救国の巫女姫、誕生史

ぺきぺき

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閑話 第一王子、弟子を得る

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陽己はるきは午前中の勉強を終え、わくわくしながら巫覡院へと走ってきた。

昨日は二乃子も満もお休みで、とてもつまらなかった。今日は来ているはずだ。

8歳になる陽己の日常はとても単調で毎日がつまらなかった。それもそのはず、陽己には友達がいなかった。
父も母もそばにはおらず、周りには仕える大人だけ、冒険も何もない。
毎日勉強の後に一人でこっそりこの建物に来るのがちょっとした冒険だったのだ。

そんなところに現れたのが二乃子と満だった。

二人は常に新しいことを陽己に教えてくれた。そして自分を子供扱いしなかった。

陽己は満面の笑みで巫覡院の縁側に飛び乗った。

「おい!二乃子!満!」

「ひっ!」

見知らぬ声がして白い何かが満の後ろに隠れた。…なんだ?
満の背後から大きくてふさふさした毛の塊のようなものが見えている。

「陽己殿、こんにちは。」

「二乃子、あれは何だ?」

見れば白い髪をした女の子らしい。大分やせ細って小柄で、陽己よりいくつか年下だろうか。

「彼女はさきです。キツネに憑依されていますが、それ以外は普通の女の子です。」

なんだ、普通の女なのか。

「実は、陽己殿と同じ、8歳なんですよ。でもこれまでお勉強などはあまりしてこなくて、字も十分に読めないんです。」

二乃子は困ったというように言うが顔は全然困っていない。

「あれの尻尾はどうやって生やすんだ?私にもできるか?」

「獣憑きになればできますよ。」

獣憑きとは何だ?王子がなっていいものか?
奥で満がぎょっとしたような顔をしている。二乃子は変なことを言ったつもりはないようだ。

「陽己殿、咲に文字を教えてあげてくれませんか?」

「私が?」

「はい。」

「あれに字を?」

「はい。」

咲は恐る恐る満の後ろから顔をだした。
その目はなんと琥珀色だった。ー全然普通ではないではないか!

「わかった!ではそなたは今日から私の弟子だな!今手習いの紙を持ってきてやる!」

そういって陽己は奥の部屋に走り出した。
弟子ができたことにはしゃぎながら。


ーーーー


「あれ、大丈夫ですかね?咲は初対面で二乃子殿にかみつくような面があります。若宮には危険では?」

「まあ、どうせ若宮の護衛が咲なんて一ひねりにしますよ。」

「それはまあそうですね。今日も三人もいますね。あ、傷の手当しますよ。二乃子殿に任せると忘れますからね。」

ばっちり巫覡院の結界にも認証されている護衛がしっかり張り付いていることを陽己は知らない。

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