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31 雑用係、絡まれる
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五の姫・彩葉と六の姫・琅菜が行儀見習いに来ているのは、花街の最奥にある最高級妓楼”朱天楼”だ。
貴族の姫が妓楼に通うなんて、普通では考えられないが、ここに九条家の困った事情がある。
そう、姫を立派なレディに教育できる女親がいないのだ。
満たちの母親を除いてみな仕事を持っており、例外な彼女も異人であるためにこの国の作法には精通していない。
このため、この国の作法は朱天楼にて、異国に関することは満の母から習うのが九条家の子供たちのルールである。
実は満と垂も一時期、礼儀作法を習うために通っていたが、レディ教育は必要ないので、大分長い間ご無沙汰していた。
ちなみに察した人もいるだろうが、二乃子はそんな礼儀作法は(習っていたかもしれないが)頭に入っていないので、満がことあるごとにしっかり教育している。
花街の催しは大盛況であり、貴族もお忍びで見に来ていた。城で見知った顔もちらほら来ていて、満も声をかけられた。
終始、垂の目がキラキラしていた。…美女が好きとはこういうタイプの人間のことを言うんですよ、二乃子殿。
全ての演目が終わると、彩葉と琅菜が感想を聞きに来た。
「どうだった、父上?」
「良い出来だったな。衣装も斬新でいて洗練されていて、流行りそうだな。」
宇宙はめったに人をほめない。彩葉にとってはこれ以上ない賛辞だ。手をたたいて飛び上がって喜んでいる。
「兄上、今日の衣装どう?」
「ああ、似合ってるよ。」
「きれいだよ、琅菜。」
前半は満、後半は垂。どうやら琅菜は満のコメントが不服だったらしくちょっとむくれているが、満には理由がよくわからなかった。
「彩葉、琅菜、私にもご家族にご挨拶させて?」
真っ黒なたっぷりした黒髪を結い上げた、真っ赤な衣装の美女だった。今日の演者の中でもひときわ目立っており、本人も注目を浴びて嫣然とほほ笑んでいる。
年は満たちよりもいくつか上だろう。
「羽月姐さん。」
羽月?
ちょっと嫌な名前である。二乃子に強姦魔をけしかけた巫覡と同じ名前だ。
羽月と呼ばれた美女は優雅にお辞儀をした。
「羽月と申します。お噂はかねがね、聞いておりますわ。かの有名な九条家の方にお会いしたいと思っておりましたの。」
「妹たちがお世話になっております。」
宇宙は見物に来た他の貴族につかまってしまっていたので、満が挨拶をする。
「三の君様ですね。最近は城で働いていらっしゃるとか。官吏でいらっしゃるの?」
「いいえ。臨時職員みたいなもので、正式な官吏採用はされていません。」
「臨時…では、最近立ち上げられた巫覡院という部署かしら。お客様から伺ったことがありますわ。」
おっと、巫覡院で働いているのは”九条”ではなく”藤堂”満である。
「いえ、そちらは藤堂家の出の者が働いています。俺は父上にたまに呼び出されるぐらいです。」
「そうですか…。なんでも大変な活躍をされている部署だとか?怪奇現象は何でもお札で解決してくださるのでしょう?私もその巫覡殿にお会いしてみたいわ。」
二乃子が気休めにばらまいているテキトーなお札のことか…。満はにっこりする。
「そうですね…。城外の方が依頼をするのは難しいですよね。」
当たり障りのない会話をしていると、羽月が一瞬イラっとした顔をした次の瞬間。
バチっという音とともに二人の間に火花が散った。
驚いて周りの人が振り返る。
満も驚いたが、火花の出た場所から顔をあげて、羽月の顔を見てもっと驚いた。
誰かが息をのみ、悲鳴が響く。
羽月の顔は溶け落ちるかのように半分がめくれ、鈍色のウロコに覆われた顔が現れたのだ。
貴族の姫が妓楼に通うなんて、普通では考えられないが、ここに九条家の困った事情がある。
そう、姫を立派なレディに教育できる女親がいないのだ。
満たちの母親を除いてみな仕事を持っており、例外な彼女も異人であるためにこの国の作法には精通していない。
このため、この国の作法は朱天楼にて、異国に関することは満の母から習うのが九条家の子供たちのルールである。
実は満と垂も一時期、礼儀作法を習うために通っていたが、レディ教育は必要ないので、大分長い間ご無沙汰していた。
ちなみに察した人もいるだろうが、二乃子はそんな礼儀作法は(習っていたかもしれないが)頭に入っていないので、満がことあるごとにしっかり教育している。
花街の催しは大盛況であり、貴族もお忍びで見に来ていた。城で見知った顔もちらほら来ていて、満も声をかけられた。
終始、垂の目がキラキラしていた。…美女が好きとはこういうタイプの人間のことを言うんですよ、二乃子殿。
全ての演目が終わると、彩葉と琅菜が感想を聞きに来た。
「どうだった、父上?」
「良い出来だったな。衣装も斬新でいて洗練されていて、流行りそうだな。」
宇宙はめったに人をほめない。彩葉にとってはこれ以上ない賛辞だ。手をたたいて飛び上がって喜んでいる。
「兄上、今日の衣装どう?」
「ああ、似合ってるよ。」
「きれいだよ、琅菜。」
前半は満、後半は垂。どうやら琅菜は満のコメントが不服だったらしくちょっとむくれているが、満には理由がよくわからなかった。
「彩葉、琅菜、私にもご家族にご挨拶させて?」
真っ黒なたっぷりした黒髪を結い上げた、真っ赤な衣装の美女だった。今日の演者の中でもひときわ目立っており、本人も注目を浴びて嫣然とほほ笑んでいる。
年は満たちよりもいくつか上だろう。
「羽月姐さん。」
羽月?
ちょっと嫌な名前である。二乃子に強姦魔をけしかけた巫覡と同じ名前だ。
羽月と呼ばれた美女は優雅にお辞儀をした。
「羽月と申します。お噂はかねがね、聞いておりますわ。かの有名な九条家の方にお会いしたいと思っておりましたの。」
「妹たちがお世話になっております。」
宇宙は見物に来た他の貴族につかまってしまっていたので、満が挨拶をする。
「三の君様ですね。最近は城で働いていらっしゃるとか。官吏でいらっしゃるの?」
「いいえ。臨時職員みたいなもので、正式な官吏採用はされていません。」
「臨時…では、最近立ち上げられた巫覡院という部署かしら。お客様から伺ったことがありますわ。」
おっと、巫覡院で働いているのは”九条”ではなく”藤堂”満である。
「いえ、そちらは藤堂家の出の者が働いています。俺は父上にたまに呼び出されるぐらいです。」
「そうですか…。なんでも大変な活躍をされている部署だとか?怪奇現象は何でもお札で解決してくださるのでしょう?私もその巫覡殿にお会いしてみたいわ。」
二乃子が気休めにばらまいているテキトーなお札のことか…。満はにっこりする。
「そうですね…。城外の方が依頼をするのは難しいですよね。」
当たり障りのない会話をしていると、羽月が一瞬イラっとした顔をした次の瞬間。
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驚いて周りの人が振り返る。
満も驚いたが、火花の出た場所から顔をあげて、羽月の顔を見てもっと驚いた。
誰かが息をのみ、悲鳴が響く。
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