救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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47 助手、弟を見送る

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春が目前に迫ったある日、満の双子の弟・しずるは異国へと旅立つ。

「垂、気をつけてな。」

「手紙を書くのよ。」

満の家族はみんなで見送りに来ていた。そう、母のローズも来ているのだ。本編初登場だろう。
そして、ローズのお腹は大きく膨らんでいた。あと一か月で臨月だ。

「はい。生まれてくる弟か妹に会えないのが残念です。」

父の宇宙とローズは気まずそうに目をそらした。…この二人、正月まで妊娠のことを隠していたのだ。

「私も四兄に手紙を書くわ!特に三兄と二乃子殿ことは逐一ね!」

「…何もないって。」

「九条家の姫たちとはタイプの違う子だったわね。満とはお似合いなんじゃない?」

ローズがふふふっと笑った。

「そうでしょ!母上!」

「母上まで…。」

琅菜は不機嫌そうにしていたが、満は実はまんざらでもなかった。

「兄上もお仕事頑張ってくださいね。手紙、待ってますよ。」

「ああ、書くよ。」

こうして垂を乗せた船は港を出て行った。これからふた月に渡る航海が始まる。…無事に異国までつくことを祈ってるよ。


ーーーー


「さみしいな~!四兄にそっくりな犬でも飼おうかな~!」

「私たちはほとんど妓楼にいるのに、どうやって面倒を見るのよ。」

帰りの馬車の中で彩葉と琅菜がわいわい騒いでいる。…本当に垂が旅立って寂しいのだろうか。

「彩葉と琅菜も来年16だ。満と垂みたいに何か仕事なりを考えておけ。」

宇宙はさらっと言った。

「そうなのよ!父上!」

彩葉はぐるりと宇宙を見た。動じない父だが、彩葉のハイテンションには時に驚いている。今もそうだ。

「私、デザイナーになりたいの!正月の二乃子殿の衣装がすごく評判が良くて、花街の舞台の第二弾も決まって、巫覡院の制服の依頼も来たの!」

ああ、二乃子殿が帝に巫覡院の制服を相談されて、深く考えずに『彩葉殿が作ってくれるのでは?』なんて言ったのが始まりだ。今日もこの巫覡院の休日に二乃子と相談するのだと騒いでいた。

「ふん、いいんじゃないか?やれるところまでやってみろよ。」

「ありがとう、父上!」

彩葉は宇宙に飛びついて、宇宙はおおうっと馬車の壁に頭をぶつけた。

「本当に彩葉は私の妹にそっくりね。」

ローズが苦笑したように言った。

「まあ、彩葉と琅菜はもし嫁に行きたいなら、こともできるからな。いま有力貴族たちにはしっかり年頃の嫡男がいるし。」

妹たちはびっくりして目を見開いた。


ーーーー


九条家に帰ると、二乃子が縁側で咲の額になにか

「二乃子殿、一体何を?」

「ちょっと待ってください。」

二乃子は小型のナイフを取り出して、唇を少し切った。…ああ!また自分に傷をつけて!そのうち二乃子の唇はなくなるのではないだろうか。

二乃子は咲の額の髪をかきあげ、額に書かれた五芒星に口づけた。

「はい、終わりです。」

咲は嬉しそうに立ち上がった。

「楽になりました!」

「どうしたんだい、咲?体調が悪かった?」

「はい。九条家に来てからなんか気持ち悪くて。そしたら二乃子殿が結界の術を施してくれました!」

気持ち悪く?九条家に来たら?

「二乃子殿…二乃子殿?」

二乃子はふらふらと縁側に倒れこんだ。

「ちょっと九条家は良くないです~。」

二乃子は顔を赤くし、目を回してへらへらと満を見上げ、そのまま眠ってしまった。


「え?え?二乃子?どうしたんですか?え?寝てるだけ?え?」

パニックになった満をおいて、二乃子は健やかな寝息をたて始めた。


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