子を言いくるめた自分が悪い。でも、落ち込むのは後だ。
「二乃子殿、今からできることをしましょう!城では建物の倒壊はなくとも火災など、起きているかもしれません。けが人もいるかも。」
揺れは長かったが、王都の建物は新しいし、補強もよくされている。壊れた建物は先ほどの揺れ程度なら少ないだろう。
「じゃあ、急いで戻らないと。」
「飛ばします。」
満は馬に飛び乗り、二乃子を前に引っ張り上げて駆けだした。
30分ほど駆けると王都の端の関所が見えてきたが、先ほどの地震でパニック状態だった。手早く身分証を出し、通過する。
またスピードをあげようと手綱を握りなおした時、二乃子が待ったをかけた。
「陛下と連絡が取れました。『陛下、二乃子です。そちらの様子を教えてください。こちらは関所を越えました。』」
二乃子が黙ってなにやら耳を傾ている。おそらく、帝につけている使い魔のアンを通して話しているのだろう。
「『火事は、消火できそうですか?雨がいります?』」
雨?城下の方を見れば、煙が立ち上り始めていた。
「『わかりました。』満殿、降ります。」
慌てて馬を降り、二乃子を降ろす。
馬から降りた二乃子は、サンクと呟いて、唐傘を右手につかんだ。紺色に銀の水流模様が入った唐傘を開いた回しながら、空へと跳ね上げた。
「城下に雨を!」
唐傘の飛んで行ったまだ少し距離のある城の上空に黒い雨雲が集まっていった。
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