救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
51 / 115

43 雑用係、助手に昇格する

しおりを挟む
冬が本格的に訪れ、国試も終わり、年が明けた。

みつるは無事に国試に合格し、この年賀の式典で官吏と認められる。支給された式典用の官吏服に袖を通し、髪形を整える。

身だしなみの整え方は、母仕込みだが、完璧にやると目立ちすぎるので控えめに。

…今日から俺も立派な官吏だ。もう巫覡院の雑用係なんて言わせない。

そうして屋敷を出て待っていると、後ろから二乃子にのこ彩葉いろはの声がして振り返った。

「二乃子殿、歩きにくかったりしない?」

「大丈夫です。あ、でも頭が重いです。」

「どれぐらい?首落ちそう?」

「首は落ちないです。」

二乃子は薄い色合いの黒髪を緩く結い上げ、かんざしを二本さしていた。衣装は帝から下賜された赤紫の布を用い、腰に銀糸と白いレースで飾りをほどこした帯を巻いて華奢なスタイルが際立っていた。
化粧も華やかで、もともと綺麗なのだが、さらに綺麗というか、なんていえばいいんだろう…。

「あ、三兄!見て!感想は?」

「あ、うん。すごい似合ってる。…似合ってますよ、二乃子殿。」

彩葉が呆れた目を向けてくる。

「わあ、二乃子殿、綺麗ですね!きっと式典の話題をさらいますよ!」

さらに後ろからやってきた弟のしずるはいとも簡単に二乃子をほめていた。


ーーーー


「あ、満、こっちこっち!」

式典会場では国試合格者全員の席が用意されていた。今年は女性の合格者が史上最も多く、合格者の一割におよんだ。また、最前列に席を用意される上位合格者5名の内の2名が女性であり、今年は女性の年といった印象である。

楓太ふうた殿。」

入場した満を呼んだのは、今回首席合格の少年・楓太だ。国試ほど大規模な試験となると、事前に首席で合格しそうな人物の名前は聞こえてくるが、彼は全くの無名で今回多くの人を驚かせた。
年は満の一つ下で今年15歳だ。なんでも北西州の出身で永遠とわ伯母上と面識があるらしく、試験会場でものすごく話しかけられた。

「満は五位だよね?そこだよ。あ、蓮太郎れんたろう!」

眼鏡をかけた切れ長の目の青年がこちらに歩いてくる。彼は南東州で九条家が開設した塾の学生で、塾からの初めての合格者である。ちなみに今年の四位だ。
年は満より五つほど年上らしいが、試験期間中よく話していた。

まさか、親しくしていた受験者がそろって上位合格しているとは…これが九条家の血が持つという良縁をひっぱる力か…。

「上位5人が最前列に並んで今年の顔になるわけだね~。ブサイク5人並んでたら今年の新人はブサイクだって思われちゃうのかな?」

何言ってるんだ、楓太殿。

「今年は満殿がいるからその心配はありませんね。」

「蓮太郎もかっこいいよ!」


ーーーー


式典は厳かに始まり、つつがなく進められた。帝の言葉から始まり、各部署の長が一人ずつ帝に言葉を賜る。

新参の二乃子は一番最後に登場した。ほうっとその場のみんなが小さな声をあげ、目を奪われた。
女性の参加者たちの目がキラキラしているのが満の席からでもわかった。女性官吏が増えるに伴って、この年賀の式典に招待される女性も増えた。
そこで、年々式典で長たちが着る衣装は話題を集め、時には流行を作った。…二乃子の衣装も流行るかもな。彩葉も喜びそうだ。

二乃子は一歩ずつ帝の下へと歩みを進め、所定の位置で礼をして膝をついた。


…がなぜかすぐに立ち上がって何もないところから錫杖をつかんだ。

次の瞬間。

地面が大きく揺れた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記

ぺきぺき
ファンタジー
とある東洋の島国の名門貴族家のエリート令息である満(みつる)は、文武両道の将来を期待された若君であった。しかし、何でも器用にこなすが故の悩みを抱え、将来に悩んでいたある日、人生をかけて愛するべき相手と出会った。 彼女はまだ10代の若さで国を巡って邪を払う、最強の巫女姫様だった。 エリート令息が規格外(にズボラ)の巫女姫をお世話して旅をしながら各地の怪異や問題を解決するお話。 ー--- 恋愛は遅々として進まないので、ファンタジーです。笑 執筆が完了済みの二章を公開します。その後、一度完結にしますが、続きを書ければまた投稿します。 第一章 夜市に浮かぶ火の玉 全8話 第二章 気の早い雪女 全7話 『救国の巫女姫、誕生史』の続編ではありますが、読んでいなくても問題ないです。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...