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53 助手、思い悩む
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九条家に二の姫がやってきた。父の誠二によく似た、黒髪黒目のほがらかな姫だった。病弱というのは本当のようで色白で、痩せてはいたが、今日は元気そうだ。
隣で挨拶していた二乃子が興味深そうに二の姫を観察している。
「以前、美しい扇子をありがとうございます、満殿。」
「いえ…。」
実は二乃子に似合うと思って選んだ、とは言えないな。隣で二乃子が突然ため息をついた。
「二乃子殿?」
「二乃子殿、ため息をつくと幸せは逃げるわよ。」
二乃子が驚いたように顔をあげた。
「おばあさま?」
二乃子は同い年の月に対してそう呼びかけた。
ーーーー
今日は反物屋が九条家に来ており、二乃子は彩葉に連れていかれた。
その間に満は父たちに報告に向かう。
今日の書斎には宇宙と誠二がいた。
「教えていただきたいことがあるのです。」
「なんだ?」
「二乃子殿が祖母殿と修行した話は、実は祖母殿の幽霊と修行していたということを、先日初めて知りました。当然、父上たちはご存じだったと思いますが。」
二人ともしれっとしている。二人とも涼夜殿やおじいさまの報告を受けていたわけで、満の勘違いにも当然気づいていたが、スルーしていたのだ。
「『巫覡は秘密をまとって強くなる』と言って、二乃子殿は術について詳しくは教えてくれませんが、分かったことはまとめた通りです。やはり二乃子殿の能力の全貌を知るには、二乃子殿の祖母殿の力が重要だと思うのです。」
二乃子は祖母から術を習ったというのだから、その祖母もオールラウンダー巫覡なのだろう。
「名の知れた方だと思うのですが、二乃子殿は3つの時に親に縁を切られた、捨て子なんだそうです。」
ここで大人二人の顔が一瞬、驚愕にそまった。逆に満が驚いてしまう。二人が表情をここまで変えるのを見たのは初めてかもしれない。
「二乃子は捨て子じゃない。」
誠二が怖い顔で言った。
「毎年、生まれ月には生みの親からの手紙と贈り物が届けられているはずだ。返事の手紙もあった。」
「それは、二乃子が言ったのか?」
「い、いえ、篤殿が。でも二乃子殿も『正しい』と。『家族のことは何一つ知らない』と。」
二人は顔を見合わせた。
「見る人が見ればわかるだろうが、二乃子は九条家の縁の者だ。強すぎる力をコントロールすることを学ばせるために、親を伏せて常磐家に預けた。後々に巫覡院を立ち上げさせることも念頭において、だ。
しかし、親に捨てられたと認識させるようなことはないように、と、涼夜殿に頼んであった。」
宇宙も深刻そうな顔をしている。
「二乃子の手に渡っていないのか?」
「カバンを使ってるのを見て、喜んでいたんだが…。」
どうやらあのカバンが二乃子の生みの親が用意したプレゼントらしい。
「つまり、涼夜殿が二乃子を捨て子として育てたということになる。」
「あの羽月も、涼夜殿の教え子の一人だったな。まだあと二人、教え子がいる。その中に、結界のスペシャリストもいるかもしれない。」
宇宙は鋭い目で満を射抜いた。
「二乃子の幼馴染、つまりは涼夜殿の教え子について調べてくれ。」
涼夜を疑うということは、二乃子を疑うということでもある。
軽い気持ちで引き受けてきたスパイ活動が深刻な仕事として降りかかった瞬間であった。
隣で挨拶していた二乃子が興味深そうに二の姫を観察している。
「以前、美しい扇子をありがとうございます、満殿。」
「いえ…。」
実は二乃子に似合うと思って選んだ、とは言えないな。隣で二乃子が突然ため息をついた。
「二乃子殿?」
「二乃子殿、ため息をつくと幸せは逃げるわよ。」
二乃子が驚いたように顔をあげた。
「おばあさま?」
二乃子は同い年の月に対してそう呼びかけた。
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今日は反物屋が九条家に来ており、二乃子は彩葉に連れていかれた。
その間に満は父たちに報告に向かう。
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「なんだ?」
「二乃子殿が祖母殿と修行した話は、実は祖母殿の幽霊と修行していたということを、先日初めて知りました。当然、父上たちはご存じだったと思いますが。」
二人ともしれっとしている。二人とも涼夜殿やおじいさまの報告を受けていたわけで、満の勘違いにも当然気づいていたが、スルーしていたのだ。
「『巫覡は秘密をまとって強くなる』と言って、二乃子殿は術について詳しくは教えてくれませんが、分かったことはまとめた通りです。やはり二乃子殿の能力の全貌を知るには、二乃子殿の祖母殿の力が重要だと思うのです。」
二乃子は祖母から術を習ったというのだから、その祖母もオールラウンダー巫覡なのだろう。
「名の知れた方だと思うのですが、二乃子殿は3つの時に親に縁を切られた、捨て子なんだそうです。」
ここで大人二人の顔が一瞬、驚愕にそまった。逆に満が驚いてしまう。二人が表情をここまで変えるのを見たのは初めてかもしれない。
「二乃子は捨て子じゃない。」
誠二が怖い顔で言った。
「毎年、生まれ月には生みの親からの手紙と贈り物が届けられているはずだ。返事の手紙もあった。」
「それは、二乃子が言ったのか?」
「い、いえ、篤殿が。でも二乃子殿も『正しい』と。『家族のことは何一つ知らない』と。」
二人は顔を見合わせた。
「見る人が見ればわかるだろうが、二乃子は九条家の縁の者だ。強すぎる力をコントロールすることを学ばせるために、親を伏せて常磐家に預けた。後々に巫覡院を立ち上げさせることも念頭において、だ。
しかし、親に捨てられたと認識させるようなことはないように、と、涼夜殿に頼んであった。」
宇宙も深刻そうな顔をしている。
「二乃子の手に渡っていないのか?」
「カバンを使ってるのを見て、喜んでいたんだが…。」
どうやらあのカバンが二乃子の生みの親が用意したプレゼントらしい。
「つまり、涼夜殿が二乃子を捨て子として育てたということになる。」
「あの羽月も、涼夜殿の教え子の一人だったな。まだあと二人、教え子がいる。その中に、結界のスペシャリストもいるかもしれない。」
宇宙は鋭い目で満を射抜いた。
「二乃子の幼馴染、つまりは涼夜殿の教え子について調べてくれ。」
涼夜を疑うということは、二乃子を疑うということでもある。
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