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25 雑用係、ハイキングに行く
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篤が来てくれたことによって、二乃子が外に出やすくなった。
そこで、今日はずっと先延ばしにしていた宝具の職人の住む山にやってきていた。
「結構、山奥、ですね。」
満は竹籠を背負いながら山を登る。道中では二乃子が草花を摘み、満の背の籠に入れていく。
「この白い花は安眠の素で良質な眠りで健全な体に導いてくれます。
こちらの青い実はにおいに精神を落ち着ける作用があります。」
そうやって、もう7種類ぐらいの草花を大量に籠に入れられて地味に重くなってきた。
「二乃子殿が術に使うんですか?」
「いえ、これを調合して匂い袋を作ると、売れるんです。」
…誰に?
そうこうしているうちに、古びた工房とおぼしき小屋についた。
「ごめんください!巫覡院の者です!」
「ほいほい。」
煤に汚れた白髪の老人が出てきた。老人だが、筋肉質というちょっと不思議な男性だった。
「おお、お前さんが巫覡院の巫覡かい?」
老人はまっすぐ二乃子を見て驚いたように言った。
「すごい力じゃないか。安心したよ。これなら、この宝具も起動させられるだろう。」
「巫覡院から参りました、常磐二乃子です。」
「きいておるよ。お入り。」
中には弟子と思われる40前後の職人もいた。
「城の結界を補強すると聞いたからな、依頼されたスペックも相当のものだったし、起動するのも大変だと思っておったんじゃ。」
宝具の職人は巫覡の道具作りも行っているため、巫覡の術に詳しい。
しかし、起動するのが大変とはどういうことだろう?
「宝具は、置いておくだけではもちろん機能しません。」
二乃子が察したように説明してくれた。
「宝具を城の結界と接続する作業が必要です。宝具を置いてから結界を作るのよりも、すでにある結界に宝具を接続する方が大変で、ある意味力技になるんです。」
「城の結界はこの国では最高クラス。難易度は過去に例がないだろう。」
それはもしかして、かなり無理をする予定だったのではないか?
満が二乃子を睨むと、しれっと目をそらされた。
「この姫さんは先代の大巫女様に近い力を持っている。」
「大巫女?」
「その代で最も力の強い巫覡のことをそう呼ぶんです。巫覡はもともと女性の職業だったので、そのころの名残で大巫女と。」
「当代はどんな方なんですか?」
「今は空位です。先代と同等またはそれ以上の力を持つことが条件ですから。空位なことも多いです。」
「坊主は何もしらんなあ!」
老人ははっはっはと笑った。
…地味に傷ついたぞ。
「もしかして、姫さんは孫巫覡かい?」
「はい。」
「孫巫覡っていうのはな、一代無能力の世代を挟んで生まれてきた巫覡のことだよ、坊主。」
「…ご説明ありがとうございます。」
「そう聞いています。祖母は巫覡でしたが、両親は巫覡ではありません。」
「巫覡は基本、血脈で伝えられる能力者だ。親が巫覡なら子も巫覡だが、まれに子供が普通の子として生まれ、さらにまれにその子供が巫覡として生まれる場合がある。
突然巫覡の子が普通の家に生まれるよりも珍しいことだが、大抵力が強い。」
二乃子はあまりこの話をしたくないらしく、急に話題を変えた。
「宝具の完成にはあと何年ぐらいかかりそうですか?」
…年?
「二年はかかるな。」
そこで、今日はずっと先延ばしにしていた宝具の職人の住む山にやってきていた。
「結構、山奥、ですね。」
満は竹籠を背負いながら山を登る。道中では二乃子が草花を摘み、満の背の籠に入れていく。
「この白い花は安眠の素で良質な眠りで健全な体に導いてくれます。
こちらの青い実はにおいに精神を落ち着ける作用があります。」
そうやって、もう7種類ぐらいの草花を大量に籠に入れられて地味に重くなってきた。
「二乃子殿が術に使うんですか?」
「いえ、これを調合して匂い袋を作ると、売れるんです。」
…誰に?
そうこうしているうちに、古びた工房とおぼしき小屋についた。
「ごめんください!巫覡院の者です!」
「ほいほい。」
煤に汚れた白髪の老人が出てきた。老人だが、筋肉質というちょっと不思議な男性だった。
「おお、お前さんが巫覡院の巫覡かい?」
老人はまっすぐ二乃子を見て驚いたように言った。
「すごい力じゃないか。安心したよ。これなら、この宝具も起動させられるだろう。」
「巫覡院から参りました、常磐二乃子です。」
「きいておるよ。お入り。」
中には弟子と思われる40前後の職人もいた。
「城の結界を補強すると聞いたからな、依頼されたスペックも相当のものだったし、起動するのも大変だと思っておったんじゃ。」
宝具の職人は巫覡の道具作りも行っているため、巫覡の術に詳しい。
しかし、起動するのが大変とはどういうことだろう?
「宝具は、置いておくだけではもちろん機能しません。」
二乃子が察したように説明してくれた。
「宝具を城の結界と接続する作業が必要です。宝具を置いてから結界を作るのよりも、すでにある結界に宝具を接続する方が大変で、ある意味力技になるんです。」
「城の結界はこの国では最高クラス。難易度は過去に例がないだろう。」
それはもしかして、かなり無理をする予定だったのではないか?
満が二乃子を睨むと、しれっと目をそらされた。
「この姫さんは先代の大巫女様に近い力を持っている。」
「大巫女?」
「その代で最も力の強い巫覡のことをそう呼ぶんです。巫覡はもともと女性の職業だったので、そのころの名残で大巫女と。」
「当代はどんな方なんですか?」
「今は空位です。先代と同等またはそれ以上の力を持つことが条件ですから。空位なことも多いです。」
「坊主は何もしらんなあ!」
老人ははっはっはと笑った。
…地味に傷ついたぞ。
「もしかして、姫さんは孫巫覡かい?」
「はい。」
「孫巫覡っていうのはな、一代無能力の世代を挟んで生まれてきた巫覡のことだよ、坊主。」
「…ご説明ありがとうございます。」
「そう聞いています。祖母は巫覡でしたが、両親は巫覡ではありません。」
「巫覡は基本、血脈で伝えられる能力者だ。親が巫覡なら子も巫覡だが、まれに子供が普通の子として生まれ、さらにまれにその子供が巫覡として生まれる場合がある。
突然巫覡の子が普通の家に生まれるよりも珍しいことだが、大抵力が強い。」
二乃子はあまりこの話をしたくないらしく、急に話題を変えた。
「宝具の完成にはあと何年ぐらいかかりそうですか?」
…年?
「二年はかかるな。」
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