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9 新米巫覡、空を飛んで一般市民を脅迫する
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二乃子の下に黄色にも茶色にも見える体毛の大きな鳥が飛んできた。
「ドゥ。」
二乃子の使い魔二号のドゥである。
ドゥはカーと鳴くと二乃子の頭上を旋回した。
ドゥが戻ってきたということは、満の方で白いやつが捕まったということだろう。
二乃子は荷物からハンモックのような布を取り出し、ドゥに持たせ、自分はハンモックのように布に座った。
「さあ行こうか。」
そしてドゥが飛び立つ。
二乃子はまだ知らない。翌日、この時の自分の姿が新たな怪奇現象として巫覡院に相談されることを。
ーーーー
「その鳥は二乃子殿の使い魔ですか?」
登場の仕方には度肝を抜いた満もいくらか冷静になり、二乃子に白いやつを渡した。
「はい。ドゥです。…これが白いやつ、ですか。キツネですね。」
白いやつ、もとい白いキツネはすっかりしおれた姿で二乃子の腕の中に納まった。
その体は半透明に透けている。
「これは、霊体ですね。」
「幽霊ということですか?」
「いえ、本体から一部だけ抜け出てきている状態です。本体はおそらく、あの家の中にいるのでしょう。」
これは想像していたより大分面倒くさそうだ。
あの家で動物が虐待されている、みたいな話ですめばいいが。
「行くしかなさそうですね。」
ーーーー
あの家が近づくと心なしかキツネは嬉しそうな様子になった。
そう、そこに連れて行きたかったの!というように。
家の戸を叩くときには興奮は最高潮だった。
「すみませーん。」
満が声をはりあげると、中から迷惑そうに30代の女性が出てきた。
満の砂まみれのぼろぼろの姿と二乃子の巫覡装束を見て眉をひそめる。さらには腕の中のキツネをみて少し目を見開いた。
「こちらのキツネはあなたのお家のものですね。」
「さあ、キツネなんて飼っていないけど。あなたたちは誰?こんな夜に何の用?」
「申し遅れました。私たちは、帝の命を受け市民街一帯の怪奇の調査を行う巫覡院のものです。」
女性が現れて、キツネはおびえたように丸くなった。そして、女性は帝という言葉に露骨に青くなってしまっている。何かやましいことがあるのだろう。
「お宅の中を捜査させていただきます。」
満が二乃子を驚いたように振り返った。二乃子はさらに畳みかける。
「我々は帝の命により本日調査に参りました。捜査の邪魔をなさるならしかるべきところに届け出させていただきます。」
家の奥からなんだなんだと幼子を抱えた男性も出てきた。
「もし、何か怪異にお悩みなのでしたら話は別です。秘密は守り、他言はしません。
今日の機会に我々にご相談ください。」
ーーーー
怪異に悩まされていると言って連れていかれたのは家の倉庫だった。
倉庫には厳重に錠がなされ絶対に中に入れないようになっていた。
それはもちろん、中から外にも出られないということだ。
中には、キツネの耳と尻尾をはやした銀髪の女の子が口をふさがれて、閉じ込められていた。
「これは…獣憑きですね。」
「獣憑きとは?」
「文字通り何らかの原因で獣が憑依した状態のことです。」
両親の言い分はこうだ。
この子は生まれたときからこのように銀髪であったらしい。異様な容姿に両親はこの子を閉じ込めて育てた。
やがて2年前にはついに耳や尻尾まで生えてきておおよそ人の姿ではないと倉庫に閉じ込めて隠した。
下の子は普通に生まれてきたのに…この子にはきっと何か良からぬものが憑いているに違いない。
「では、この子が下のこのような通常の容姿に戻ったら、あなたたちはこの子を普通に育ててくださるのですね?」
そんなことはできないだろう。なによりこの子も嫌だろう。両親も困った顔をして返事はできなかった。
周囲にも内緒にして育ててきた子供。時には暴力までふるっていた子供を今更下の子と同じように愛せるのか。
二乃子は女の子の口をふさいでいた布をとった。
おびえた女の子は二乃子の腕に獣のように噛みついてきた。フーフーと獣のように鼻息が荒い。
ーこれは更生までに時間がかかりそうだ。
女の子が我に返って申し訳なさそうに口を離した。
