救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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13 雑用係、第一王子に諭されて向き合う

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その会談から、二乃子は普段に輪をかけて寝食を忘れて考え事をしていた。

ポーカーフェイスのため、あまり感情の変化が読み取れない二乃子だが、考え事をしているときは露骨に一点を見つめピクリとも動かないのでよくわかる。

第二王子の成長が止まっている件に関して、正直お手上げ状態でなんの策も浮かんでいないのが現状だ。

「二乃子殿、そろそろ一般のお客さんが来る時間ですよ。」

「ああ!そうですね!行きます!」

想像もつかないが、かなりのストレスが身にかかっているのだろう。なんとかそれを和らげてあげたいが。


そうこうするうちに一週間が経ち、皇后陛下の夕涼みの会の日となった。


ーーーー


その日、怒った顔の陽己に満は巫覡院の裏に呼び出された。

「…なんでしょう、陽己殿。」

「お主、なぜ二乃子にあんな風に追い詰めたままにしておくのだ。」

わずか8歳の第一王子にも二乃子の異変はわかりやすいらしい。

「二乃子はここ何日かほとんど寝てない様子。どうせ何か無理難題を父上から押し付けられたのであろう。
国のためなら二乃子には頑張ってもらわねばならないが、二乃子を助けるのは満の仕事であろう?
なぜ放っておくのだ?」

「いや、放っておいているわけではありませんよ。ちょっとでも眠っていただけるように異国のポプリを取り寄せたところです。」

「甘い。軽い。」

8歳に言葉で刺される15歳。自分でも思っていたことだったのでなお刺さった。

「助け支えるというのは仕事の分担や私生活の世話にとどまらない。悩みを聞き、心労を分かち合い、そうして真の仲間となるのだ。」

「…陽己殿、一体おいくつですか?」

「よいか?ちゃんと二乃子と話して相談にのってやるんだぞ?」


ーーーー


陽己に言われたことは、満に響いた。そこで、満はすぐに行動に移した。

「二乃子殿、今夜は夕涼みの会です。宴の食事も分けてもらいましたし、俺たちも縁側で休憩がてら食べませんか?」

二乃子はきょとんとした顔をして満を見た。

「最近ずっと根詰めて考え事をされているでしょう?息抜きも必要です。」

「息抜き…そうですね。行きます。」

縁側には咲が摘んできた夏の花が飾られ、きれいに盛り付けられた食事が用意されていた。
庭にはきれいな花模様の入った提灯がいくつか置かれ、薄暗くなった空間を彩っていた。
すでに咲がちょこんと座り、待ち構えている。

「素敵ですね!用意してくださったんですか?」

「はい。咲と二人で。二乃子殿のために。」

「この提灯は?」

「妹が集めているものをいくつか持ってきてもらいました。ほら、今日の夕涼みの会に参加しているので。」

「満殿には妹がおられるのですか?」

大分しゃべりも様になった咲が尋ねた。

「ああ。私自身は4人兄妹だけど、従兄弟たちがいっぱいいるからね。9人兄妹みたいな感じだよ。」

「二乃子殿は?」

「私?私は小さいころから常磐家にいるので家族のことは…一人っ子かな?」

「ご両親とは全く?」

「はい。三つの時に別れて以来、会っていません。」

「陽己も全く両親とは会っていないって言ってました。」

陽己の名前を聞いて、また二乃子がシンキングタイムに入り始める。ぱっと二乃子の腕をつかむ。

「二乃子殿、それ、今日はやめましょう。」

二乃子がきょとんとこちらを見る。

「この前の陛下との会談から、ずっと考えこまれているでしょう?夜も寝られていないでしょう?
毎日自分に課された重圧と向き合っているのは素晴らしいと思います。俺ならとっくに逃げてたかもしれない。」

満は真剣な声で言った。

「俺はずっと、自分の実力で何か大きなことを成し遂げたいと思っていました。九条家のおじいさまや父上たちの名に恥じぬように、自分もその歴史に加わりたいと。
でも結局、何をすればいいのかもわからないまま、父上に仕事をするように言われて、途方に暮れていたところに巫覡院の雑用係になったんです。」

「満殿…?」

「正直、期待をされる、使命を課されるっていうのがこんなに大変なことだとは思ってなかった。もし、自分が二乃子殿の立場だったら、なぜ自分がこんなことをって、思ってたと思う。
上手く、まとまらないんですけど…。」

満は大事なことを伝えるために息を吸った。


「知っていてほしいんです。二乃子殿がやり通すなら、俺も一緒にやりたい。逃げずに二乃子殿の力になりたい。
でも、逃げたいんだったら、一緒に逃げましょう。どんな重荷も一緒に背負いましょう。
その…一緒に働いているんですから。」

二乃子は大きく目を見開いた。

それから思わずというようにふにゃりと笑った。


それを見た満が思わず赤くなったのも仕方のないことだろう。



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