救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

文字の大きさ
上 下
19 / 115

17 新米巫覡、襲われる

しおりを挟む
ちょっとだけ暴力表現があります

――――――――――――――――――――――――


満が出かけた後、二乃子は帝の下に内密に呼び出された。

「常磐家にも結界の破損した原因の調査を依頼した。」

陛下の言葉に、二乃子はここにも私のおかんがいたのか?と焦ったが、そんなはずはないだろう。

「何かお考えが?」

「もちろん二乃子のも調査をしてもらう。ただ、もし常磐家ぐるみで結界の破壊行動をとったのだとしたら、何かしら隠ぺい工作をしてくるだろう。都合の良い報告をしてくるとか。
もし単独犯なのだとしたら、二乃子と似たような調査結果をあげてくるだろう。…安直に考えれば。」

なるほど。さすが帝だ。

「では、陛下は常磐家に連なる者が今回の事件を引き起こしたとお考えなのですね?」

「ああ。他に思いつかない。二乃子はどう思う?」

「同意見です。今回の結界の破損は、何者かが外側から結界に傷のようなものをつけ、そこに妖怪をあつめ、傷を広げさせ、割ったのです。」

そんなの、思いつかないだろう。

「結界の補強のために宝具を作るんだったかな?」

「はい。」

今、結界は仮修復の状態である。歴史の長い結界を元通りに修復することは、二乃子にもできない。

そこで、結界に作用する核となる宝具を祀り、巫覡たちの力を蓄えることで結界の力を強めようと考えた。
そもそも城の結界のように、目に見えた核のない巨大な結界は異例なのだ。唯一無二の結界だったのに、今回、壊れてしまった。

今回、二乃子から結界に作用して傷を修復することができた。だからこの方法も有効だろう。


「常磐からの調査結果が届いたら、二乃子にも知らせよう。」

「はい。」

「今後は自分の身辺にも気を付けてくれ。君のことを傷害として排除しようとするかもしれない。
君にも東雲しののめをつけるように言っておく。」

おおー!東雲!あの、陽己についているやつ!

東雲とは、この国の貴族間では公然の秘密、帝直属の暗殺集団。対象者の護衛としても有能だ。

「まだ、東雲はついていないからな?気を付けるように。」


帝の心配はこの直後に実現してしまう。


ーーーー


二乃子がぷらぷらと城を歩いていると、誰かが近づいてきた。

いつぞやに巫覡院にやってきた朝比奈家の嫡男、博臣ひろおみである。

「こんにちは、巫覡殿。」

「朝比奈博臣殿でしたね。何か御用でしょうか?」

「実は折り入って相談したいことがありまして、今お時間いいですか?」

「わかりました。では巫覡院に。」

「…できれば巫覡院には行きたくないのです。」

大貴族の嫡男が内密な相談で巫覡院に行くのは確かに噂がたっては困るのかもしれない。

「ここでお伺いしてもいいですか?」

「ではあちらの木陰に…」

博臣が誘導するように二乃子の腕をつかんだ。ーあっこれはダメなやつ!

二乃子は博臣に異変を感じて振り払って逃げようとしたが、男の力でねじ伏せられ、地面にたたきつけるように突き飛ばされた。
とっさに手をついたが、勢いが落ちずに倒れこみ、手のひらも思い切りすった。

上から博臣がまたがるようにのしかかってくる。

見上げると目が合った。その目の中にを察知した。

その隙に、服に手をかけられ、ビリっと大きな音がして服の前側が破かれた。

ーどうする?これ?大貴族の御曹司、殺しちゃだめだよね?

力の限り抵抗していると、頬を殴られて口の中に血の味が広がった。

さっと殺意がわいたその時だった。


がつんという大きな音がして博臣が崩れ落ちた。そのまま二乃子の上から蹴り転がすように降ろされる。

「二乃子、大丈夫?」

そこにいたのは一花だった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

世話焼き令息とズボラな巫女姫の怪異まみれの冒険記

ぺきぺき
ファンタジー
とある東洋の島国の名門貴族家のエリート令息である満(みつる)は、文武両道の将来を期待された若君であった。しかし、何でも器用にこなすが故の悩みを抱え、将来に悩んでいたある日、人生をかけて愛するべき相手と出会った。 彼女はまだ10代の若さで国を巡って邪を払う、最強の巫女姫様だった。 エリート令息が規格外(にズボラ)の巫女姫をお世話して旅をしながら各地の怪異や問題を解決するお話。 ー--- 恋愛は遅々として進まないので、ファンタジーです。笑 執筆が完了済みの二章を公開します。その後、一度完結にしますが、続きを書ければまた投稿します。 第一章 夜市に浮かぶ火の玉 全8話 第二章 気の早い雪女 全7話 『救国の巫女姫、誕生史』の続編ではありますが、読んでいなくても問題ないです。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

素直になる魔法薬を飲まされて

青葉めいこ
ファンタジー
公爵令嬢であるわたくしと婚約者である王太子とのお茶会で、それは起こった。 王太子手ずから淹れたハーブティーを飲んだら本音しか言えなくなったのだ。 「わたくしよりも容姿や能力が劣るあなたが大嫌いですわ」 「王太子妃や王妃程度では、このわたくしに相応しくありませんわ」 わたくしといちゃつきたくて素直になる魔法薬を飲ませた王太子は、わたくしの素直な気持ちにショックを受ける。 婚約解消後、わたくしは、わたくしに相応しい所に行った。 小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...