救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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29 新米巫覡、お風呂に駆け込まれる

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「九条家をお守りくださるお方、お久しぶりです。」

二乃子はふわりと九条家の上空に浮かんでいた。

『やあ、巫女姫。突然引っ張ってすまなかったな。あれを見てほしくてな。』

女性が指し示す先には、黒い煙のような塊が城下をウロウロしていた。を以前にも見たことがあった二乃子はその正体に気づいた。

羽月はづき。」

『巫女姫がつれこんだ赤子を探しているんだろう。まあ私がここにいる限り、九条家には入れないけどな。格が違う。
しかし、ここにいることにはそのうち気づかれるだろう。』

「じゃあやはり第二王子のあの術は羽月の仕業なんですね…。」

何のために?と思うがを考えれば、ただ気に食わないみたいな理由もあり得る。どうせかけるなら一番偉い子にかけて、力を誇示したかった、とか。

となるとはどうなる?

『そのうちに接触してくるんじゃないかと不安だな。』

その言葉にはっとする。

「じゃあ、やはりあなたは…。」

『おっと。』

女性は下を見た。二乃子もつられてみると、湯殿に人が駆け込んでいくところだった。

ーあ、そっか、私はお風呂に入って…。

『ちょっとした騒ぎにしてしまったようだ。戻るといい。』

「その前に、巫覡院はだと聞きました。…こうなることを予想していたのですか?」

だとしたら巫覡でもないのにとんでもない先見の力だ。巫覡としての才能もあったという話は嘘ではないのかもしれない。

『予想はしてないさ。危惧していただけで。』


ーーーー


「じゃあ、大丈夫なんだね?」

二乃子が湯殿で倒れたときいて、医師の光が大急ぎで湯殿にやってきて二乃子を湯船から抱えだしてくれていたところで二乃子は覚醒した。

今は大きなタオルで体をおおっている。

「はい。これも巫覡の技の一つで…。お騒がせしました。」

何でも一緒にお風呂に入っていた咲がびっくりして人を呼びに行ったらしい。最終的に先が誰にこのことを話しに行ったかは想像に難くない。

ーあとで説明をしないとだな…。

と思っていたら、湯殿外が騒がしくなってきた。

「三の君!止まってください!三の君!いけません!」

という女中の声がする。…え?と入口を見るのと満が扉をがらりとあけたのは同時だった。

「二乃子殿!大丈夫ですか!?」

満がタオルをもう一枚広げて、放心状態の二乃子にかぶせて頭をごしごしし始める。

「咲に倒れたと聞きました!何があったんですか?しっかりふかないと風をひきますよ!もう秋になるんですから!」

いやいやいや!なんで普通におかんモードになってるの?ここは乙女のお風呂よ?

二乃子は光に目を向けると心得たとばかりに光が満の首根っこをつかんだ。

「さすがにはしたないよ、満。未婚の女性のお風呂の世話をするもんじゃない。俺たちは外で待とう。」

「あ…。」

満はトマトよりも赤くなった。


このことを知った父親から後で満は散々からかわれることとなる。



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