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34 雑用係、帝のスパイになる
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花街での騒動から二週間あまり。満は内密に帝に呼び出された。
「二乃子殿を、見張る?」
「ああ、ついでにその能力についてもある程度把握したい。調査してくれ。」
帝は、帝ならではの命令口調で否やを許さない。…ちょっと陽己に似ている。
「羽月という巫覡は二乃子の姉妹弟子なのだろう?」
「はい。涼夜殿の弟子だと。篤殿もそうです。」
つまり、二乃子が羽月と協力していないか、陛下は懸念しているのだ。その懸念は帝としてもっともだろう。
そばで二乃子を見ていた身としては、二乃子と羽月が仲間という線はとても薄いと思うが。
「何か、今の時点で気になったことはないか?」
「二乃子殿に関してですよね?」
気になることはたくさんある。
まずは前から気になっている、二乃子の出自。結局、何もわからない。九条家に縁のある血筋だとは思うのだが。誰か似ている人でも思いつけばいいが。
薄い色合いの黒髪と灰色の目が、巫覡、という印象を全面に出しているのでいまいち顔立ちの印象が残りにくい。
また、孫巫覡という情報もある。常磐の血もおそらく引いているだろう。
次に、二乃子の実力。巫覡の術の各分野のスペシャリストというのは、自分たちで新しい技を作り出すことが強みのように見える。
篤の予知、羽月の呪術、どちらも自己流のようだ。10歳までに基礎を習い、そこから各自で修業に入ったということは、そこからは各自で技を自己流で生み出すということではないか?
では、二乃子のオールラウンダーとはどういうことだろう?力が強いってどういうことだ?
いや、これは自分が巫覡のルールを知らな過ぎてどうにも考察できない。
さらに、二乃子の使い魔。この前、三体目、トゥロワが登場した。
…アン・ドゥ・トゥロワって異国語で1、2、3って意味だ。ある意味安直だ。
アンは満も噂に聞く猫の使い魔で、巫覡がよく使役しているタイプの使い魔だ。でもその後の金色の鳥とウサギ。ドゥに関しては花街の事件に駆けつける際に、三本目の足をはやしていたらしく、咲になんて名前の鳥ですか?と聞かれて発覚した。
三本足の金色の鳥。…カラスかもね。
「わかった。わかった。」
帝が満の考察を止める。
「とりあえず、巫覡について勉強しろ。で、私にも教えてくれ。」
帝は探るように満を見た。
「私が頼んだことは、九条家にも報告するな。調べたことも、だ。」
「え。」
「その代わり、この任務に就けば、願いを可能な限り叶えてやろう。」
満はピンときた。九条家の内情は案外この陛下には筒抜けなのだ。
「陛下は私が国試を受ける予定なのはご存じですね。合格したら巫覡院に配属にして欲しいのです。」
「引き受けるんだな?」
満はうっと言葉に詰まる。依頼はつまり、二乃子をスパイしろということだ。
でも、他人を召し抱えられるよりは、いいだろう。
「はい。」
数か月後、満はこの任務を引き受けたことを後悔することになる。
「二乃子殿を、見張る?」
「ああ、ついでにその能力についてもある程度把握したい。調査してくれ。」
帝は、帝ならではの命令口調で否やを許さない。…ちょっと陽己に似ている。
「羽月という巫覡は二乃子の姉妹弟子なのだろう?」
「はい。涼夜殿の弟子だと。篤殿もそうです。」
つまり、二乃子が羽月と協力していないか、陛下は懸念しているのだ。その懸念は帝としてもっともだろう。
そばで二乃子を見ていた身としては、二乃子と羽月が仲間という線はとても薄いと思うが。
「何か、今の時点で気になったことはないか?」
「二乃子殿に関してですよね?」
気になることはたくさんある。
まずは前から気になっている、二乃子の出自。結局、何もわからない。九条家に縁のある血筋だとは思うのだが。誰か似ている人でも思いつけばいいが。
薄い色合いの黒髪と灰色の目が、巫覡、という印象を全面に出しているのでいまいち顔立ちの印象が残りにくい。
また、孫巫覡という情報もある。常磐の血もおそらく引いているだろう。
次に、二乃子の実力。巫覡の術の各分野のスペシャリストというのは、自分たちで新しい技を作り出すことが強みのように見える。
篤の予知、羽月の呪術、どちらも自己流のようだ。10歳までに基礎を習い、そこから各自で修業に入ったということは、そこからは各自で技を自己流で生み出すということではないか?
では、二乃子のオールラウンダーとはどういうことだろう?力が強いってどういうことだ?
いや、これは自分が巫覡のルールを知らな過ぎてどうにも考察できない。
さらに、二乃子の使い魔。この前、三体目、トゥロワが登場した。
…アン・ドゥ・トゥロワって異国語で1、2、3って意味だ。ある意味安直だ。
アンは満も噂に聞く猫の使い魔で、巫覡がよく使役しているタイプの使い魔だ。でもその後の金色の鳥とウサギ。ドゥに関しては花街の事件に駆けつける際に、三本目の足をはやしていたらしく、咲になんて名前の鳥ですか?と聞かれて発覚した。
三本足の金色の鳥。…カラスかもね。
「わかった。わかった。」
帝が満の考察を止める。
「とりあえず、巫覡について勉強しろ。で、私にも教えてくれ。」
帝は探るように満を見た。
「私が頼んだことは、九条家にも報告するな。調べたことも、だ。」
「え。」
「その代わり、この任務に就けば、願いを可能な限り叶えてやろう。」
満はピンときた。九条家の内情は案外この陛下には筒抜けなのだ。
「陛下は私が国試を受ける予定なのはご存じですね。合格したら巫覡院に配属にして欲しいのです。」
「引き受けるんだな?」
満はうっと言葉に詰まる。依頼はつまり、二乃子をスパイしろということだ。
でも、他人を召し抱えられるよりは、いいだろう。
「はい。」
数か月後、満はこの任務を引き受けたことを後悔することになる。
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