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閑話 新米四席、巫覡院に行く
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蓮太郎は南東州の仁科家の分家の出だ。仁科家は南東州に領地を持つ地方貴族で、先帝の正妻、王太后の実家でもある。
しかし、王太后の実の家族は脱税や異国への密輸などの犯罪を働き、今は分家の中から一番本家に近かった家が本家を継いでいる。
そんなことがあったので、南東州の領地は一部没収され、九条家が治めている。そんなお隣さんの領地にできたのが、国試専門の桜下塾である。蓮太郎はそこの一期生であり、初の合格者だ。
国試に合格した蓮太郎は秘書部に配属になり、一定の訓練を受けた後の夏の終わり、とある部署に秘書官として派遣された。
「こんにちは。」
蓮太郎が巫覡院を訪れると、はーい、という声がして、中から、見慣れない赤い髪をした少女がでてきた。都に出てきて初めて見た異人のような、明るい瞳にはっきりとした目鼻立ちをしているが、異人よりは親しみが持てる。何より同じ言語をしゃべっている。
「巫覡院に御用ですか?」
「はい。満殿はいらっしゃいますか?」
「あら、満殿は巫覡の二乃子殿と昨日から出張任務に出ております。今日の夜に戻りますので、明日ならば巫覡院にいるかと。巫覡の篤殿ならこちらにいますが?」
「そうですか…。」
巫覡院に所属する官吏は満一人。ここのボスは二乃子だ。つまり、出直した方がいいだろう。
「彩葉ちゃん、着たよ~!」
奥からのん気な声がして、白と赤紫の装束を着た黒い短髪の少年だ。これが常磐家から派遣されている巫覡の常磐篤殿だろう。…巫覡院平均年齢低いな。
「おや、お客さんかな?」
篤の後ろから8、9歳のキッズが二人、わらわらと出てくる。…平均年齢、また下がった。
「初めまして、巫覡院へ秘書官として派遣されることとなりました、仁科蓮太郎です。」
「蓮太郎…レンレンかな?秘書官ってなんだい?」
レンレン?
「秘書官っていうのはね、各部署の高官についてそのスケジュール管理や会談のセッティングとか、お衣装の手配、お金の官吏をする人よ。アズ殿。」
赤毛の少女は、官吏に詳しいようだ。…ちょっと異人味が強いが。満ぐらいマイルドにまざっているといいのだが。
「それって、ミッチーの仕事を手伝うってことかな?確かに僕と二ノと自分の雑務、全部こなしてるもんね、大変か。」
そう、彼はすごい。その仕事をしがてらの片手間の勉強で国試に5位で合格してしまったのだから。そして官吏になってからは予算交渉や怪奇現象に関する法整備なんかにも関わっている。
…どこでそんなこと勉強したんだ。九条家か?
「彩葉ちゃんから聞いてると思うけど、ミッチーたちは明日…。」
篤の声がピタッと止まって、キッズたちを脇に抱えて巫覡院を飛び出す。ついでに赤毛の少女も押し出し縁側を降りたところで三人に覆いかぶさるように伏せた。
「レンレンも!しゃがんで!」
…え?
次の瞬間、地面が大きく揺れた。
しかし、王太后の実の家族は脱税や異国への密輸などの犯罪を働き、今は分家の中から一番本家に近かった家が本家を継いでいる。
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「はい。満殿はいらっしゃいますか?」
「あら、満殿は巫覡の二乃子殿と昨日から出張任務に出ております。今日の夜に戻りますので、明日ならば巫覡院にいるかと。巫覡の篤殿ならこちらにいますが?」
「そうですか…。」
巫覡院に所属する官吏は満一人。ここのボスは二乃子だ。つまり、出直した方がいいだろう。
「彩葉ちゃん、着たよ~!」
奥からのん気な声がして、白と赤紫の装束を着た黒い短髪の少年だ。これが常磐家から派遣されている巫覡の常磐篤殿だろう。…巫覡院平均年齢低いな。
「おや、お客さんかな?」
篤の後ろから8、9歳のキッズが二人、わらわらと出てくる。…平均年齢、また下がった。
「初めまして、巫覡院へ秘書官として派遣されることとなりました、仁科蓮太郎です。」
「蓮太郎…レンレンかな?秘書官ってなんだい?」
レンレン?
「秘書官っていうのはね、各部署の高官についてそのスケジュール管理や会談のセッティングとか、お衣装の手配、お金の官吏をする人よ。アズ殿。」
赤毛の少女は、官吏に詳しいようだ。…ちょっと異人味が強いが。満ぐらいマイルドにまざっているといいのだが。
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そう、彼はすごい。その仕事をしがてらの片手間の勉強で国試に5位で合格してしまったのだから。そして官吏になってからは予算交渉や怪奇現象に関する法整備なんかにも関わっている。
…どこでそんなこと勉強したんだ。九条家か?
「彩葉ちゃんから聞いてると思うけど、ミッチーたちは明日…。」
篤の声がピタッと止まって、キッズたちを脇に抱えて巫覡院を飛び出す。ついでに赤毛の少女も押し出し縁側を降りたところで三人に覆いかぶさるように伏せた。
「レンレンも!しゃがんで!」
…え?
次の瞬間、地面が大きく揺れた。
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