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36 新米巫覡、あっさり捕獲する
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「誰がいく?」
「満殿。お願いします。アズ、予知妨害に問題はない?」
「ダイジョーブ。」
目の前ではちょうど、女官の一人が部屋に引きずり込まれ、短く悲鳴が響いたところだった。
満が慌てて駆けつけるのを、篤と二人で背後から見守る。
「何をしている!」
満が部屋に飛び込んでいく。
「アズ、行って。」
羽月が逃げないように、二乃子は最後まで姿を現さないようにする。
羽月は巫覡じゃない一般の人達をなめてかかっている。満の場合は捕縛されても駒から逃げないだろう。
篤と満で拘束した男を連れ出す。男は手足を拘束され、胸元にはしっかりと二乃子特製の(テキトーではない)お札が貼られている。
…よし。中の女性のケアは私の仕事だ。
二乃子はそちらと駆け寄った。
ーーーー
後日調べて分かったことだが、羽月の術にかかっていたのは男ばかりで、皆、妓女”羽月”の客だった。
意識操作の術をかけるには、身体接触が必要なのかもしれない。
今回捕まえた男は、もちろん平時では羽月の影響は感じていないため、単純に強姦未遂で捕まったと思っていたが、なぜか拘束され、お札を付けられたまま常磐家に護送されることになり、目を白黒させていた。
彼の状態が異常なことは巫覡の目を持っていればわかるだろう。
これで常磐家も言い逃れはできない。もし、巫覡院という機関が城にできていなければ、こうはいかなかったかもしれないが。
そして、二乃子は今、九条家に来ている。
皇后様が産気づいたのだ。
それに伴い、帝も九条家に降臨した。三回目の出産のはずなのに、九条家の家庭菜園の周りをぐーるぐると歩き回っている。もう何週目か。
同じくそわそわしている将軍は、二乃子についてきた満に稽古をつけると言って木刀で打ち合っていた。
…将軍が勝っているように見えるが、もう年は60を超える。
やがて、おぎゃあおぎゃあという声が九条邸中に響いた。
ーーーー
二乃子はしばらくして産所に呼ばれた。部屋では赤子を抱えた陛下と、横になった皇后が待っていた。
「二乃子、姫と皇后を視てくれるか?」
二乃子は皇后に笑顔を向けた。
「おめでとうございます。」
「ありがとう。」
皇后は元気そうだ。肝心の姫を見る。
生まれたばかりの姫をくまなく観察する。
この国で最も高貴な親二人は手を握り合い、緊張の面持ちでこちらを見守っている。
しっかり三回。問題なし。
「今のところ、異常はありません。」
二人はほっとしたように息をはいた。
「でも、問題が解決するまでは、九条家で…。」
「わかっている。」
帝は懐から一枚の紙を取り出した。
「名前はもう決めてあるんだ。麗だ。王族にふさわしいキラキラネームだろう?」
二乃子は苦笑した。
「はい。素敵な名前です。」
「満殿。お願いします。アズ、予知妨害に問題はない?」
「ダイジョーブ。」
目の前ではちょうど、女官の一人が部屋に引きずり込まれ、短く悲鳴が響いたところだった。
満が慌てて駆けつけるのを、篤と二人で背後から見守る。
「何をしている!」
満が部屋に飛び込んでいく。
「アズ、行って。」
羽月が逃げないように、二乃子は最後まで姿を現さないようにする。
羽月は巫覡じゃない一般の人達をなめてかかっている。満の場合は捕縛されても駒から逃げないだろう。
篤と満で拘束した男を連れ出す。男は手足を拘束され、胸元にはしっかりと二乃子特製の(テキトーではない)お札が貼られている。
…よし。中の女性のケアは私の仕事だ。
二乃子はそちらと駆け寄った。
ーーーー
後日調べて分かったことだが、羽月の術にかかっていたのは男ばかりで、皆、妓女”羽月”の客だった。
意識操作の術をかけるには、身体接触が必要なのかもしれない。
今回捕まえた男は、もちろん平時では羽月の影響は感じていないため、単純に強姦未遂で捕まったと思っていたが、なぜか拘束され、お札を付けられたまま常磐家に護送されることになり、目を白黒させていた。
彼の状態が異常なことは巫覡の目を持っていればわかるだろう。
これで常磐家も言い逃れはできない。もし、巫覡院という機関が城にできていなければ、こうはいかなかったかもしれないが。
そして、二乃子は今、九条家に来ている。
皇后様が産気づいたのだ。
それに伴い、帝も九条家に降臨した。三回目の出産のはずなのに、九条家の家庭菜園の周りをぐーるぐると歩き回っている。もう何週目か。
同じくそわそわしている将軍は、二乃子についてきた満に稽古をつけると言って木刀で打ち合っていた。
…将軍が勝っているように見えるが、もう年は60を超える。
やがて、おぎゃあおぎゃあという声が九条邸中に響いた。
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二乃子はしばらくして産所に呼ばれた。部屋では赤子を抱えた陛下と、横になった皇后が待っていた。
「二乃子、姫と皇后を視てくれるか?」
二乃子は皇后に笑顔を向けた。
「おめでとうございます。」
「ありがとう。」
皇后は元気そうだ。肝心の姫を見る。
生まれたばかりの姫をくまなく観察する。
この国で最も高貴な親二人は手を握り合い、緊張の面持ちでこちらを見守っている。
しっかり三回。問題なし。
「今のところ、異常はありません。」
二人はほっとしたように息をはいた。
「でも、問題が解決するまでは、九条家で…。」
「わかっている。」
帝は懐から一枚の紙を取り出した。
「名前はもう決めてあるんだ。麗だ。王族にふさわしいキラキラネームだろう?」
二乃子は苦笑した。
「はい。素敵な名前です。」
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