救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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27 新米巫覡、張り込む

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「巫覡院の権利って、まだまだ全然確立されてませんね。思い知りました。」

裁判などを司る刑部と呼ばれる部署の入口、が良く見える茂みの中で二乃子は陽己に借りた双眼鏡を覗き込んでいた。

隣では満が一花にもらった、尻尾をつかめていない城内強姦魔のリストにチェックを入れている。

「ですね。」

「法廷の見学は官吏同伴じゃないとできないなんて…すみません。こんなコソ泥みたいなことさせて。」

「気にしないでください。仕方ないです。陛下も来年からは官吏を配属してくれるって言ってました。」

二乃子は出入り口からぽろぽろ出てくる官吏たちを観察していた。

「満殿こそ、暇ですよね?お仕事ため込んでいるのに。先に戻られてもいいですよ?」

リストをチェックし終えた満は城の地図を取り出して、同じような状況を想定してターゲットを観察する最適な隠れ場所を考え始めている。

「いえ、二乃子殿の護衛も仕事なので。」

「仕事多かったら言ってくださいね。手伝います。
巫覡院のスケジュール管理に予算の確保と分配、外来のリスト作りに報告書のまとめ…それに私の体調管理ですね。毎朝のトレーニングをやめれば…」

「やめませんからね。」

満は最後まで言わせなかった。…ちょっとむっとする。

「でも、トレーニングのおかげで、体力がついて、術のがよくなったように思います。満殿は正しいですね。」

その後、満が照れたように何か言っていたが、正直聞いてなかった。

「あ、来た。黒だ。」

現れたリストの強姦魔からは羽月の気配を感じた。


ーーーー


その後も建物の隙間に挟まったり、屋根に上ったりしながらリストの20人を観察し、そのうちの半数が羽月から意識操作されている疑いがあった。

「この人たちが城で強姦事件をおこすタイミングと場所を予知して。」

巫覡院に帰った二乃子は来ていた篤にリストを渡した。

「…僕この人たち知らないから、時間かかるよ?」

「大丈夫。お願い。範囲は城に絞るから、検索をかけれるでしょ?」

「やってみる。」

篤は奥の部屋にリストと、初登場の小道具・水晶玉をもって下がっていった。

「以前、自分のことは予知できないという話は聞きましたが、今の篤殿の口ぶりだと、知らない人について予知するのも難しいんですか?」

「んー、予知は経験則に基づいているんです。」

「経験則?」

「こういう人はこういうことをする。この月に生まれた人はこれが好き。知っている人であれば知っている情報も多いですからね。より簡単なんです。」

「…ということは、巫覡は一目見て他人の情報をある程度つかめるということですか?」

どんどん満が巫覡に詳しくなっていって、

「まあ、生年月ぐらいはなんとなく。
…あまりアズの言うことを鵜呑みにしないでくださいね。予知の巫覡の強みは予知の後、その予知をどう相手に伝えるかで、その行動を操れることです。
例えば、アズが満殿が朝ごはんにおひたしを食べる可能性を予知したとします。その横にはひじきがあるだろうことも。」

満がなぜ経験則でそんな予知ができるのか、疑問に思ったようだが、そこは脳の神秘。二乃子にも説明はできない。

「明日の朝はおひたしを食べるよ、と言われて翌朝おひたしがあるのを見たら人によってはその選択を回避できます。代わりにひじきを食べるわけです。」

「つまり、最初からひじきを食べさせたければ、おひたしを食べると言えばいいわけですね?」

「そう。嘘なんて平気でいくらでもつきますからね。気を付けて。」



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