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55 巫女姫、議論する
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「それで、カナ兄の調査では、霊脈の異変の原因は結界破損に原因がありそうなの?」
席に着き、本題にかかる。奏は神妙な顔で頷く。
「原因というか、城の結界が霊脈から力を得ていたことは以前帝にも報告したよね。」
「うん、きいた。」
結界破損の調査の際にそちらも報告された。あの時、結局、原因は傷によるものとだけ報告され、傷の原因はわからないとされていた。
「城下の霊脈はあんなに力が強いのに、ほとんど地震を起こさなかった。それは霊脈の力を城の結界が消費していたからだ。それと同時に、城の結界は霊脈への外部からの接触も妨害していた。」
接触の妨害…。
「つまり結界が破損したことで、霊脈に接触できるようになっている、と。」
「もちろん難しいけどね。」
二乃子は顎に手をやった。
「何者かが、接触したから、霊脈が拒絶して力を放出した?」
「カナ兄、結界は破損しても、霊力を消費できているの?つまり、霊脈の力の放出を抑えられてるの?」
篤が聞く。
「量は減っているだろうけど、地震を起こすほどの放出の増加は今のところ確認されていないよ。それに先の地震は正月だったしね。外部の接触の原因だと考えるのがいいだろう。」
涼夜も厳しい顔をしている。いったい、何を思って厳しい顔をしているのか。
「正月だと、なぜ自然に出力が増したとは考えられないのでしょう?」
満が不思議な顔をして質問した。
「正月は、帝の力が一番強いのです。帝が、あの城に君臨していることによって天変地異は防がれています。特に今上帝は支持率が先帝と同様に高いですからね。その加護は国中にいきわたるでしょう。」
「…帝にも力があったんですね。」
ゆえに帝なのだ。
帝がご兄弟と帝位争いをした時期は、不作や豪雨でひどいことになった。
「逆に、正月だからこそ試しに霊脈に接触してみた、ということも考えられるよ。大きな災害にはならないだろうって。ハズレだったけど。」
今回は試しに霊脈に接触してみた。そしたら拒絶反応でも地震をおこし、想定外だった、ということだろう。概ね賛成だ。
「ところで、二乃子、あの地震はどうやっておさめたんだ?あふれた力の一部は空中で飛散したが、比じゃない量が放出されていたと報告を受けている。」
…嫌なこときいてくるな、師匠。
ちらっと満を見る。…仕方ないか。
二乃子はそろそろと服をくつろげて左肩を出し、髪を寄せて後ろを向く。
「え、二乃子殿、それは!?」
左肩には五芒星の赤い模様が見えているはずだ。ドクドクと脈打ち、少し気持ち悪いかもしれない。…満が帰ったらまたおかんになるかも。
奏が近寄ってきて左肩に触れる。
「霊力を閉じ込める結界術だね。二ノのタンクがこんなところにあったとは。」
「見てすぐわかるなんて、さすがカナ兄。」
この術も盗まれちゃうな。こんなに早く見破られるとは、もう作った後かも。まあ、カナ兄はこれ使えないけど。
「もうパンパンで。そのうちどこかで消費しないと。」
二乃子は肩をしまう。
「結界の傷の原因、調査チームの総意は”原因不明”だったけど、カナ兄は何か意見があるんじゃない?」
「ある。あれは刀傷だと思う。昔、里奈と結界を切る妖刀を考案したんだ。」
リナ姉ならできそう…。巫覡の目を持っていれば霊力が見える。つまり霊力をまとった刀をうてるだろう。
「私も一本持ってるんだけどね。」
奏は一本刀を取り出して、机の上に置いた。…おお!すごい!
