救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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23 雑用係、もやもやする

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ここ二か月の間に、みつるはある二つの案件をめぐってもやもやしていた。

約一月前、九の姫・理究りくは母親と北西州に向かった。

出発の日、満は理究に細長い箱を差し出した。

「何これ、三兄?」

「これは、三兄から北西州にいる二の姫へのプレゼントなんだ。理究から二の姫に渡してもらえる?」

「なんで母上に頼まないの?」

鋭い6歳児…怖い子…。

「いや、これは理究と三兄の秘密にしたいんだ。母上たちにバレると、隠し事されちゃうんじゃないかと思って。」

理究は不思議そうに首を傾げながらも、引き受けてくれた。


その返事が今朝がた届いた。

北西州にいる二の姫・るなは、誠二によく似た黒髪黒目の少女らしい。体が弱いとのことだったが、最近は調子がいいらしく、時折寝床からでることも可能だとか。

特には快調らしい。

ー時折ってガチの病弱じゃないか。

手紙には二の姫からの返事も入っていた。優雅な字でプレゼントのお礼が書かれていた。

それが意味するところは、二の姫はちゃんと北西州にいる、ということだ。


満にはずっと気になっていたことがある。それは二乃子の出自だ。

宇宙そらは、すぐにバレるどころか注目の的になってしまうにもかかわらず、満に藤堂姓を名乗らせて巫覡院に送り込んだ。

逆に二乃子の出自にはほとんど注目が集まらず、疑問もなく常磐二乃子として受け入れられた。

しかし、最近知ったのだが、力の強い巫覡は仕事時に皆、常磐を名乗ることを許されるらしい。

祖母は巫覡。誠二の母も元は巫覡だった。故人なので、祖母と共に最近まで修行していたという話には合致しないが。

3つの時に両親と別れたというのも、永遠と誠二が二の姫を手放したのと同じ時期だ。

九条家に所縁の生まれであるから、常磐本家から離して育てることが可能だったのではないか?
二の姫のポジションが、ちょうどよくあてはまるのは偶然なのか?

名前もだし。


しかし、どうやら九条家に所縁はあるかもしれないが、二の姫ではないようだ。

まあ、りんの妹が二乃子では名づけの意欲落ちすぎか。


そして、もう一つ、もやもやしているのは…。

先週から来ている、常磐家からの助っ人巫覡だ。


ーーーー


巫覡院では、予算が取れたこともあって、週に一人、常磐家から巫覡を雇うことにした。

もちろんその日話す内容は前日に二乃子と入念に調整し、こちらが常磐家を疑っていることはバレないように。

「すみません。」

朝一に満は城門の衛兵のところに来ていた。

巫覡院ふげきいんの藤堂満と申します。本日から、常磐家の巫覡の方が一名、巫覡院に来ることになっていまして。着きましたら巫覡院への案内をお願いしたいのですが…。」

「ああ、巫覡ならそこに来てるよ。」

衛兵は床を示した。

そこには地べたに胡坐をかき、目を閉じて瞑想する黒髪を切り詰めた少年がいた。
白を基調にした巫覡の装束を着て、背には大きく膨らんだ包みを背負っている。年は同じくらいだろう。

「巫覡…殿?」

少年はカッと黒い眼を開くと、ぐわりと満を見た。

「やあ!来るのが見えてたよ!巫覡院の人だよね?僕は常磐あつし。15歳?だったら同い年だよ!アズって呼んで。」

そしてマシンガンのようにしゃべりだした。

「君は?名前は?」

「藤堂満です。」

「みつる…。じゃあミッチーかな。」

ミッチー…だと?

「早速巫覡院に行こうか?僕もしかして早くついちゃった?巫覡院で働くの楽しみにしてたんだ。」

篤はこの調子で巫覡院までの道もしゃべり続けた。

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