「君、私と一緒においで。この子は巫覡院で引き取ります。」
「ドゥ。」
二乃子の使い魔二号のドゥである。
ドゥはカーと鳴くと二乃子の頭上を旋回した。
ドゥが戻ってきたということは、満の方で白いやつが捕まったということだろう。
二乃子は荷物からハンモックのような布を取り出し、ドゥに持たせ、自分はハンモックのように布に座った。
「さあ行こうか。」
そしてドゥが飛び立つ。
二乃子はまだ知らない。翌日、この時の自分の姿が新たな怪奇現象として巫覡院に相談されることを。
ーーーー
「その鳥は二乃子殿の使い魔ですか?」
登場の仕方には度肝を抜いた満もいくらか冷静になり、二乃子に白いやつを渡した。
「はい。ドゥです。…これが白いやつ、ですか。キツネですね。」
白いやつ、もとい白いキツネはすっかりしおれた姿で二乃子の腕の中に納まった。
その体は半透明に透けている。
「これは、霊体ですね。」
「幽霊ということですか?」
「いえ、本体から一部だけ抜け出てきている状態です。本体はおそらく、あの家の中にいるのでしょう。」
これは想像していたより大分面倒くさそうだ。
あの家で動物が虐待されている、みたいな話ですめばいいが。
「行くしかなさそうですね。」
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あの家が近づくと心なしかキツネは嬉しそうな様子になった。
そう、そこに連れて行きたかったの!というように。
家の戸を叩くときには興奮は最高潮だった。
「すみませーん。」
満が声をはりあげると、中から迷惑そうに30代の女性が出てきた。
満の砂まみれのぼろぼろの姿と二乃子の巫覡装束を見て眉をひそめる。さらには腕の中のキツネをみて少し目を見開いた。
「こちらのキツネはあなたのお家のものですね。」
「さあ、キツネなんて飼っていないけど。あなたたちは誰?こんな夜に何の用?」
「申し遅れました。私たちは、帝の命を受け市民街一帯の怪奇の調査を行う巫覡院のものです。」
女性が現れて、キツネはおびえたように丸くなった。そして、女性は帝という言葉に露骨に青くなってしまっている。何かやましいことがあるのだろう。
「お宅の中を捜査させていただきます。」
満が二乃子を驚いたように振り返った。二乃子はさらに畳みかける。
「我々は帝の命により本日調査に参りました。捜査の邪魔をなさるならしかるべきところに届け出させていただきます。」
家の奥からなんだなんだと幼子を抱えた男性も出てきた。
「もし、何か怪異にお悩みなのでしたら話は別です。秘密は守り、他言はしません。
今日の機会に我々にご相談ください。」
ーーーー
怪異に悩まされていると言って連れていかれたのは家の倉庫だった。
倉庫には厳重に錠がなされ絶対に中に入れないようになっていた。
それはもちろん、中から外にも出られないということだ。
中には、キツネの耳と尻尾をはやした銀髪の女の子が口をふさがれて、閉じ込められていた。
「これは…獣憑きですね。」
「獣憑きとは?」
「文字通り何らかの原因で獣が憑依した状態のことです。」
両親の言い分はこうだ。
この子は生まれたときからこのように銀髪であったらしい。異様な容姿に両親はこの子を閉じ込めて育てた。
やがて2年前にはついに耳や尻尾まで生えてきておおよそ人の姿ではないと倉庫に閉じ込めて隠した。
下の子は普通に生まれてきたのに…この子にはきっと何か良からぬものが憑いているに違いない。
「では、この子が下のこのような通常の容姿に戻ったら、あなたたちはこの子を普通に育ててくださるのですね?」
そんなことはできないだろう。なによりこの子も嫌だろう。両親も困った顔をして返事はできなかった。
周囲にも内緒にして育ててきた子供。時には暴力までふるっていた子供を今更下の子と同じように愛せるのか。
二乃子は女の子の口をふさいでいた布をとった。
おびえた女の子は二乃子の腕に獣のように噛みついてきた。フーフーと獣のように鼻息が荒い。
ーこれは更生までに時間がかかりそうだ。
女の子が我に返って申し訳なさそうに口を離した。
「君、私と一緒においで。この子は巫覡院で引き取ります。」
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