救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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39 雑用係、銃を撃つ

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二乃子の唇が満のそれに触れて離れていく。満が目を瞠って呆然としている間に円陣は消えた。

「はい、終わりましたよ。」

「に、に、に!?」

外野から彩葉の歓声が上がる。

「見た見た!?三兄が二乃子殿にキスされたわ!おじいさまに教えてあげなきゃ!」

満は頭をギギギと動かし、外野を見る。

ほーうっといった顔の父・宇宙、大喜びの彩葉とぽかんとした顔の妹・琅菜、そしてなぜかものすごく怖い顔の誠二。

「に、二乃子殿!」

満は二乃子を慌てて振り返る。

「何ですか?」

唇からたらりと血が垂れる。あわてて懐から手ぬぐいを取り出して、傷にあてて止血する。

「血が出てますよ?手当をしないと。」

「ああ、満殿にはついてないから大丈夫ですよ?」

そういう問題ではなくて。

「異性に術とはいえ、気軽に口づけてはいけません!」

「え?術ですよ?」

二乃子は心底わからないという顔。…まさかこれまでも散々やってきたんじゃないだろうな?

「口づけじゃないといけないんですか?」

「これが一番楽なので。」

「じゃあ、次からはもうだめです。」

「…なんで?」

「なんでも!」


ーーーー


人々が部屋に戻った後、満は宇宙とともに九条家を出発し、郊外にある常磐家の巫覡訓練所にやってきた。

「あ、ミッチー。」

そこにいたのは協力者だという篤と、彼の師匠でもある涼夜。

将軍とよばれるおじい様の友人であり、部下であった常磐涼夜はすでに齢70ほどの老人だが、その背筋はすらりと伸びて、おじい様と同じく生涯現役、といった感じだ。

「ミッチーの口に二乃子の印がついてるけど?」

「え。」

思い出して赤くなる。

「満、雑念は捨てろ。…ターゲットは離れに?」

「ああ。羽月は夜行性だから、まもなく動き出す。気づかれないように離れたところから狙うのがいいだろう。」

「ミッチーがやるの暗殺するかい?その箱で?」

篤は満が背負っている大きな箱に目をやった。頷く。

満が背負っている箱の中身は、異国からの技術を東雲で秘密裏に改造し、作成した長距離銃だ。満が東雲にて認められているのはこの長距離銃の扱いである。

羽月の獣憑き故の野生の勘も考え、最も距離をとって狙えるこの方法が選ばれたのだ。

「私たちは篤の遠視を使って離れたところで待つ。不測の事態にはかけつける。」

「予知ができればいいんだけど、僕が羽月の能力の全容をしらないから、不測の事態を予知できないんだ。とにかく気を付けて。」


そうして満は一についた。


真夜中、小屋の外に出てきた羽月の眉間を、満は長距離銃で撃ちぬいた。


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