救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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51 助手、焦る

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「ごめんください。」

制服の試着が終わって、ひと段落し休憩していたところに芽以はやってきた。

「芽以殿。二乃子殿、先ほどお話しした…。」

「満様のお客様ですね。どうぞ。」

芽以殿をあげてお茶を出す。三兄が、女の人を!?と彩葉の目が輝いている。…だから違うって。

「それで、お話とは。」

「実は、兄のことなのです。」

…兄?なんか嫌な予感がする。

朝比奈博臣あさひなひろおみです。以前巫覡院に来たことがあると聞いていますが。」

あっという声が聞こえたような気がした。目の端で二乃子が目をそらすのが見えた、気がした。

博臣は以前、羽月に意識操作されて二乃子を襲い、近衛兵に捕らえられた。意識操作の疑いがあったことから、その所業は公表されていない。
しかし、りん一花いちかのダブル女近衛にきっちり絞められて、巫覡院と後宮は出禁になっている。

妹である芽以もその所業は知らされていないのだろう。

「もう22ですから、そろそろ婚約をと考えているのです。それで候補に九条家の姫様たちをと考えているのですけれど…。どの姫様に求婚するのがいいのか、朝比奈でも意見が分かれているのです。それで偵察を頼まれたのです。」

正直、博臣が九条家に縁付くのはほぼ不可能だ。意識操作とはいえ、九条家の不興を買っているのだから。

そこにいる五の姫も少しそわそわしている。

「それで、何を知りたいんです?」

「まず、どの姫様なら嫁に出すおつもりがありますか?当主様の代は皇后さま以外皆九条姓に残りましたが、さすがに9人いるお子さまたちを全員九条姓に残すことはないでしょう?」

「そうですね。」

「一の姫様と二の姫様、どちらかが九条家をお継ぎになるのだと思っています。二の姫は病弱だとのことですが、お嫁に出される予定はありますか?」

…そんなの俺に聞かれても。二の姫には会ったこともないのに。それに…。
ちらりと二乃子を見る。

以前満の中でくすぶっていた、”二乃子、二の姫説”は最近またくすぶり始めていた。

きっかけは、二乃子の顔立ちが皇后に、つまりは叔母上にそっくりだと気付いたことだ。目の色と髪色が巫覡色が強く、顔立ちの近さに全く気付かなかった。
そして、二乃子の性格が当主の永遠に似ていると指摘されたことだ。

二の姫に手紙を出したら、返事が来てしまったが、九条家なんだから、何かトリッキーなことをしている可能性もある。

とりあえず、二の姫は回避しておこう。

「二の姫を嫁にという話は、彼女の両親からは聞いていないです。でも、五の姫と六の姫は嫁に行きたいなら縁談を用意してやると言ってましたよ。」

さささ三兄!?という彩葉の視線を感じる。…すまん、妹たちよ。二乃子の方が大事だ。

「満殿は結婚を考えていますか?」

ーえ、俺?

「若君や姫君の結婚はまだ九条家の方々の頭にはないことだと思いますよ。」

二乃子がぐびぐびお茶を飲んでいた満におかわりを注ぎながら、助け舟をだしてくれた。

「将軍と月の姫様のは有名です。そのお子さま達もご自身でお相手を選んできたと聞いています。結婚年齢は年々上がってきておりますし、一の姫様も今年19歳の働き盛りです。
まだそのようなことは考えられていないでしょう。」

二乃子はふふふっと楽しそうな顔をして笑った。…見たことない顔である。

「つまり、博臣殿が九条家の姫たちと結婚するなら、姫たち自身に選んでもらうというのが一番です。今、接触できるのは…城のいらっしゃる一の姫様ですね。一の姫様と仲良くなって、姫様たちを紹介していただくのはどうでしょう?」

…な、なんて酷なことを。暴漢犯の博臣を捕まえたのは、一の姫だぞ?

「その通りですわね!」

芽以は喜んで帰っていった。

二乃子の悪だくみが成功して嬉しそうな顔が印象的だった。…ごめんなさい、博臣殿。俺もあなたのこと、割り切れなくて嫌いなんで、同情しませんけど。



「そうそう、三兄に伝えるように頼まれたんだけど…。」

彩葉が口を開いて衝撃の発言をした。

「二の姫、北西州を出て、九条家に来るんですって。おじいさまが体調の良さを確認して連れてくることにしたって。」

「え?」

ついに疑惑の二の姫が登場する。

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