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42 新米巫覡、他人の術を研究する
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羽月の小屋には二乃子が予想した通り、彼女の術式に関するメモが大量にあった。
羽月は少しおつむが弱いので術を暗記するのは不可能だろうと思っていたのだ。
資料は全て九条家に持ち帰り、その日から二乃子一人で分析を始めた。目的はもちろん、第二王子にかけられた術を探すことだ。これは篤に対しては秘密のため、一人でやるしかない。
満は、お休みだ。大丈夫だと言い張る満は、トゥロワをくっつけたまま、寝室に放り込まれていた。
「にしても多すぎる。」
全部読むのにどれくらい時間がかかるんだろう。
ーーーー
「二乃子殿!」
部屋の扉ががらりと開き、白いウサギを抱えた満が現れた。そのままずかずかと部屋に入ってきて、持っていた書類を取り上げられる。
「もうお昼ですよ?まさか、寝もせずに調べていたんですか?朝ごはんにも出てこずに?」
満がシュッと手刀をかまえる。二乃子がさっと青ざめる。
「ご、ごめんなさい!休みます!だから落とさないで!」
「では、こちらに。」
満がてきぱきと布団を広げ、強制的に二乃子を寝転がす。そして、抱いていたトゥロワを二乃子の枕元に置く。
「このトゥロワ、浄化の作用があるみたいですね。俺もすっかり回復しました。ちょっと休んでください。」
…ここは大人しく寝た方がいいところか。
「起きたらご飯にしましょうね。」
…寝た方がいいんだよね。
「俺が、メモの簡単な仕訳をやっておいてあげますから。どうせ上から読んでたんでしょう?」
…寝よう。諦めよう。おかんに従おう。
「トゥロワ。30分…1時間で起こして。」
ーーーー
仮眠と昼食の後、二乃子は満の分類から”複雑な術”として分類されたものを読んでいた。羽月は悪筆なため術式の構造から内容を予想するしかない。
やがて、夜になり夕食に連れ出され、作業を続け、しっかり手刀で落とされ、翌日の巫覡院の勤務にも資料は持ち込まれた。
そして、その夕方に二乃子はついに第二王子にかけられた、『成長を止める術』を見つけた。内容は、残酷なものだった。
「見つけました…。」
二乃子は国試勉強中の満に声をかけた。満は顔をあげて、二乃子の暗い顔を見て、険しい顔になった。
「どういった内容で?」
「呪術とは、滅却の術の応用で、今回のは、一部を消す術の二段構えだったんです。」
赤子の四歳児、第二王子は羽月の手先がはびこっていた城から九条家に移したことで、それまでと違い、熱を出したり、体重が変わったり、するようになった。
二乃子は読み終えたメモの山をあさりもう一つの術式を取り出す。
「まず、脳みその一部を消す術。どうやら羽月は子猫を使った実験で、脳みそを消すとどうなるか試していたようで、その中で体が成長しなくなるパターンを見つけたようなんです。」
常磐家ではたやすく子猫が手に入る。使い魔にする者がいるからだ。その使い魔に選ばれなかった子猫たちで羽月は動物実験をしていたらしい。
「それを第二王子にかけた、と。」
「おそらく。そして、その術をかけられた子猫たちは極端に病気にかかりやすくなり、半年ほどで亡くなってしまった。それで延命の方法として考案したのが、この体内から病原となるものを消す術です。」
病気になったらその原因をすぐに取り除く。これによって第二王子は4年間も生かされていたわけだ。
この術を二乃子がかけることはもちろんできる。しかし、取り除かれてしまった脳みその一部が戻ってくることはもうないだろう。
つまり、第二王子は永遠に成長できない体になってしまっている、ということだ。
羽月は少しおつむが弱いので術を暗記するのは不可能だろうと思っていたのだ。
資料は全て九条家に持ち帰り、その日から二乃子一人で分析を始めた。目的はもちろん、第二王子にかけられた術を探すことだ。これは篤に対しては秘密のため、一人でやるしかない。
満は、お休みだ。大丈夫だと言い張る満は、トゥロワをくっつけたまま、寝室に放り込まれていた。
「にしても多すぎる。」
全部読むのにどれくらい時間がかかるんだろう。
ーーーー
「二乃子殿!」
部屋の扉ががらりと開き、白いウサギを抱えた満が現れた。そのままずかずかと部屋に入ってきて、持っていた書類を取り上げられる。
「もうお昼ですよ?まさか、寝もせずに調べていたんですか?朝ごはんにも出てこずに?」
満がシュッと手刀をかまえる。二乃子がさっと青ざめる。
「ご、ごめんなさい!休みます!だから落とさないで!」
「では、こちらに。」
満がてきぱきと布団を広げ、強制的に二乃子を寝転がす。そして、抱いていたトゥロワを二乃子の枕元に置く。
「このトゥロワ、浄化の作用があるみたいですね。俺もすっかり回復しました。ちょっと休んでください。」
…ここは大人しく寝た方がいいところか。
「起きたらご飯にしましょうね。」
…寝た方がいいんだよね。
「俺が、メモの簡単な仕訳をやっておいてあげますから。どうせ上から読んでたんでしょう?」
…寝よう。諦めよう。おかんに従おう。
「トゥロワ。30分…1時間で起こして。」
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仮眠と昼食の後、二乃子は満の分類から”複雑な術”として分類されたものを読んでいた。羽月は悪筆なため術式の構造から内容を予想するしかない。
やがて、夜になり夕食に連れ出され、作業を続け、しっかり手刀で落とされ、翌日の巫覡院の勤務にも資料は持ち込まれた。
そして、その夕方に二乃子はついに第二王子にかけられた、『成長を止める術』を見つけた。内容は、残酷なものだった。
「見つけました…。」
二乃子は国試勉強中の満に声をかけた。満は顔をあげて、二乃子の暗い顔を見て、険しい顔になった。
「どういった内容で?」
「呪術とは、滅却の術の応用で、今回のは、一部を消す術の二段構えだったんです。」
赤子の四歳児、第二王子は羽月の手先がはびこっていた城から九条家に移したことで、それまでと違い、熱を出したり、体重が変わったり、するようになった。
二乃子は読み終えたメモの山をあさりもう一つの術式を取り出す。
「まず、脳みその一部を消す術。どうやら羽月は子猫を使った実験で、脳みそを消すとどうなるか試していたようで、その中で体が成長しなくなるパターンを見つけたようなんです。」
常磐家ではたやすく子猫が手に入る。使い魔にする者がいるからだ。その使い魔に選ばれなかった子猫たちで羽月は動物実験をしていたらしい。
「それを第二王子にかけた、と。」
「おそらく。そして、その術をかけられた子猫たちは極端に病気にかかりやすくなり、半年ほどで亡くなってしまった。それで延命の方法として考案したのが、この体内から病原となるものを消す術です。」
病気になったらその原因をすぐに取り除く。これによって第二王子は4年間も生かされていたわけだ。
この術を二乃子がかけることはもちろんできる。しかし、取り除かれてしまった脳みその一部が戻ってくることはもうないだろう。
つまり、第二王子は永遠に成長できない体になってしまっている、ということだ。
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