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54 巫女姫、常磐家に行く
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それから二週間後、九条家に10番目の男の子が生まれた。
「生まれましたか!よかったですね!」
「はい。透と名付けたそうです。」
そこに後宮へ遊びに行っていた咲がばたばたと走って帰ってきて二乃子に抱き着いた。最近、咲のキツネ耳と尻尾は小さくなってきていた。良い傾向だ。人としての暮らしに慣れてきた証拠だろう。
「咲?どうしました?」
「陽己の弟が、死んじゃったんだって!」
二乃子は目を瞠って、咲を抱きしめ返した。…そうか、第二王子が。
羽月により成長を止められた赤子のその後を二乃子は知らなかった。二乃子が思い悩むことのないように、帝が遠ざけてくれたのだ。
こうして、九条家に新しい命が誕生した日に、王家では一つの命が亡くなったのだ。
ーーーー
「常磐家に、呼ばれました。」
しかし、二乃子には感傷にひたる時間はなかった。
「常磐家に?なぜ?」
満が首をかしげる。
「結界の破損と、霊脈の関係について、調査結果を共有します。報告書ではなく、対面での会議を望まれました。」
常磐家の幹部たちが巫覡院の実力を測ろうとしているのか、それともあの人が同窓会を開きたいのか。どっちにしろ満をおいていくことはできない。
「一緒に来ますよね?」
「はい、もちろん。」
そうして、二人は常磐家にやってきたのだ。
会議は郊外にある常磐家の別邸で行われることとなり、二人は咲を後宮に預け、朝早くに巫覡院を出て、目的地へやってきた。
到着と同時に篤が出迎えてくれた。
「二ノ、ミッチー、やっほー。師匠と、カナ兄が待ってるよ。」
…同窓会の方だったぽいな。
「私たちだけなの?」
「あと、今回の結界の巫覡の調査チームでリーダーだった人?師匠が早々に意識を奪って眠らせちゃったけど。」
「ああ。」
短時間の精神操作は涼夜の固有術である。恐ろしい。
二人は案内された会議室に入った。部屋に入ってすぐ、床に伸びている女性が目に入ったがとりあえず無視だ。
「二乃子、満、よく来たね。」
師匠・常磐涼夜ともう一人、長い黒髪を一つにくくり、巫覡の目をした年上の青年が立っていた。
「久しぶり、二ノ。あと、巫覡院の官吏の方だね。常磐奏です。今回の調査チームに参加していた、結界の巫覡で、二ノやアズと同じく、涼夜師匠の教え子です。」
「僕らはカナ兄って呼んでるんだ。僕たちの中で最年長だし。二十歳だよ。」
「九条満です。じゃあ、奏殿は5人いるっていう涼夜殿の教え子の一人なんですね。…もう一人もこちらに?」
「ああ、リナ姉のこと?リナ姉は職人だからここにはいないよ。宝具職人に弟子入りして修行してるよ。あ、そういえばこの前リナ姉に会ったときに聞いたんだけど、二ノ、山籠もりしてた間もリナ姉とは連絡とってたんだって?妙に綺麗な錫杖とか持ってるからどうしてたのかと思えば…!」
バレたか。
リナ姉、こと里奈は巫覡の小道具を作る宝具職人の下に生まれ、巫覡の目を持っていたので一時期巫覡になるために師匠に師事していた。
でも本人は職人の方がいいと言って、結局基礎だけマスターして師匠の下を去った。ちなみに巫覡名簿にも載ってはいないが、載る資格はあるという変わり種である。
幼馴染のよしみで二乃子たちの商売道具もよく作ってくれるのだ。
「生まれましたか!よかったですね!」
「はい。透と名付けたそうです。」
そこに後宮へ遊びに行っていた咲がばたばたと走って帰ってきて二乃子に抱き着いた。最近、咲のキツネ耳と尻尾は小さくなってきていた。良い傾向だ。人としての暮らしに慣れてきた証拠だろう。
「咲?どうしました?」
「陽己の弟が、死んじゃったんだって!」
二乃子は目を瞠って、咲を抱きしめ返した。…そうか、第二王子が。
羽月により成長を止められた赤子のその後を二乃子は知らなかった。二乃子が思い悩むことのないように、帝が遠ざけてくれたのだ。
こうして、九条家に新しい命が誕生した日に、王家では一つの命が亡くなったのだ。
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「常磐家に、呼ばれました。」
しかし、二乃子には感傷にひたる時間はなかった。
「常磐家に?なぜ?」
満が首をかしげる。
「結界の破損と、霊脈の関係について、調査結果を共有します。報告書ではなく、対面での会議を望まれました。」
常磐家の幹部たちが巫覡院の実力を測ろうとしているのか、それともあの人が同窓会を開きたいのか。どっちにしろ満をおいていくことはできない。
「一緒に来ますよね?」
「はい、もちろん。」
そうして、二人は常磐家にやってきたのだ。
会議は郊外にある常磐家の別邸で行われることとなり、二人は咲を後宮に預け、朝早くに巫覡院を出て、目的地へやってきた。
到着と同時に篤が出迎えてくれた。
「二ノ、ミッチー、やっほー。師匠と、カナ兄が待ってるよ。」
…同窓会の方だったぽいな。
「私たちだけなの?」
「あと、今回の結界の巫覡の調査チームでリーダーだった人?師匠が早々に意識を奪って眠らせちゃったけど。」
「ああ。」
短時間の精神操作は涼夜の固有術である。恐ろしい。
二人は案内された会議室に入った。部屋に入ってすぐ、床に伸びている女性が目に入ったがとりあえず無視だ。
「二乃子、満、よく来たね。」
師匠・常磐涼夜ともう一人、長い黒髪を一つにくくり、巫覡の目をした年上の青年が立っていた。
「久しぶり、二ノ。あと、巫覡院の官吏の方だね。常磐奏です。今回の調査チームに参加していた、結界の巫覡で、二ノやアズと同じく、涼夜師匠の教え子です。」
「僕らはカナ兄って呼んでるんだ。僕たちの中で最年長だし。二十歳だよ。」
「九条満です。じゃあ、奏殿は5人いるっていう涼夜殿の教え子の一人なんですね。…もう一人もこちらに?」
「ああ、リナ姉のこと?リナ姉は職人だからここにはいないよ。宝具職人に弟子入りして修行してるよ。あ、そういえばこの前リナ姉に会ったときに聞いたんだけど、二ノ、山籠もりしてた間もリナ姉とは連絡とってたんだって?妙に綺麗な錫杖とか持ってるからどうしてたのかと思えば…!」
バレたか。
リナ姉、こと里奈は巫覡の小道具を作る宝具職人の下に生まれ、巫覡の目を持っていたので一時期巫覡になるために師匠に師事していた。
でも本人は職人の方がいいと言って、結局基礎だけマスターして師匠の下を去った。ちなみに巫覡名簿にも載ってはいないが、載る資格はあるという変わり種である。
幼馴染のよしみで二乃子たちの商売道具もよく作ってくれるのだ。
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