「里奈、これを羽月にも一本あげたらしいんだ。」
「「えっ!」」
二乃子と篤はそろって驚きの声をあげた。
「作ってあげたのに、なまくらだって言って突っ返してきたって怒ってたよ。刃こぼれがひどくて、何を切ったんだかって言ってたんだけど…。城の結界以外考えられないよね。」
奏もやれやれと言った顔だった。
席に着き、本題にかかる。奏は神妙な顔で頷く。
「原因というか、城の結界が霊脈から力を得ていたことは以前帝にも報告したよね。」
「うん、きいた。」
結界破損の調査の際にそちらも報告された。あの時、結局、原因は傷によるものとだけ報告され、傷の原因はわからないとされていた。
「城下の霊脈はあんなに力が強いのに、ほとんど地震を起こさなかった。それは霊脈の力を城の結界が消費していたからだ。それと同時に、城の結界は霊脈への外部からの接触も妨害していた。」
接触の妨害…。
「つまり結界が破損したことで、霊脈に接触できるようになっている、と。」
「もちろん難しいけどね。」
二乃子は顎に手をやった。
「何者かが、接触したから、霊脈が拒絶して力を放出した?」
「カナ兄、結界は破損しても、霊力を消費できているの?つまり、霊脈の力の放出を抑えられてるの?」
篤が聞く。
「量は減っているだろうけど、地震を起こすほどの放出の増加は今のところ確認されていないよ。それに先の地震は正月だったしね。外部の接触の原因だと考えるのがいいだろう。」
涼夜も厳しい顔をしている。いったい、何を思って厳しい顔をしているのか。
「正月だと、なぜ自然に出力が増したとは考えられないのでしょう?」
満が不思議な顔をして質問した。
「正月は、帝の力が一番強いのです。帝が、あの城に君臨していることによって天変地異は防がれています。特に今上帝は支持率が先帝と同様に高いですからね。その加護は国中にいきわたるでしょう。」
「…帝にも力があったんですね。」
ゆえに帝なのだ。
帝がご兄弟と帝位争いをした時期は、不作や豪雨でひどいことになった。
「逆に、正月だからこそ試しに霊脈に接触してみた、ということも考えられるよ。大きな災害にはならないだろうって。ハズレだったけど。」
今回は試しに霊脈に接触してみた。そしたら拒絶反応でも地震をおこし、想定外だった、ということだろう。概ね賛成だ。
「ところで、二乃子、あの地震はどうやっておさめたんだ?あふれた力の一部は空中で飛散したが、比じゃない量が放出されていたと報告を受けている。」
…嫌なこときいてくるな、師匠。
ちらっと満を見る。…仕方ないか。
二乃子はそろそろと服をくつろげて左肩を出し、髪を寄せて後ろを向く。
「え、二乃子殿、それは!?」
左肩には五芒星の赤い模様が見えているはずだ。ドクドクと脈打ち、少し気持ち悪いかもしれない。…満が帰ったらまたおかんになるかも。
奏が近寄ってきて左肩に触れる。
「霊力を閉じ込める結界術だね。二ノのタンクがこんなところにあったとは。」
「見てすぐわかるなんて、さすがカナ兄。」
この術も盗まれちゃうな。こんなに早く見破られるとは、もう作った後かも。まあ、カナ兄はこれ使えないけど。
「もうパンパンで。そのうちどこかで消費しないと。」
二乃子は肩をしまう。
「結界の傷の原因、調査チームの総意は”原因不明”だったけど、カナ兄は何か意見があるんじゃない?」
「ある。あれは刀傷だと思う。昔、里奈と結界を切る妖刀を考案したんだ。」
リナ姉ならできそう…。巫覡の目を持っていれば霊力が見える。つまり霊力をまとった刀をうてるだろう。
「私も一本持ってるんだけどね。」
奏は一本刀を取り出して、机の上に置いた。…おお!すごい!
「里奈、これを羽月にも一本あげたらしいんだ。」
「「えっ!」」
二乃子と篤はそろって驚きの声をあげた。
「作ってあげたのに、なまくらだって言って突っ返してきたって怒ってたよ。刃こぼれがひどくて、何を切ったんだかって言ってたんだけど…。城の結界以外考えられないよね。」
奏もやれやれと言った顔だった。
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