救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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16 新米巫覡、おかんを得る

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夕涼みの会から2週間。

結界の割れ目から侵入した妖怪の除去に力を貸してくれていた常磐ときわ家の巫覡たちは、今朝撤収していき、巫覡院は日常を取り戻した。

しかし、たかがこれだけの任務に巫覡が5人も来るとは。
それぞれにがあり、その得意分野の中ではそこそこの手練れなのだそうだが、5人分の人件費を払うのはもったいないと思ってしまう。

なぜなら二乃子は一人で同じ任務をこなせるからだ。に手伝ってもらえれば、1日で作業を終えられただろう。二日あれば完璧だ。

5人で一週間、しかも偉そうな態度でいたくせに、退治し損ねた妖怪がいることを二乃子に指摘されて、何やら言い訳をしていた。

ーだから私がやるって言ったのに。

邪魔をしたのは2週間前に爆誕した二乃子専属のおかん、満である。


「これに関しては、陛下が予算を動かして対応してくれます。巫覡院の予算がなくなるわけではありません。
二乃子殿は倒れたんですよ?無理は禁物です。ただでさえ、結界破損の原因調査があるでしょう?
この仕事は外注します。絶対に。」


二乃子の特殊体質を知った満は、絶対に無理はさせないとばかりに二乃子の仕事にも口を出すようになった。

それだけではなく、食事を忘れれば口に握り飯を突っ込まれ、夜更かしをすれば昏倒させられて強制入眠だ。…え、なんでそんなことできるの?ただ者ではないと思ってはいたが。

昨日はついに顔を洗われた。このままでは着替えもさせられるかもしれない。


気を付けようと思った。



出歩かないのは良くないというおかんの一声で後宮に昼食をもらいに行った。櫃に米を分けてもらい、握り飯にしようと海苔や梅干しを分けてもらう。

そうして巫覡院に戻ってくると、陽己はるきさきが木刀を素振りしていた。それを指導するのはすらっとした長身に長い黒髪を一つにまとめた近衛の女性、一花いちかである。

あれから陽己はなぜか鍛え始め、咲もそれに倣った。

「若宮はお血筋あってか、筋はとてもいいですよ。」

「血筋?父上か母上は剣豪なのか?」

「皇后さまはもともと陛下の護衛であられました。九条将軍の末の姫様ですし。」

「なに?」

陽己はぴたりと手をとめた。

「それでは満は私の従兄なのか?」

「…彼は私の家、藤堂家の者ですが。」

「みんな噂しておるぞ!九条家の三姉弟の一人、宇宙そら殿の奥方は異人であるし、九条家の者はみなとりあえず、藤堂と名乗るのだと!」

一花はあれまとため息をついた。


「まあ、一つご忠告差し上げるとすれば、若宮。一つの謎を見破ったからといって、満足しないことです。」

陽己が首を傾げた。


ーーーー


「二乃子殿、この間の件、予算が確保できそうです。」

「本当ですか?では、手配をお願いしても?」

「はい、私には手に余るので、一度九条家に戻りますね。」

満は九条家へと出かけて行った。


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